ファッション

スニーカー業界で最も影響力がある男、「キス」を率いるロニー・ファイグの頭の中

 「『キス トウキョウ(KITH TOKYO)』の開店以来、唯一の欠けていたピースが今日埋まった」。4月中旬、「キス トウキョウ」の俣野純也ディレクターのSNSには、その文章とともに、「キス(KITH)」のトップ、ロニー・ファイグ(Ronnie Fieg)が感慨深そうにエントランスをくぐる様子がアップされた。「キス トウキョウ」がオープンして以来、初めて、ロニーの来日が実現したのだ。

 2020年7月。パンデミックのまだ序章に過ぎないこの頃、「キス トウキョウ」はオープンした。世界中のスニーカーヘッズを熱狂させてきた「キス」でさえ、この3年間は、決して万全な状況と言えなかったはずだ。そんな中でもトップクラスの品揃えと類まれなコラボレーションは健在で、スペシャルアイテムが発売される月曜日(“マンデープログラム”企画)から週末まで、連日、行列が絶えることはなかった。直近で仕掛けた「アディダス(ADIDAS)」と「クラークス(CLARKS)」のコラボ“サンバ(SAMBA)”は、「なぜこんなことが可能なのか」と、業界人ですら驚きを隠せなかったほど。今、スニーカー業界で最も影響力のある男、ロニーの頭の中を覗く。

――この3年間、世界的なパンデミックで日本に来られなかったわけですが、その間、どのような思いでしたか?

ロニー・ファイグ「キス」クリエイティブ・ディレクター兼最高経営責任(以下、ロニー):とてももどかしかったです。私達がこの「キス トウキョウ」を設計したのはコロナ前で、コロナ禍でのオープンに至りました。そしてその間、日本に来る事ができず、このストアの美しさを地球の裏側からしか知ることができなかったのです。フラストレーションを感じていました。だけど幸運なことに、東京には自分の代わりにジュンヤ(俣野純也「キス トウキョウ」ディレクター)がいました。彼と彼のチームがいたおかげで、全く心配はありませんでした。

――オープン以来の日本の業績は満足いくものでしたか?

ロニー:非常に満足しています。この3年間、われわれの想定していたゴールを上回る結果が出て、予想以上の成績を収めることができました。東京の人々と大きなコミュニティーを築けていることは嬉しいですね。さらにここからどのように成長していくのか、とても楽しみにしています。

――3年間でスニーカー市場における状況も変わりました。今のスニーカー市場をどう分析していますか?

ロニー:今、マスマーケットレベルのスニーカー市場は、少し飽和状態にあると感じています。全てにおいて、本当にありとあらゆるものに溢れています。だけど一方で、小さなブランドにも成功するチャンスがある。私は常にそういった小さなブランドをサポートする事に興味があり、「キス」は、そういったブランドも含む非常に幅広いフットウエアのキュレーションができています。マスマーケットに対する大きなインパクトはもう少し時間がかかると思いますが、商品の打ち出しは非常に面白く、個人的にも楽しみですね。

――“小さなブランド”で、気になるブランドはありますか?

ロニー:もちろん、「キス」で取り扱っているブランドは全て素晴らしい結果を出しているし、全てのブランドが特別な存在。その上で気になるブランドを挙げるとしたら、4〜5年前に取り扱いを始めた「サロモン(SALOMON)」や「ホカ(HOKA)」は、素晴らしいと思います。「ナイキ(NIKE)」や「アシックス(ASICS)」「ニューバランス(NEW BALANCE)」「アディダス」といった大きなブランドとも協業しながら、素晴らしいプロダクトを私達のコミュニティーに届けていきたいです。

――コラボレーションについて教えてください。「ナイキ」とのパートナーシップでいえば、例えば「キス」は「ナイキ」のロゴを変えられる(“NIKE”の文字を“KITH”に変更)数少ないブランドの一つです。なぜそのようなことが可能なのですか?

ロニー:元々は、ロゴを“変える”ことが目的ではなく、クリエイティブなコラボレーションならではの表現をしたいと思ったのがきっかけです。人々がそれを目にしたときに驚き、面白いと思ってもらえるか。だから、コラボレーションするパートナーに「不可能なことをさせている」ということではなく、実際はその逆。私達はパートナーに深い敬意を払い、彼らのDNAを大いにリスペクトしています。ただ、クリエイティブな視点で“NIKE”の4文字を見たときに、同じく4文字の“KITH”と、同じフォントで置き換えたら非常にクールだと思いました。結果的に、それは過去に誰もやったことがないことだったのです。とてもクリエイティブで、楽しいプロジェクトでした。

――直近のコラボでいえば、「アディダス」のアッパーに「クラークス」のソールをドッキングさせたのは、とてもクレイジーなアイデアでした。この無理難題なコラボレーションを成功させるためには何が必要かを教えてください。

ロニー:そんな風に言ってくれてありがとう。このコラボレーションは、情熱、そして両ブランドへの愛からくるものでした。素晴らしいアイデアの完璧なゴールです。ただ、両ブランドの協力を得ながらフィニッシュラインに到達するには、多くの挑戦が必要だったのも事実です。このような最高で挑戦的なアイデアが、素晴らしいプロダクトとしてカタチなることが私は本当に好きなんです。完成したプロダクトにも、とても満足しています。快適さ、見た目、クオリティー、クラフツマンシップ、そのどれをとっても素晴らしかった。「どうしてそれを私が可能にできるのか」という問いに対しては、良い答えを持ち合わせていないのですが、間違いなくプロジェクトに関わる全ての人のハードワークが必要でした。自分だけの手柄ではありません。「アディダス」の人々、「クラークス」の人々が、このプロジェクトの実現に向けて手を貸してくれました。最高のアイデアがあれば、ゴールまでの戦いの半分は既に終わっているようなもの。残りの半分は、ゴールに向かって突き進むのみなのですから。

――今面白いと思うこと、やりたいことを教えてください。

ロニー:今のレトロランニングシューズのムーブメントにはとても興味がありますね。パフォーマンス特化型で、すごく履き心地がよく、今、非常に多くの人に愛されているカテゴリーです。「ナイキ」の“ボメロ(VOMERO)”や“スピリドン(SPIRIDON)”、「アシックス」の“カヤノ14(KAYANO14)”などがカムバックしているのを目にします。「ニューバランス」の“1906”や“860”もそうだし、「ミズノ(MIZUNO)」もこの時代を象徴していますよね。それらが登場した当初は、時代よりもかなり先を行っていました。今、時代がそのシルエットに追いついたように感じます。それらのモデルがカムバックするのには、とても良いタイミングですし、この時代がしばらくは続くでしょう。私はそのカテゴリーとプロダクトが大好きなので、個人的にもとても嬉しく思っています。

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