「サンローラン(SAINT LAURENT)」は、映画制作の子会社サンローラン プロダクション(SAINT LAURENT PRODUCTIONS)を設立し、映画市場に本格参入する。同子会社の社長は、サンローランのフランチェスカ・ベレッティーニ(Francesca Bellettini)社長兼最高経営責任者が兼任する。同社は、「この部門は、クリエイティブ・ディレクターのアンソニー・ヴァカレロ(Anthony Vacarello)が『サンローラン』のために構想したものであり、彼のコレクションが持つシネマティックな世界感とニュアンスを反映させながら、メゾンの未来を共に歩んでいく」とコメントした。なお、同子会社が手掛ける全ての作品は、ヴァカレロ=クリエイティブ・ディレクターによる「サンローラン」の衣装を採用する。
サンローラン プロダクションによるデビュー作は短編二本で、5月16~27日に開催の第76回カンヌ国際映画祭でのプレミア上映が決定している。そのうちの一本は、ペドロ・アルモドバル(Pedro Almodovar)監督による30分の短編「ストレンジウェイ オブ ライフ(Strange Way of Life)」で、俳優のイーサン・ホーク(Ethan Hawke)とペドロ・パスカル(Pedro Pascal)がダブル主演を務める。アルモドバル監督は、同作は1960年代に農牧場の季節労働者だった2人の青年のラブストーリーを描いた「ブロークバック・マウンテン(Brokeback Mountain)」(2005年公開)に対するアンサーだと説明している。73歳のアルモドバル監督にとって、同じタッチで2人の男性を中心に描いた物語は新たな挑戦だったという。
さらに、サンローラン プロダクションは長編映画も制作するという。監督はデイビッド・クローネンバーグ(David Cronenberg)と、「グレート・ビューティー/追憶のローマ(The Great Beauty)」で第86回アカデミー賞外国語映画賞(当時)を受賞したパオロ・ソレンティーノ(Paolo Sorrentino)。同社は、共同プロデューサーとして両監督の共同制作会社などと提携することにより、映画産業にスムーズに参入したい考えだ。
なお、「サンローラン」は23年春夏メンズのキャンペーンで、クローネンバーグ監督らをモデルとして起用している。長年活躍している映画監督と協業できることについて、ヴァカレロ=クリエイティブ・ディレクターは、「とても光栄なことだ。彼らはいつも私のマインドを広げてくれたし、彼らが映画にもたらした独特で先鋭的なビジョンが今の自分を作り出してくれた。スクリーン上で、スペイン映画の巨匠と自分の名前が並ぶのを見て、まるで夢のようだった」と語った。
「サンローラン」は写真やアート、デザインなど、ファッションとは異なるクリエイティブのフィールドに精通し、独自のブランドバリューを高めてきた。18年には、ヴァカレロ=クリエイティブ・ディレクター監修によるアートプロジェクト「SELF」をスタート。これはブランドの世界観を通して、映画や写真などで社会をアーティスティックに描写するもの。これまでに7回行われ、世界のさまざまな都市で展示されてきた。
ヴァカレロ=クリエイティブ・ディレクターは「サンローラン」のコレクションを手掛ける際、まずキャラクターとシチュエーションを考えるという。「私にとってファッションショーは、まるで小さな映画のように、ストーリーを伝えるものだ。映画は幅広い層の観客にリーチできるし、店舗にある洋服よりも長くメディアで取り扱ってもらえるので、私のビジョンをそれだけ長く広めることができる。いい映画であれば、10年、20年、30年と見続けられると私は思う。コミュニケーションの観点でいうと、映画はコレクションよりもさらに大きなインパクトを人々に与えることができる。映画制作によって、クリエイティビティーの幅を広げられることも、とても楽しみだ。きっと、新たな顧客を獲得する新たなアプローチとなるだろう」。
今後は年1〜2本の映画公開を視野に入れつつ、ストーリーとキャラクターによってはジャンルを問わず制作していくという。一方で、ヴァカレロ=クリエイティブ・ディレクターは、「私や『サンローラン』の美学からあまりにかけ離れたものをやるつもりはない」とした。「ファッションは常にほかのクリエイティブ分野と関わってきた。私たちデザイナーは人間であり、劇場や映画館に行き、音楽を聞く。ファッションはそれら全ての分野が混ざり合った蒸留物のようなもの。ファッションはただ服を作るだけではダメで、そこにストーリーが必要だ。ファッションや映画、アートは私の一部であり、私がしていることの一部である。『サンローラン』は、映画のようなブランドだ」と語った。