ファッション

滝沢伸介の「ネイバーフッド」×細川雄太&カリ・デウィットの「セント マイケル」 時代を超えて邂逅するコラボレーションの原点

 原宿から始まったコラボレーションの文化は、この30年で世界中のスタンダードになった。1994年に、「ネイバーフッド(NEIGHBORHOOD)」を立ち上げた滝沢伸介は、Face to faceを通した原宿のコミュニティーの中で、まさにそのカルチャーを広げてきた中心人物だ。一方、2020年に細川雄太とLA在住のグラフィックアーティスト、カリ・デウィット(Cali Dewitt)が共同で立ち上げた「セント マイケル(SAINT Mxxxxxx)」は、遠距離によるメッセージのやりとりからコレクションを作っている。コミュニケーションの変化はあれど、いつの時代も変わらないのは、お互いが対等にアイデアを出し合って作るリスペクトの精神。3月から順次発売しているTシャツやジャケット、ハットなどの全8アイテムは、まさにコラボレーションの本来あるべき姿が形になったものと断言してもいいだろう。滝沢、細川、カリの3人の話から解き明かす、コラボの真髄とは。

――3人はいつ頃出会ったんですか?

滝沢伸介「ネイバーフッド」デザイナー(以下、滝沢):結構記憶が曖昧なんですけど、カリと初めて会ったのは4〜5年前ぐらいだったかな?

カリ・デウィット(以下、カリ):そうだったと思う。クン(野村訓一氏)に紹介してもらって、友だち数人でシン(滝沢)のアトリエに遊びに行きました。もちろん「ネイバーフッド」も知っていたし、シンのビッグファンだったから、会えてすごく嬉しかったのを覚えていますね。

細川雄太「セント マイケル」デザイナー(以下、細川):僕とタキシンさん(滝沢の愛称)は数年前の「インナーセクト(Innersect。中国・上海で行われるストリートカルチャーの祭典)」ですかね。泊まっていたホテルの喫煙所でタバコを吸っていたら、たまたまタキシンさんもそこにいらして。挨拶させてもらって、「もしよかったら」と展示会にお誘いしたのが最初です。

滝沢:そうだ、「インナーセクト」だね。細川君は見ての通りメロウな人だから、そのときは特に構えることもなかったんだけど、展示会に行かせてもらって、もの静かなのに内に秘めたこだわりがすごいな、と。

細川:僕はタキシンさんのことを雑誌の世界の人だと思っていたので、まさか一緒に仕事ができるとは思っていませんでした。今回のお話も僕から声をかけさせていただいて、タキシンさんもOKと言ってくださったので、嬉しかったですね。

――細川さんとLAに住むカリさんのモノ作りは、元々インスタグラムのDMとかを使ってやりとりされていますよね。今回のコラボは、どのように進めていったのでしょう?

細川:当時はまだコロナ禍だったので、直接会うことがなかなかできなかったんです。だからタキシンさんともインスタのDMでやりとりさせてもらって、そこからカリさんに連絡してワードをはめてもらい、最終的にタキシンさんに確認してもらうという流れでした。

カリ:ユウタとは普段から朝も昼も夜も、メッセージを送ったりグラフィックを送ったり、たまに絵文字を送ったりしてコミュニケーションをとっています。今回もいつも通りだったし、すごくシンプルでした。

滝沢:プロジェクトの進め方にもいろいろあるけど、インスタのDMで進めることはほぼない(笑)。だから、今回はすごくパーソナルな感覚でした。でもそれって、みんなの信頼関係がないとできないことなので、コラボレーションの原点に一番近いのかもしれないね。

――普段は全くアプローチの異なるブランド同士だと思います。コラボアイテムのアイデアはどのように生まれたのですか?

細川:バイクをモチーフにした古着もたくさんあるんですけど、僕がバイクカルチャーを知らないから、これまではいじってはいけない領域だと思って、手を出してこなかったんです。だからバイクのエンジンも、どのエンジンがかっこいいとかが分からなくて。タキシンさんとコラボさせてもらったことで、その分野にもチャレンジできた感じです。今回、グラフィックのフレームワークをタキシンさんの持っているバイクをモデルにしているんですけど、タキシンさんにどれがいいか、一つずつ聞きながら一緒に作り上げていきました。

――グラフィックの中には、バイクのエンジンに「いばらの冠(荊冠)」が巻かれたものがありますね。

細川:タキシンさんに教えてもらったエンジンがジーザス(JESUS=イエス)の心臓に見えて、それで、「セント マイケル」っぽくアレンジしました。

滝沢:「ハーレーダビッドソン」の“ナックルヘッド”っていうエンジンですね。

細川:「ネイバーフッド」とのコラボなんですけど、個人的にはタキシンさんのライフスタイルとコラボしたイメージでした。タキシンさんの飼っている犬の“うーちゃん”をグラフィックのモチーフに使いたくて、何枚も写真を送ってもらったりもしましたね。そこにカリさんに“マジックワード”を入れてもらって。

――メッセージの意味を教えてもらえますか?

カリ:僕のメッセージは、プロパガンダの思想にインスピレーションを受けています。例えば、これは「バニシング・ポイント」という映画を観ていて思い付きました。その映画は、ただひたすら車を走らせる男を描いた作品なんですが、それがサイコパスでクレイジーだったから2人のイメージと重なった。胸の日付は、アメリカにとってすごくクレイジーな日。最高なことも最低なことも、いつでも起こり得るんだってことを伝えたかったんです。こっちは、シンボルが大事だってことを表しています。「ネイバーフッド」らしいバイクやロックンロールのカルチャーは、いつの時代も若者に愛されるもの。その普遍的な価値が「ネイバーフッド」との共通点だと思います。“TOO YOUNG TOO DIE”にはそういうメッセージを込めています。

――仕上がりを見て、どう思いますか?

滝沢:クオリティは文句ないですね。オーバースペックぐらい。

細川:タキシンさんからビンテージのTシャツを何枚かお借りして、その雰囲気ぐらいの加工感で上げたいと思ったんです。ボディの汚れとかもタキシンさんの古着をモデルにしています。

滝沢:実際バイカーが着ていたTシャツだから。バイカー特有ってわけでもないんだけど、オイルが付いて汚れていたり、バッテリー液がついて穴が開いていたり。ただ、それ以上に、僕から見たら忠実に古着を再現するだけじゃなく、ボロいのにすごくハイエンド。それがすごく上手だから、不思議だなと思う。普通はボロいとチープなイメージになるんだけど、そこはやっぱりセンスなのかな。

――今回は、ビジュアルをLAのカリさんの自宅と、カリさんの家族で撮ったそうですね。

カリ:そうなんです。コンセプトはまさに、“ファミリー”ですね。妻にもモデルになってもらいました。写真を撮ってくれたフォトグラファーのジェイソン(・ノシート、Jason Nocito)は長年の友人なんですが、最近、彼の奥さんの双子の姉妹と僕の弟が結婚して、本当のファミリーになりました。「ネイバーフッド」と「セント マイケル」がファミリーになった感覚に似てますよね。

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