ファッション

新生「アン ドゥムルメステール」のデビューショーは、創業者へのラブレター 「アンがやってきたこと全てを今の文脈に置き換え、新しい光を当てることが重要」

 「アン ドゥムルメステール(ANN DEMEULEMEESTER)」は3月4日、ルドヴィック・デ・サン・サーナン(Ludovic de Saint Sernin)新クリエイティブ・ディレクターによる初のショーを開催した。会場は、ひんやりとした空気が漂う、夜の学校の体育館。壁も床のカーペットも、そしてランウエイとして敷かれた木も全て黒でまとめられたブランドらしい空間が広がる。ただ、ショーが始まり、会場に流れたのはインダストリアルテクノ。モデルは足早にランウエイを通り過ぎていく。

 デビューとなる今季、デ・サン・サーナンが表現したのは、創業者アン・ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)へのラブレターだ。それを象徴するのは、黒のファーストルックと白のラストルック。ブランドにとって欠かせない羽根のモチーフをレザーで仕立てたバンドゥートップに、艶やかなシルクを用いたローウエスト&マキシ丈のバイアススカートを合わせている。かつては手紙を書くのに羽根が使われていたことにちなみ、「文字通り、『アン ドゥムルメステール』の新章を書きたいと思った。彼女がやってきたこと全てを今の文脈に置き換え、新しい光を当てること。それこそが重要であり、そのレガシーを受け継ぎつつ、自分もそこに入り込むことだと思う。私は、この素晴らしい旅の新たな作者であり、特別な思いを感じている」と、ショー直後のバックステージで説明した。

 それだけでなく、アーカイブを独自の視点で掘り上げた。クリエイティブ・ディレクター就任時にデ・サン・サーナンは、自らがブランドのアーカイブをまとい、「官能性」「緊張感」「シルエット」「流動性」「ワイルドさ」「グラフィカルな感覚」という今後の方向性を示す6枚の写真を公開。今回のコレクションでは、その時に着用したアーカイブからの着想も多く見られた。例えば、前述のフルイドなスカートは06年春夏、シアリングのネックピースは07-08年秋冬から。ノットでホルターネックを作るデザインは、1995-96年秋冬のレザートップスから引用したものだ。いずれも豊富なアーカイブの中から、自身が身近に感じられる要素をピックアップしたように見える。結果、ランウエイに登場したルックは、ドゥムルメステールのアーカイブから影響を受けていながらも、32歳のデザイナー自身や彼を支持する若いコミュニティーに向けたものという印象が強い。そして、モデルが手を交差させて乳房を隠して歩いたり、えぐったように深いヘンリーネックのカットソーにブリーフを合わせたりというスタイルは、デ・サン・サーナンが自身のブランドでも表現している際どいとも言えるセンシュアリティーにつながる。

 一方、コレクションで際立ったのは、ウールやレザー、ベルベットで仕立てたテーラードスタイル。シャツのカフスがジャケットやコートの袖口からはみ出したスタイルは「アン ドゥムルメステール」らしく、そこに細身のパンツを合わせてジョッキーブーツにインしたスタイルが好印象だ。シャツは、フロントにブランドをシグネチャー要素である長い紐をあしらい、それを蝶結びにして留めるデザイン。デ・サン・セーナンらしいレザーでのアレンジもある。

 全体的に肌の露出が多いコレクションからは秋冬というムードはあまり感じられず、「アン ドゥムルメステール」に期待するレイヤードや巧みな布の表現をもっと見たかったというのが正直なところ。忠誠心の高いファンが多いブランドだけに、これまでの世界観を好む顧客から支持を得るのはなかなか難しいだろう。ただ、このブランドにしては珍しい会場外の人だかりや、デザイナーと会うためにショー後のバックステージに詰めかけた多くの若いゲストの姿を見ると、新たな顧客を開拓できる可能性はありそうだ。

 ショーノートの最後には、「これはイントロや前文のようなもので、これからも(ブランドの新章は)続いていく」と書かれていた。今回は、まだファーストシーズン。創業者の成し遂げてきたことに敬意を抱くデザイナーがこれから創業者やブランドへの理解をさらに深め、若い視点を生かして、より幅広いスタイルを見せてくれることに楽しみにしたい。

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