幾左田千佳デザイナーが手掛ける「チカ キサダ(CHIKA KISADA)」が13日、約6年ぶりに東京ファッション・ウイークの舞台に戻ってきた。「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」冠スポンサーの楽天による支援プロジェクト「バイアール(by R)」のサポートの下、最新の2023-24年秋冬コレクションを披露。元バレエダンサーの経歴を持つ幾左田デザイナーが目指したのは、“ブランドのアイデンティティを凝縮した、舞台のようなショー”。そこには、コンセプトとして掲げてきた“バレエのエレガンスとパンクの生命力”をはじめ、幾左田デザイナーの妥協のないモノ作りの姿勢や、バレエダンサーと舞台芸術に携わる人々への愛とリスペクトが詰まっていた。
大きなターニングポイント
夢の舞台から地続きのショー
会場は恵比寿のザ・ガーデンホール。ここは、幾左田デザイナーが長年の夢だったバレエの衣装デザインを手掛けるという夢を叶えた特別な場所で、昨年行われたガラ公演「バレエ ザニュークラシック(BALLET TheNewClassic)」の開催地だった。「ダンサーたちのストイックな体に向き合うという経験は財産となり、大きなターニングポイントになった。(『チカ キサダ」の服は)日常着でありながら、余韻のある服を追求している。今回は衣装を制作したところから地続きのような感覚でショーに取り組んだ」と幾左田デザイナーは話す。
ジェンダーを超越する美しさを持つ
バレエダンサー、二山治雄の存在
ショーには、同ガラ公演にも出演し、幾左田デザイナーにインスピレーションを与えているという二山治雄を起用した。二山は若手バレエダンサーの登竜門である「ローザンヌ国際バレエコンクール」で優勝し、パリ・オペラ座の契約団員を経験。帰国後も高い跳躍力と技巧、中性的な美しさで観客を魅了する若きバレエダンサーだ。白いカーペットを敷いたシンプルなランウエイで、二山が床に寝そべりながらストレッチをし、バレエシューズを履くシーンからスタート。美しい所作や肉体、しなやかな動きと、驚きの柔軟性を見せる。幾左田デザイナーは二山から「性別を超えたところに存在する美しさを学ぶことが多い」という。「ダンスで体現する芸術をファッションに結びつけようと考えたとき、彼が洋服をまとって表現する芸術が今季のヒントになった」。
儚くも力強さがある
霧を描いた幻想的なドレス
「チカ キサダ」のコレクションは、幾左田デザイナーの心に響いた言葉を編んだポエムから始まる。今季のタイトルは“霧の花”。幻想的な情景で、ダンサーの感情を綴ったこの詩から生まれた衣服は、淡く儚げでありながら、力強さもある。ベージュやモーヴなどのスモーキーカラーのチュールドレスや、チュールで覆ったコートは、霧でぼやけたような優美な輪郭を描く。
今季のキーワードになったのは、“マスキュリン、フェミニン、センシュアル”。テーラードジャケットを合わせたボーンドレスや、デニムのセットアップなどは、二山の中性的な美しさやストイックな姿勢ともリンクする。磨かれた肉体の美しさや色気を、ドラマチックに包み込んだ。
「チカ キサダ」の表現する舞台芸術
ショー中は、ダンスに加え、オリジナルの音楽も臨場感を与えた。霧がかったように見えるシアーカーテン越しで二山が舞い、ヴァイオリンとチェロの演奏者、ソプラノ歌手がパフォーマンスを披露。ときに歌手の息遣いまで感じさせる生演奏は、切迫するような緊張感があった。ラストには、二山がカーテンの隙間から姿を見せると高速スピンの後に高く舞い上がり、一帯は暗転する。 「ブラボー!」の声が上がり、幾左田デザイナーがあいさつに現れると、観客からの大きな拍手と共に幕を閉じた。
今回ショーは、まさに「チカ キサダ」が表現する舞台芸術。美しさを突き詰めた妥協のない姿勢は、人々を感動させるエネルギーに溢れていた。