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武蔵野美術大学がデザイン教育をビジネスや政策に適応 課題解決を実践する力を養う

 デザイン教育が大きく変わろうとしている。世界の有力校ではすでにビジネスや政策に適応したデザイン教育が始まり、大学と企業や行政組織などと課題解決に取り組む。日本でもさまざまな大学でその試みが始まっている。武蔵野美術大学は2019年、課題解決を実践する総合力を身につけることを目的にしたクリエイティブイノベーション学科を新設、今年一期生が卒業する。「『創造的思考力』を実社会で応用する方法を学ぶ、新たな美術大学としての試みの場」として東京・市ヶ谷にキャンパスを構える。企業・自治体・政府機関と連携したプロジェクトを実践し、それらを支える先端専門教育を通して、自身の視点でビジョンを見いだすことを目指す。入試に実技がないのも特徴だ。これからのデザイナー像とは?どのような人材を育てていくのか?同学科で教鞭をとる岩嵜博論・教授に聞く。

WWD:ビジネスデザイナーやストラテジックデザイナーという肩書きは日本ではまだまだ聞きなれない。その岩嵜さんが教鞭をとる意図は?

岩嵜博論教授(以下、岩嵜):ビジネスデザインはデザインの方法論でビジネスを考えて実行すること。ストラテジックデザインの考え方も、デザインの方法論をビジネスやソーシャル・イノベーション、政策のために用いている。

 狭義のデザインは造形中心のデザインで、今も大切だしこれからも大切。僕は広義のデザインに取り組んでいる。日本では構想や設計という概念で考えられている。領域横断型になり、例えばサービスデザインやデザイン思考なども含まれる。デザインの方法論が一番使いやすかったのがビジネスで、その次に社会、そして政策に広がっている。

WWD:デザインの領域が拡張する中で、これからのデザイン教育とは?

岩嵜:領域特化型の専門的なデザイン教育はこれからも必要だが、領域特化型でも、デザインリサーチの部分を増やすことが大切になるだろう。もちろんすでに行っているところも多いが、思い付きやインスピレーションだけでモノを作るのではなく、リサーチに基づいたデザインを行うことが必要だ。リサーチすると自ずと戦略性が生まれるから。リサーチによって方向性が示され、どの方向性にするかが戦略になり、その戦略に基づいた造形を作るという具合だ。

 もう一つ大切なのは領域横断性、いろんな人たちとコラボレーションすることだ。今までと異なるデザインアプローチとしてはチームによるデザイン活動がある。例えばデザインコンサルタント会社アイディオ(IDEO)は特定のデザイナーの名前を積極的に出さない。チームで作ることを重視していて、誰かが偉いとか誰かがクリエイティブをリードしているとはいわずに施行している。

WWD:これからのデザイナー像とは?

岩嵜:デザイナーの職能にファシリテーターが求められるだろう。人と人、組織と組織、領域と領域の間を媒介できる人が未来のデザイナー像にはある。孤高の作家みたいなパーソナリティではなく、ファシリテーターとしてのデザイナー像、そしてアクティビストとしてのデザイナー像はあると思う。

WWD:クリエイティブイノベーション学科は武蔵野美術大学のキャンパスがある小平ではなく、東京・市ヶ谷に新設された。

岩嵜:CBSソニーが入っていた通称“黒ビル”を大学として取得し、市ヶ谷キャンパスとして2019年に新設した。ニューヨークのパーソンズやロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートなど都心にキャンパスを構え、社会と接点を持ちながら、総合的に領域横断型のデザイン教育を行う学校が世界中にあるが、東京にはなかった。それを武蔵野美術大学が作った。

 これまで培ったクリエイティブ教育を行い、社会に影響を与える活動家を育成することを目的に、新たな学部として造形構想学部を新設。そこに学部のクリエイティブイノベーション学科を作った。同学科は入試で実技試験を課していないので、一般大学を検討していた学生も含めた多様な学生が集まっている。学部と同時に大学院修士課程のクリエイティブリーダーシップコースも開設し、博士課程も設置した。大学院は夜に授業を行っているので社会人の学生も多い。

 ソーシャルクリエイティブ研究所という研究機関も併設し、企業との共同研究も行っている。学部・大学院・研究所が一つの市ヶ谷キャンパスに集結している。美術大学の教育・研究組織としては新しい取り組みだと思う。

WWD:大学に移る前は長く博報堂にいたが、領域が異なるように感じる。

岩嵜:キャンパスに行った瞬間に大学がやりたいことが伝わってきて共感したからだ。僕の中ではリサーチと実践はつながっていて、博報堂にいたときからリサーチもしていた。博報堂には同じような思考の仲間がいて、大半は外にいて活躍しているが、当時は、皆、博士課程に行っていたり、研究していたり、本を書いていたりしていた。そういう環境が当たり前のようにあった。僕自身は06年にデザイン思考に出合い、博報堂時代にイリノイ工科大学のデザインスクールに留学、その後京都大学の博士課程を修了した。

WWD:リサーチと教育、実務をどのように考えているか?

岩嵜:実務と教育・リサーチをつなげていきたいと考えている。アイディオをはじめとした世界のデザインファームや、フィンランドのデジタルデザイン会社と領域を横断する方法で仕事をしてきた経験から、デザインがビジネスに貢献できると実感した。さらに、世界がより複雑化したことで、領域横断的なアプローチがさらに有効になってきている。社会課題も一本足打法だと弱いので、いろんな領域を束ねて課題解決を目指すことが大切になっている。博報堂時代はリサーチ3、実務7の比率だったのが、今はちょうど逆転。教育とリサーチに起点を起きながらビジネスデザイナーとしての実務も行っている。

 大学では、社会実装という言葉を大事にしている。美大はきれいなものを作ることを目指しがちだけど、どんなにラフなものでもいいから行動することを、小さな実装でもいいから、何かを社会に定着させることを働きかけることを大事にしている。

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