ファッション
連載 鈴木敏仁のUSリポート

「シーイン」の流通総額10兆円計画に現実味はあるか【鈴木敏仁USリポート】

 アメリカ在住30年の鈴木敏仁氏が、現地のファッション&ビューティの最新ニュースを詳しく解説する連載。今回は世界のアパレル市場で存在感を増している「シーイン(SHEIN)」のアメリカでの動きを報告する。中国企業であるシーインだが、最も売り上げを稼いでいるのはアメリカだ。凄まじい成長ぶりは、アメリカ小売業でも台風の目と言われている。

 越境Eコマースに関するグローバル規模のアンケート調査で、「最後に買った越境EC企業はどこか?」という問いに対して、アマゾンと回答した人は27%、アリエクスプレス(アリババ傘下)が17%で、パンデミック前の2019年と比較するとアマゾンは2ポイント増、アリエクスプレスは3ポイント減だった。10%を超えているのはこの2社だけで、3位以下はEベイ9%(14%から5ポイント減)、ウィッシュ5%(11%から6ポイント減)、シーイン6%、ザランド3%が続いている。

 シーインとザランドは2019年の調査では名前がなかったという。

 国別では、アメリカは10%で、19年の11%、16年の15%から徐々に下降している。一方の中国は30%で突出して強く、19年は36%、16年は26%だったので、短期的には減っているが中期的には増えていることになる。アメリカが減っている理由の一つとしてはドル高が指摘されているが、始まったのは22年からなので中期的な理由の説明にはなっていない。

 カテゴリー別では、アパレルが36%と最も高く、次いで家電と家電アクセサリーが20%、ビューティとパーソナルケアが16%となっている。

※調査の主体はInternational Post Corporation(国際郵便サービス協会)で、対象は39カ国の3万3009人

「ザラ」インディテックスに迫る

 強いのは企業別ではアマゾン、国別では中国、カテゴリー別ではアパレルと、おおよそもともと持っているイメージ通りの調査結果だと思うが、目を引くのはシーインである。19年には名前がなかったことからも分かるようにここ数年急速にシェアを増やしており、ニュースになる頻度が高くなり私自身も情報を目にすることが多くなった。

 驚いたのは、現在の売上高227億ドルを25年までに585億ドルにすることを目標にしていると報じられたことである。投資家に対して開催されたカンファレンスで明らかにして、これをメディアが入手して報道したものだ。

 585億ドルとは130円換算で約7兆6000億円だ。現時点の227億ドルで「ユニクロ」のファーストリテイリングを超えており、「ザラ」インディテックスに次いでアパレル小売業界で世界2位ということになるので、585億ドルという目標がいかに大きいかということが分かるだろう。NRF(全米小売連盟)が昨年公開したグローバル小売企業ランクにあてはめると14位になってしまう。

 この目標が客観的に実現可能な数字なのか、それとも資金調達を意識した投資企業向けの強めの数字なのかは分からない。とりあえずそのぐらいの勢いを持った企業なのだと理解しておきたい。

 また報道では流通総額の目標は昨年から174%増やして2025年に806億ドルにすることだと記されている。10兆円超えである。

 806億ドルから585億ドルを引いた221億ドル、つまり27%がシーインのプラットフォームを利用したサードパーティによる売り上げということになる。カンファレンスではこれからグローバルマーケットプレイスをオープンすると言っているので、それを織り込んだ目標ということになるのだろう。

 アマゾンやアリババが好例だがマーケットプレイスの上手な活用は本業に好影響を与えるのと、中国ECでは標準的なビジネスモデルなので、シーインの参入は当然といえるだろう。

米国でフルフィルメントセンターを増設

 この成長目標を下支えするのがおそらくアメリカ市場だ。シーインのユーザーは150カ国に渡っているらしいが、アメリカが最大で売上全体の4分の1を占めているという。

 競合と比べたときの弱点が宅配日数で、短縮へ向けての米国投資がすでにはじまっている。昨年フルフィルメントセンターを1カ所オープンし、これから2つ(3つという情報も)増やすとされる。宅配日数は公称おおよそ10~15日で、アメリカはおおよそ7~8日かかるのだが、センターがあればこれが3~4日になって競合と互角に勝負できるようになる。

 日本では期間限定の常設店舗をオープンしたようだが、アメリカにはまだない。昨年6月に極めて短期間だがポップアップをサンフランシスコにオープンしており、リアル店舗への進出は時間の問題だろうと思っている。

 今回のメディアの報道は上場を想定しての投資家向けカンファレンスでの発言だが、別の情報によると、昨年の4月の時点で企業評価額は1000億ドルに達していたのだが、金融市場の冷え込みもありそれ以降評価が下がって1月の時点で640億ドルと報じられている。評価減とはいえ、日本円で8兆円規模の上場になるかもしれないということになる。

 低価格帯のディスカウント衣料市場に忽然と台風の目が登場したようだ。今後の動向から目が離せない企業である。

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