ファッション

「アンスクリア」が初のショーでも貫いたこと 「すべてはファンのために」

 岡ゆみかデザイナーによる「アンスクリア(INSCRIRE)」は17日、「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で2023-24年秋冬コレクションを披露した。「東京ファッションアワード 2022(TOKYO FASHION AWARD 2022以下、TFA)」受賞で実現した、ブランド初のショーだ。

アワードの目的はビジネスの成長

 岡デザイナーは17年に「アンスクリア」を立ち上げた。過去には「ネペンテス(NEPENTHES)」「ドゥーズィエム クラス(DEUXIEME CLASSE)」「ドゥロワー(DRAWER)」で、デザイナーやバイヤー、MDなど幅広い職種を経験しており、マーケットの動向を捉えるビジネス感覚と、トレンドを盛り込む商品企画力が強みだ。「アンスクリア」でもその才能を発揮し、デビューシーズンの17-18年秋冬コレクションはいきなり30以上のアカウントとの取り引きが決まった。現在は約50アカウントの卸先を有し、「ビームス(BEAMS)」「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」「エストネーション(ESTNATION)」「ザ・トーキョー(THE TOKYO)」などの大手セレクトショップを網羅している。

 「東京ファッションアワード」に挑戦した理由は、海外市場に本腰を入れるためだった。同アワードは、パリ・ファッション・ウイーク期間中に現地での展示会を2シーズンに渡って支援するのが特徴で、海外アカウントが少ない同ブランドにとってはチャンスである。過去にもパリで展示会を行い、ショールームに置いてもらっていたこともあったが、コロナで海外出展は中止していた。

 アワード受賞により実現した3月の展示会では、デザイナー自身は現地に行かなかったものの、ひさしぶりにブランドを手に取れて喜ぶバイヤーや、好感触な店舗もあったという。「すぐに売りにはつながらないかもしれないけど、確実に意義はある。挑戦してよかったです」。

前向きじゃなかったファッションショー
ファンへの感謝を示す場所に

 一方で、「TFA」がパリでの展示会と共に支援する東コレでのファッションショーには、あまり前向きではなかった。「ブランドに強いメッセージがあるわけでもないし、クリエイションに振り切ってもいない。ショーをやるブランドではないと、戸惑いもありました」。それでも挑戦する意思を固めたのは、顧客や店への感謝を示すため。「ウチは直営店もなく、ブランドの世界観に浸れる場所がない。このショーが、ブランドを楽しんでもらう場所になればうれしいです」。

 会場は渋谷ヒカリエのイベントスペース。黒いカーテンで会場を半分に制限し、30メートルほどのランウエイを設置した。ブランドのファンに楽しんでもらうため、一般客150人も招待した。

いつもと同じ「アンスクリア」
初めて共有した世界観

 ショーでは、岡デザイナー自らが組み上げた48ルックを披露した。ショーピースやコレクションを意識した強いアイテムはない。テーラードジャケットやデニムパンツ、ニット、トラックパンツなど、これまで通りの「アンスクリア」を貫いた。

 シーズンテーマは“トランスフォーム”。ワードローブに加えると、いつもよりちょっとおしゃれで、気分が高まる。そんな思いを込めたコレクションだ。このテーマを象徴するのが、レイヤードに使ったアイテム。袖をカットオフしたテーラードジャケットや襟口と身頃のみのコート、クロップド丈のワークジャケット、ベルト付きのミニスカートやバラクラバなど、ベーシックなスタイルに新鮮味を加えるアイテムを豊富にそろえた。定番のジーンズも多く取り入れ、中盤にはテーパードシルエットとワイドシルエット、前後でウオッシュを変えたものを3ルック連続で見せて、デニムへの自信とバリエーションを伝えた。カラーはオレンジやブラウン、カーキなど温かみのあるものをベースに、パープルやレッド、グリーンなどをアクセントにした。柄は無地を中心に、エスニックなムードのボーダーやペイズリー、クラシカルなピンストライプなどを使った。ラストルックではチェックのリバーシブルコートを裏側で着用し、ブランドロゴを印象付けた。

 会場を後にするファンたちは、「ショーってこんな感じなんだね」「デザイナーさん初めて見た!」「あの見せ方おもしろかった」などポジティブな感想を述べ合っていた。等身大なコレクションは、ファッションショー向きではないのかもしれない。それでもブランドの世界観を伝え、ファンとのつながりを再認識するには、意義のあるものだった。

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