ファッション

「心が痛い」ステラの理想郷と「LV」のパリらしさを全部のせ 「サカイ」は大胆不敵な構造【2023-24年秋冬パリコレ取材はどこまでもVol.7】

 1週間以上に及ぶパリコレも、いよいよ終わりが見えてきました。本日は、比較的ファッションショーがギッシリ&ミッチリのドタバタデー。なのに一方で最終日の明日行われる予定というパリ市内のストライキに向けて、「車、どうする?」とか「ココからアソコへの移動は、どうなる?」なんて心配事にも向き合わなくちゃ、の1日となりました。

10:00 「ステラ マッカートニー」
サステナビリティーに向き合っても
セクシーや遊び心は忘れません

 底冷えする本日は、「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY)」から。ショーは、7頭の馬の登場で始まりました。馬は、ムチなどを打たずに行動をコントロールするという調教師(と呼んでいいのでしょうか?)によって、厩舎を走ったり、背中を砂につけてゴロゴロしたり、自由奔放にくつろいでるように見えます。モデルは、その脇を通り抜けるのです。

 ステラは、「特に秋冬シーズンは、たくさんのレザーやフェザーが使われて、心を痛めている」そうです。彼女にとっての理想の世界は、このランウエイのようにエシカルなファッションと動物が共存する世界なのでしょう。そこで、今シーズンもキノコ由来の「マイロ」やリンゴ由来の「アップルスキン」、ブドウから生まれる「ベジェア」を使ったバッグ、再生コットンの洋服などをランウエイに送り出します。

 スタイルは、ミリタリーのユニフォームに着想を得ました。オーバーサイズのジャケットにはスリムパンツ、コンパクトなジレにはリラックスシルエットなど、伝統的なチェック柄と抑揚の効いたシルエットのセットアップが続きます。ナポレオンジャケットも登場しました。人類が脈々と受け継いできたビスポークもまた、ステラにはファッションが持続可能になるために必要なのです。そこに加えるのは、フェザーではなく、メタル。インナーにはメタルネックレスを連ねたようなアイテムを選んだり、パンツの脇を抉ってメタルチェーンをあしらったり。フェイクファーのコートには、馬などの動物の模様をのせました。ミニ丈やワンショルダー、スリットを入れたアシンメトリーなスリップドレスなど、地球のことは考えつつもセクシーは忘れない「ステラ」。ドレスの中央にプリントした馬の写真が、今シーズンの象徴です。

11:00 「AZ ファクトリー」
創業デザイナーの
個性が見えなくなっている

 お次は「AZ ファクトリー(AZ FACTORY)」。創業デザイナーのアルベール・エルバス(Alber Elbaz)が亡くなって以降は、若手デザイナーをゲストに迎えてコレクションを発表し続けていますが、今回は「コルヴィル(COLVILLE)」がパートナーです。

 こちらの記事にある通り、「コルヴィル」は、コンスエロ・カスティリオーニ(Consuelo Castiglioni)時代の「マルニ(MARNI)」がお好きな方には、ぜひ覚えていただきたいブランドです。色や柄多用したアーティスティックなムードとアシンメトリーのシルエット、意表を突くレイヤードが真骨頂というイメージでしょうか?

 コレクションは、「コルヴィル」でした(笑)。上述のアプローチで作るドレスが盛りだくさん。「AZ ファクトリー」らしさは、そこにフリルやラッフルをいつもより多めに盛り込んでいたり、マキシ丈でエレガントの度合いを深めていたりするところでしょうか?シルクサテンやベロアなどの上質な素材で縦方向の二重のラッフルを生み出してドレスに仕上げ、共布で作るフレアシルエットのパンツと合わせました。

 私は「コルヴィル」が好きだから満足しましたが、「AZ ファクトリー」らしさってなんだろう?という疑問は浮かびます。比べてしまったのは、同じく毎年ゲストデザイナーを迎えている「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」。こちらの方が、ベースとなっているブランドの個性がしっかり盛り込まれていますよね。

12:00 「ロンシャン」
レジャーとしての競馬場から
カラフルなバッグが続々誕生

 「ロンシャン(LONGCHAMP)」は、朝イチの「ステラ マッカートニー」同様に馬の世界です。イメージしたのは、パリ市内にあるロンシャン競馬場。創業者のジャン・キャスグラン(Jean Cassegrain)が、通勤の際に毎日眺めていた競馬場と言われています。

 今シーズンは、競馬のジョッキーのユニホームを思わせるカラフルな色使い。日本とは趣の異なるレジャーとしての競馬に思いを馳せ、ピクニック気分のアイテムも提案しています。新作バッグの“スマイル”は、半月型のバッグ。その名の通り、ちょっと笑っている唇の形です!

14:40 「ルイ・ヴィトン」
イメージするパリらしさ
全部表現してみました

 さぁ、「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のファッションショーのために、オルセー美術館にやってきました!こんな場所を会場にできちゃうのが「ルイ・ヴィトン」のスゴいところ。入り口でちょっと待っていると、セレブも続々とやってきます。

 そんな中のファッションショーは、パリのエスプリを散りばめた摩訶不思議ワールドです。

 クリエイティブ・ディレクターのニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)は、世界各国から集まるデザインチームと共に、「フレンチ・スタイルってなんだろう?」を考え抜いたと言います。ただ、これだけインターナショナルでダイバーシティな今は、「フレンチ・スタイル」の正解なんて1つじゃないですよね?ある人は、赤と青、そして白のトリコロールカラーを思い浮かべるでしょう。そして別の誰かは、ドレープの効いた美しいドレスを想起するでしょう。社会進出が進んだ女性にパリが真っ先に捧げたジャケットとパンツ、「ファッションの都」を象徴する装飾や刺しゅう、トロンプルイユ(だまし絵)に代表されるアーティスティックな思考、モードを前に推し進める挑戦的なシルエット、そして、そんな国際的な街に集う世界中の人々……。イメージは千差万別です。

 今回の「ルイ・ヴィトン」は、そのすべて飲み込んでしまったかのようです。

 トリコロールカラーのアクセサリーやロゴモチーフ、ドレープを寄せた優美なジャケットやブーツ、レースのドレスを飾るスタッズ、四角錐のパターンやパッドを入れることで体から浮き上がったビスチエドレス、ソックスを履いているヒールを描いたトロンプルイユブーツやパリの看板のような革小物、そして終盤はシノワズリなスタイル。こうしたアイテムが、あらゆる人のパリらしさを叶えます。多様なパリらしさを余すことなく表現できるメガブランド。それがニコラの考える「ルイ・ヴィトン」の目指す未来なのでしょう。

16:00 「サカイ」
ハイブリッドは控えめ
構造はいつもより大胆不敵

 今日は終盤戦にも関わらずファッションショーがいっぱい。次は、日本代表の「サカイ(SACAI)」です。

 ファーストルックは、漆黒のトレンチコートで始まりました。「サカイ」らしく異素材を組み合わせていますが、わずかに模様が確認できるピンストライプのスーツ地と、コットンギャバジンの掛け合わせ。ハイブリッドは、これまでほど大胆ではありません。その後もリブニットとスーツ地、シフォンとフェイクファーなどを掛け合わせますが、いずれも同系色か、ブラックやグレー、ベージュが基調で落ち着いたエレガンスムードが漂います。

 しかし、洋服の構造は大胆不敵です。ボディコンシャスなニットは、脇腹からミニドレスの裾。ホワイトシャツは、反対側の1/3がパターンさえ違うシフォンのブラウス。カスケードラッフルのブラウスの裾はジャケットに変わり、レザーのトップスはフェイクファーに大部分を侵食されてしまったようです。終盤のフリンジニットは荒々しく、新たな美意識を力強く訴えました。いつもよりエレガンスで、洋服の本質を追求する流れを体現していますが、コンサバかつ無難にまとめることはせず、むしろいつもより攻めている印象を受けました。

17:00 「ロク」
こんなオフィスレディがいたら
会社はもっと楽しくなる!

 韓国代表の「ロク(ROKH)」も、エレガンスが基調です。が、こちらはオフィスウエアを荒々しいくらいに解体して再構築。ブラトップや、ブラカップ付きのビスチエなどのトップスにAラインのスカート合わせ、新たなフォーマスウエアを提唱します。オーバーサイズのジャケットにデニム、ハトメ付きのベルトをハーネスのように巻き付けたパンツとプリーツスカートのレイヤード、体にグルグルシフォンを巻きつけたドレスのモデルたちが、最後は一緒になってオフィスでコピーを取ったり、携帯電話でビジネスの交渉をしたり。こんな素敵なスタイルの人たちばかりのオフィスがあったら、さぞかし楽しいことでしょう。

18:00 「セラピアン」
淡いパステルと
モコモコバッグ

 「セラピアン(SERAPIAN)」の展示会では、秋冬なのに鮮やかなパステルカラー、ボアの新作などを拝見しました。

19:00 「ギャラリー・ラファイエット」

 ちょっと時間が空いたので、オペラ座近くの「ギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)」を見学。「ジャック ムス(JACQUEMUS)」のポップアップだらけで、度肝を抜かれました。

19:45 「デュンダス」
往年のイケイケ感は健在
ボディコンのスケスケドレス

 そしてフィナーレは、「デュンダス(DUNDAS)」。私が最初に見たのは、「エマニュエル ウンガロ(EMANUEL UNGARO)」時代。その後は「エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)」「ロベルト カヴァリ(ROBERTO CAVALLI)」と、なんだかイケイケなブランドのデザイナーを歴任しています。

 自身のブランドは、それ以上にイケイケでした。ボディコンシャスなマキシ丈のドレスは、スケスケだし、背中がバックリ割れていてヒモパンもまぁまぁ丸見え。夜のラストショーにはふさわしいのかもしれません(笑)。

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