ファッション

「サカイ」がさらに先に進むために挑んだ、常識にとらわれないエレガンス

 「今までも常識を信じずに突き進んできましたが、これからもっと先に進むために、自分は常識にとらわれずに立ち向かって行こうと思っています。そういう価値観で、コレクションに取り組みました」。

 これは、3月6日にパリ・ファッション・ウィークで2023-24年秋冬コレクションを発表した直後、「サカイ(SACAI)」の阿部千登勢デザイナーが語った言葉だ。今シーズン着目したのは、「Everything in its right place(全てがふさわしい場所にある)」という概念。「一見すると先入観で“あるべき姿”とは異なるように見えても、 全ての人やものにはそれぞれの居場所がある」という考えを探求し、「サカイ」流のエレガンスが際立つコレクションを作り上げた。

 「みんなが考える常識とは違っても、それも美しいということを示したかった」と阿部デザイナーが話すように、今季のカギとなったのは、本来あるべき場所からずらすことで新しいシルエットを生み出すアプローチだ。トレンチコートやテーラードジャケット、シャツ、ドレスを構成する生地を短冊状にスラッシュして重ねることで、片方に寄せたり、上や下にずらしたり。空いた部分に別の生地やアイテムを加え、新しいハイブリッドの形を提案している。段状に重なり合うシャツはティアードトップスのようになり、下半分をスラッシュして重ねたテーラードジャケットはショート丈やクロップド丈に。胸元を飾るボウタイには、ボタンがあしらわれ、シャツの袖で作ったかのようだ。また、ドレスやスカートの片側には、バッグのショルダーストラップのようなものとパッチポケットをプラス。ストラップを肩に掛けてスカートを吊ることで、前面の深いスリットを開き、フォームに変化を生み出している。

 もう一つのポイントは、不完全さに美を見出す表現だ。それを象徴するのは、終盤に連打した“しつけ縫い”の糸を装飾として残したアイテム。「生地をボンディングしたり、中のドレスとハイブリッドするために留めたりするものを、そのまま残した。普通だったら取り去られてしまうけれど、その不完全さも美しいと思う」と説明する。その考えに通じるように、ツイード生地の端はほつれてフリンジになり、ジャケットの中には袖が切り落とされて中の構造があらわになったものもある。

 コロナ禍を経てパリコレに復帰して以来、エレガンスを探求する姿勢が顕著な阿部デザイナーだが、そのアプローチは大胆不敵だ。今季は黒や白、グレーといった落ち着いた色味やクラシックな生地とアイテムを主軸にしていたが、コンサバティブな印象は皆無。現代のエレガンスへの挑戦を印象付けた。

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