デジタル化が進む過程で、トレンドやコミュニティーは細分化と同時に短命化する傾向にあり、ファッションビジネスに求められるものも大きく変わっている。ファッション、そしてビューティ領域に特化したグループである、ワールド・モード・ホールディングス(以下、WMH)ではこれからのファッションビジネスをどう考えているのか。WMHの小西聡常務取締役が、ファッションと日本文化に精通するロバート キャンベルを迎え語り合った。
社会背景から読み解く
ファッションビジネスの現在地
WWDJAPAN(以下、WWD):WMHはファッションビジネスを支えるため、長い間業界と向き合っている。近年のファッションビジネスをどう捉えている?
小西聡WMH常務取締役(以下、小西):今は地政学的混乱も影響し、社会のイデオロギーが揺らぎ、ファッションの方向性も変わっていくのでは?という予感を持っている。ファッションは、社会的基盤と切り離すことができない。かつて明確だった価値のヒエラルキー(終身雇用や年功序列等)は、バブル崩壊後に崩れた。さらにデジタルの進展の過程で価値の微分化、短命化が進んだ。価値とも呼べない気分のようなものがSNS上で日々膨大にやり取りされている。このような中でブランドを成立させることが難しくなっている。
2000年頃には、アメリカ的な価値観の行き詰まりが始まる一方、市場は地球規模で拡大を続けた。大資本を背景にしたマスブランドの力が相対的に強くなっている。
ファッションは芸術や文化、経済性が渾然一体としたものだと思うが、経済的要素が前面に出すぎると創造性が退行する。もう一度、本来ファッションが持つ、先端性、前衛性、創造性をとり戻すことが大切ではないかと思う。
WWD:ラグジュアリーとマス・ファストファッションに二極化し、資本力が乏しいアップカミングな人々でも活躍できる両者の中間のフィールドが失われている。
ロバート キャンベル(以下、キャンベル):個人の価値観はファストファッションと超ハイブランドの間にある“真ん中”を基点に、年齢やステイタス、ライフイベントに合わせてアップデートしたり築き上げたりしていくものであるが、“真ん中”がないとそれができないのではないかと思う。
ヨーロッパでの戦争や、アメリカにおける民主主義的なぐらつきは、同じ社会現象を見ても人々が同じように認識できない認知能力の分裂を示していて、それはファッションにかなり反映されているように感じる。
小西さんが言う、価値のヒエラルキー、憧れの構造体の崩壊についても同意だ。デジタルの発展により人々の選択肢が無数に広がった。現代は、それまで自己表現もできなかった人々が自分のアイデンティティーを自ら総合的に組み立ててゆく時代だ。
WWD:ファッションをビジネスの側面から見れば、利益を出す経済性、サステナビリティやダイバーシティーといった社会性はもちろん、“自分たちが何をしたいのか”という内発性が一番重要だ。ブランドやクリエイターがこの内発性にフォーカスするうえで、WMHのように多方面からファッション業界をサポートしていく存在は大きな意味を持つ。彼らが経済性や社会性を学ぶ環境を提供し、本来一番大事な内発性にフォーカスできる体制を整えて欲しい。
小西:ブランドが「定見」を持ちにくい世の中になった。かつては、もっとブランド側から社会に発信するテーゼを探っていたように思う。例えば、60年代のPOPカルチャーの時代、80年代のポストモダンの時代。WMHは個々のクリエイターが世に出したいものをビジネスの仕組みの面で支えていきたいと思っている。そうしてブランドから社会に新しい価値観や方向性を発信するお手伝いをできればと思う。
キャンベル:軸が建ちにくい時代というのは、すぐそばにチャンスがある時代でもあるとも言える。自分が関わっているラジオ局では70年代の名曲から最新のヒット曲をまぜこぜにして放送している。それを若い世代は、ひとつの気分として捉えていて、古い、新しいという区別はない。組み合わせて、崩して合わせる行為が新しさという価値を持つ。
昨年12月に私は茶道の道具についての本を出したが、茶の湯の道具というものは、例えば千利休が好んだということが価値になる。オーガナイザーとしての役割を果たす利休を中心に、器物や掛け軸といった、さまざまな要素で構成される価値体系が生まれる。
TikTokやインスタグラムなどのSNSで面白いと感じる投稿がある。ファッションだけを投稿するのではなく、メイクやダンスと渾然一体となったものとして表現しているものがバズる。いくつものベクトルが同時に存在するコンテンツが評価されている。
エステティック(審美)やカッコいいと感じさせる気分、価値の呼応、共振など、自分の才覚や仲間、良いものに行き着くための自分だけの道がそれぞれにある。チョイスに対して何かを感じ、表現することにこだわり、そのこだわりに気付く感覚が今の若い人にはある。
WMHはグループ各社が異なる機能を持ち、顧客課題に合わせて、単体でまたは連携してふさわしいサービスを提供している。さまざまな構成要素を持ち、いくつものベクトルが同時に存在するという点で、似たものを感じる。
小西:価値のカオスから再構築するところに、むしろ面白さやチャンスがあるということだろうか。日本には伝統的に西洋的な「善と悪」や「神と悪魔」という二元論的なものの捉え方はせず、混沌としたものを総体として捉える文化がある。雑然とした関係につながりを見出し、新しい価値を生み出す創造性を持っている。冒頭で述べた社会基盤が崩れて方向性が見えにくいという現在の状況は、ある意味で危機的とも考えられるが、混沌とした中から日本的なクリエイションを紡ぎだす好機かもしれない。
WWD:個人が好きなように表現できることを良しとする消費者が増えるとしたら、WMHのようにさまざまな法人を持ち、さまざまな形で支えられる存在は、これからのブランドにとってかけがえのないものだ。
小西:人材、教育、店舗、マーケティング、IT、空間デザイン、海外支援などの事業ネットワークをさらに広げ、お客さま、お取引先、クリエイター、各種専門家の方々の橋渡しをしながら新しい社会的価値を創造していきたい。同時に経営面をサポートしながら、事業体の革新性の中心になるクリエイターを支える。この両面をやっていきたいと考えている。
消費者に寄り添い過ぎない
ブランドを創造
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小西:経営的側面で言えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)やCX(カスタマーエクスペリエンス)などの言葉先行ではなく、バリューチェーン全体の経営システムをデジタル起点で再構築する地道で継続的な経営変革が本来は求められる。
また、クリエイションの観点から言えば、市場や消費者に過剰におもねらない主張のあるブランド作りに寄与したいと思う。売らんがために市場に受け入れられることに目を向けすぎると、ブランドとして成立しなくなってしまう危険性がある。
キャンベル:テレビ業界でもまったく同じことが起きている。想定しているマーケットに寄り添うコンテンツばかりを作り、結果として面白くないと人が離れてしまう。
バブル崩壊後、消費傾向はどんどん目減りしている。10代から30代の消費者は、クルマや飲食やファッションに張り込んでも、ペイバックがないと考えている。
一方、コロナショックで海外の宝飾ブランドが非常に好調だったというトピックもある。特に女性が、外向きの消費ではなく自分自身のために価値のある宝飾を手に入れようとした。持続的かどうかはさておき、高度経済とは違う、ひとつの新しい消費行動が生まれていた。過去や現状を意識しながら価値の再構築をしていくことが求められている。
小西:需要を探すのではなく、需要を作るというマーケットクリエイション的な視点は、これから重要だと考えている。クライアントの課題解決とともに、クライアントのリソースから新しい展開を図るというお手伝いができれば、非常に光栄だ。デザイン面における創造性と同じように、経営革新における創造性も社会にエネルギーを与える大きな要素だ。
キャンベル:東京の立川駅前に多くの土地を持っている企業があり、その企業が主体で新しい街区が完成した。温泉を掘り、インフィニティープールがあるホテルを作り、市民が集えるホールを作り、商業施設がある。そのテナントはほとんど西東京の中規模な企業で、地域ですごく愛されて面白いことをしているものに限っている。キャンプが盛んな地域だが、著名ブランドが入るのではなく、西東京で面白いキャンプグッズを作っている若い人が店を構え、そしてその街区は人をひきつけものすごく成功している。
デベロッパー主体でありがちな商業施設をいくつも作るのではなく、その土地に根ざした人々をマトリックスのようにつなぎ合わせて訴求力のあるものに仕上げてゆく。たくさんのノード(個)が集まり、集合体になったときに新しいものが生まれるような存在を作っていく。ブランドというよりもラボのようなものがこれからの未来に必要なのではないか。
小西:日本には、商社という特殊なビジネス形態を生みだし、高度経済成長のけん引役を担ったという歴史がある。異質なものを融合させ、事業をオーガナイズしていくという独自の文化は日本の強みでもある。ファッション・ビューティに特化した私共のネットワークを駆使し、オーガナイザーとして新しいものを生み出していきたい。
キャンベルさんとの対話により、異質なものも受け入れつつ、混沌とした中から新しい価値を創造していくという日本的なクリエイション、ネットワークの中でアメーバのようにふるまいながら新しい価値を創造していくという可能性に目を開かせていただいた。良い意味で消費者の期待の範囲を超え、そこに消費者が自らの思いを載せていけるようなストーリー性のあるブランド作りをお手伝いしたい。心が躍る世界観を提示できるクリエイターとともに歩むことがファッションの未来につながる、そんなビジョンをあらためて持つことができた。
ワールド・モード・
ホールディングスとは?
ワールド・モード・ホールディングスは、専門性や教育力を強みとする人材サービスの「iDA」、研修や店舗メソッドを提供する「ブラッシュ」、広告やSNS、ECなどを自在に組み合わせクライアントの課題解決を目指す「AIAD」、顧客とのタッチポイントに点在するデータをテクノロジーを使い分析し中長期的戦略を提供する「AIAD LAB」、接客スキルの高い販売員らが店舗運営を代行する「フォーアンビション」、コンサルティングから施工までVM領域のあらゆるサービスと教育にも力を注ぐ「ヴィジュアル・マーチャンダイジング・スタジオ」の国内6事業会社で構成。そしてシンガポール、オーストラリア、台湾、ベトナム、マレーシアの海外5カ国の拠点を有する。各社の高い専門性と連携を生かして、ファッション・ビューティ業界を専門に、クライアントの課題に応じた実効性の高いソリューションを提供するグループで、2022年に設立から10周年を迎えた。
グループ一丸となって業界のサステナビリティへの貢献を目指し、販売員を対象としたウェビナー開催など、業界全体の発展を支えるための活動にも取り組んでいる。
社長が語るこれからのWMH
“人とサービスの
プラットフォーム”へ
WMHグループが誕生してから10年が経つ。父が創業し二代目のバトンを受けた人材サービスの会社に研修会社を加え、その後マーケティングや店舗開発・運営など、様々な分野の事業会社や専門性の高いプロフェッショナルとの縁に恵まれ、WMHは現在国内に6事業会社と海外に5拠点を持ち、総合ソリューショングループとして活動している。
取り巻く環境は複雑化している。局所的な対応では本質的な課題解決は難しい。現在の主要なトピックは、デジタル対応の推進とリアル店舗での体験との融合、IT投資による生産性や在庫効率の向上、海外からの消費者と働き手の獲得、海外への事業展開、そしてサステナビリティへの対応の推進など、部門横断的に取り組むべき課題が増加している。WMHグループ各社が単一のサービスを提供するだけでなく、グループ内の連携をより活発にして複数の選択肢を用意する、あるいは必要に応じサービスを融合することが実効性を高める。多角的な視点でクライアントの本質的な課題を解決する姿勢が今後求められると感じている。
ファッションの仕事は人生に豊かさを提供する。人の心を動かす心のこもった対応や創造性の創出は、機械にはできない人間のみが可能な仕事だ。転換期を迎えているファッション業界の変革にも、人の情熱が必須。WMHグループは人の成長と専門性の高いソリューションによって付加価値を生み出し、ファッション業界を盛り上げ、さらに魅力的な人材を多く業界に集めるといった好循環に貢献する。海外展開についても本部機能を増強し、まずアジア太平洋地域で存在感を示せるよう成長を加速する。世界中のファッション市場や地域社会の発展に貢献し、日本と各国でさらに人と企業が行き来し、持続的に成長する未来を実現する。
働き手の不足について相談が多く寄せられている。弊社の人材サービスにて鋭意対応することはもちろん、多くの働き手を惹きつける魅力的な業界になるよう業界全体が協力し合い課題解決していきたいと考える。さらに企業間連携や業界横断的な活動にも積極的に取り組む。
次の10年では、世界中のパートナーやコミュニティーと繋がり、”第二創業”の意気込みで、業界の持続的な発展を支える“人とサービスのプラットフォーム”を目指す。そして業界中の人々とともに、ファッションの力で世界の人々を豊かにしていきたい。
「ファッションの現場から発信するサステナビリティ
~ポストコロナにおける業界の変化を知り、行動する~」
登壇者:向千鶴「WWDJAPAN」編集統括サステナビリティ・ディレクター 、山内秀樹WMHサステナビリティ顧問
視聴期間:4月30日まで視聴可能
費用:無料
視聴先:ワールド・モード・ホールディングス オフィシャルサイト〈SUSTAINABILITY〉コンテンツのArchive
PHOTOS : KAZUSHI TOYOTA
ワールド・モード・ホールディングス
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