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バズ消費に変化の兆し 不安感がもたらす「リスク回避」傾向

 最近、美容の世界で「バズ」のあり方に変化が見られるという。これまでのように、著名人の発言から一気に拡散するのではなく、ジワジワと情報が広がり長期に渡って継続する「バズ」だ。このような現象が生まれる背景を、生活者の意識やスマートフォンの影響を含め、アイスタイルの西原羽衣子リサーチプランナーに聞いた。

発信元が分からない「謎のバズ」が増加中

 「最近、発信元が分からない謎のトレンドが増えているんです」と話すのは、アットコスメの口コミからトレンド分析を行う西原リサーチプランナーだ。特に2022年は、この傾向が顕著であったという。「大前提として、現在も“バズった商品”に対する関心は高い状態です。アットコスメ内でも“バズ”というワードの出現率は年々高まり、22年度は前年度比の1.8倍と伸長。『SNSでバズった化粧品を購入したいと思いますか?』という問いに対して、『そう思う』と回答した人は64%。特に若年層でこの傾向が高く、10代は84%、20代では76%にのぼりました」という。

高まり続けるバズ商品への注目

 これまで「バズった商品」といえば、芸能人やインフルエンサーなど、発言力のある個人から拡散されるケースが多かったのではないだろうか。ところが昨年来増えているのは、起点を探っても「明確に分からないバズ」だ。「特定の著名人やインフルエンサーにはたどりつけず、発信元は一般人であり、しかも『恐らくこのSNSなのでは?』と、確信が持てないバズが増加しています。そんな新しいタイプのバズの代表例が、アットコスメの22年下半期ベストコスメアワードを受賞した『オルビス(ORBIS)』の“エッセンスイン ヘア ミルク”でしょう」と話す。

 同商品が登場したのは11年と、今から10年以上も前のこと。過去にも口コミは一定数あったものの、20年頃よりジワジワ増え続け、22年には1000件近くまで飛躍的に増加した。「アットコスメの口コミは発売時に最も集中し、その後右肩下がりになるケースが目立ちます。『すでにたくさんある情報を書き込んでも仕方ない』という心理の現れですね。『オルビス』のように、右肩上がりで増加するケースはまれです」と分析する。

「オルビス」“エッセンスインヘアミルク”口コミ件数推移

 「オルビス」に問い合わせたところ、近年において同商品への特別なプロモーションは行っていないという。アイスタイルは追跡調査の結果、個人が発信したSNSが口コミ増加のきっかけではないかと推測している。もしそうならば、企業の広告ではなく、インフルエンサー発信でもない、いち個人の発言をきっかけに10年以上も前の商品がベストコスメを受賞したことになる。

一気ではなく「ジワジワくる」「長期に渡り続く」

 前述のような「新しいバズ」の傾向として、西原リサーチプランナーは、①「発火点があるのではなく、ジワジワと拡散する」、②「一過性ではなく、長期に渡ってバズり続ける」をあげる。「前者の代表例が『オルビス』のヘアミルクだとしたら、後者の代表は「ケイト(KATE)」の“リップモンスター”です。発売から1年以上口コミの勢いが全く衰えず、さらに口コミ中でバズというワードが最も使われたのもこの商品でした」。

 発売直後は一時欠品が続き、希少性が話題になったこともあった。しかしその後は、「定期的にミニサイズやシーズン限定色を発売するなど、自然に情報が拡散するような企業側の取り組みもありました」と、西原リサーチプランナーは話す。「今から10年以上前は、このように“企業が広く広告した商品”の情報しか生活者に届かない状況でした。しかし現在は、スマホの“カスタマイズ機能”によって情報へのアクセス法が変化し、注目される商品にも影響していると感じます」。

スマホの中は、誰もが自分だけの「マイバズ」状態

 私たちのスマホは、検索や閲覧履歴によってカスタマイズされ、その人が興味を持ちそうな情報が自動的に流れてくる。「見ている世界は個人によって違い、その人のスマホの中ではバズっているけど、世の中的にはそうでもないという“マイバズ状態”が発生しやすいんです。少なくとも、検索ワードを入れると類似の情報への接触が増えるため、個人のSNSやブログにもアクセスしやすくなります」。

 ちなみに、バズの起点となる個人のSNSには「共感ワード」が多いのも特徴だという。前述した「オルビス」でいうと、「ブリーチで髪が傷んでいる」「ヘアオイルを使っていたけれど、ミルクを使ってみたら乾燥が減った」などだ。個々の小さな悩みに共感を呼ぶことで、読まれやすくなる。

 「『オルビス』の拡散で興味深かったのは、今のオイル全盛時代を知るZ世代には、一周回ってヘアミルクが新鮮であったことです。“オイルを使うとスマホをすぐに触れないけど、ミルクは大丈夫、髪もしっとりしていいじゃん”という流れで、共感を呼んだ形ですね。発言力のあるインフルエンサーとは違った側面で、このような小さな共感を得るSNSは、今後も読まれやすいのではないかと思います」。

不安な世相を象徴する「バズ」の現状
新商品より「ロングセラー」が注目される理由

 新しいバズの3つめの特徴として、「新商品ではなく、長年販売されている」ことも挙げられる。前述のZ世代のような「一周回って新しい」こともあるが、西原リサーチプランナーは「最大の理由は、不安な世相の影響ではないか」と分析する。「先行き不透明な時代の中で、“失敗したくない” “間違いのないものを選びたい”という意識の高まりを感じます。これまで、バズるコスメは“流行に乗りたい人たちが選ぶもの”と思っていたのですが、最新のユーザー調査では、正反対の保守的な傾向が浮かび上がりました」。

バズる化粧品を選ぶ理由は「流行」ではなく「リスク回避」

 バズった化粧品を選ぶ理由の1位は、「情報収集の手間や時間が省ける」が52%、2位は「誰かのお墨付きという安心感がある」が51%、3位は「失敗が少ない」が47%と続き、いずれも半数近くの人が回答している。時間を節約してよいものを手に入れたい「タイパ(タイムパフォーマンス)発想」や、失敗を避けたい「リスク回避」の傾向が見てとれる。

 「ロングセラーがバズりやすいかというと、一概にそうともいえません。注目されるきっかけとして、処方の進化など“新しい情報”が必要なんですね。その一方で、バズった新しい情報を介して、結局オリジナルの商品が注目されるという、原点回帰の傾向も見られます」。

 代表例は「ナーズ(NARS)」の“ライトリフレクティングセッティングパウダー プレスト N 5894”だ。昨年ルースタイプが登場したのをきっかけに、13年発売のプレストタイプへの口コミは、前年度の2.4倍に増加。また、フェムテックへの注目度が高まる中で「コラージュ(COLLAGE)」の“フルフル泡石鹸”に対する口コミが、シリーズ全体で前年度の1.5倍に増加している。ちなみに22年のアットコスメのベストコスメアワード受賞商品には、発売から5年以上経過したものがなんと61商品も含まれ、それらの口コミ件数は平均1.4倍に増加したという。

仕掛けないからこそバズる
一方で「公式」の重要性も上昇

 新商品にせよ、ロングセラーにせよ、注目されるきっかけとしてどうやら「バズ」は必須らしい。企業のプロモーション含めSNSで話題になった商品は、アットコスメにおける閲覧数も多い。バズを通して得た情報が本当にそうなのか、不特定多数の口コミを確認するためだ。「生活者が今、最も重視しているのは『リアルな声か否か』です。誰かに言わされている情報に関して、とても敏感なんですね。企業側が仕掛けたのではなく、あえて“自分たちが発掘した情報”だからこそ、価値を見出す側面もあります」。

 「仕掛けないからこそバズる」という言葉には、いち生活者として共感する次第だが、一方で広告戦略が大変な時代になるのでは……とも感じてしまった。しかし、西原リサーチプランナーは「企業にしかできないことも存在する」と断言する。「近年、“公式”というワードの出現率が増加しているんです。5年前に比べて約3倍にも伸長し、“公式で色を確認しました” “公式の情報によると”などの文脈で使われます。公式という言葉が注目される理由は、それだけ非公式な情報があふれているからですね。企業が発信する情報には、生活者も信頼感を抱いていると感じます」。

口コミでの「公式」出現率伸⻑

 化粧品に配合された成分や、搭載しているテクノロジーの話しは、企業しかできないことでもある。そこに価値を見出している人は、決して少なくない。数多の情報の中で「生活者は、個人発信の情報と、企業からの情報をきちんと使い分けている印象」と、西原リサーチプランナーは分析する。

 今後、デジタルネイティブなZ世代が消費の中核を担うようになると、このような情報リテラシーはさらに高まるだろう。近い未来で考えるなら、4月以降も物価の高騰は止まりそうになく、「リスク回避」の意識は継続するように思う。そういう意味で、新たな「長期バズ」「ロングセラーへのバズ」は、しばらく続くのではないかと予想している。

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