ビューティ

23年の中国美容市場、コロナ前の勢いへ プレステージが急成長

約1年のロックダウンを経て、2023年の中国ビューティ市場はコロナ前の成長スピードを取り戻す勢いだ。調査会社のユーロモニター・インターナショナル(EUROMONITOR INTERNATIONAL)は、23年の中国のビューティ・パーソナルケア市場規模は前年比5%増の980億ドル(約13兆1320億円)に達すると予測する。中でもプレステージ(プレミアム)カテゴリーの成長が著しく、マスマーケットカテゴリーの規模を26年には超えるという。プレステージカテゴリーは今後5年で毎年13%、マスマーケットカテゴリーは毎年8%の成長率を見込む。同じく調査会社のバーンスタイン(BERNSTEIN)は、中国の消費者がビューティ商品に費やす1人あたりの金額は、トラベルリテールと免税店を除き、日本や韓国の数字に迫ると予測する。

バースタインによると、プレステージカテゴリーは22年1~11月に伸び続け、ロックダウン中で苦戦するビューティ市場を支えた。ECのTモール(TMALL)、CtoCマーケットプレイスのタオバオ(TAOBAO)、動画アプリの抖音(DOUYIN)において売り上げ成長率が高かったプレステージスキンケアブランドは、「シャネル(CHANEL)」「ゲラン(GUERLAIN)」「シスレー(SISLEY)」「ドゥ・ラ・メール(DE LA MER)」「ヘレナ ルビンスタイン(HELENA RUBINSTEIN)」だった。メリンダ・フ―(Melinda Hu)=バーンスタイン バイス プレジデント・ディレクター兼シニア・エクイティ・リサーチ・アナリストは、「中国市場が徐々に復調する中で、消費者の消費意欲を掻き立てるのはプレステージカテゴリーだ。特に外資ブランドは現地のオフラインビジネスが平常に戻る中、中国の国産ブランドよりも復調が早いだろう」と話す。

効果実感やエモーショナルなブランド体験が一番の購入指標に

新型コロナウイルスの影響で、中国の消費者は“ケア”カテゴリーを見直すようになった。ヤン・フー(Yang Hu)=ユーロモニター インサイト・マネジャー・オブ・ヘルス・アンド・ビューティ・アジアは、「スキンケアはただ表面的に肌をきれいにするだけでなく、内側からホリスティックにケアすることに重きを置くようになっている」と指摘。「消費者にとって商品購入の判断基準が高くなっており、ブランドイメージではなく、効果実感が一番の基準になりつつある」と分析する。また、ブランドが生み出すエモーショナルな体験や価値観もより大事になっているといい、その例として中国の伝統文化を取り入れたファッショントレンド「国潮(グオチャオ)」や、ミニマリズム、ジェンダー平等、サステナビリティなどの価値観を挙げる。

投資会社ビーイングキャピタル(BEING CAPITAL)のジェイシー・ヤン(Jeacy Yan)創業者は、成分にフォーカスしたり、マスクによる肌荒れに特化したりしたスキンケアは特に需要が高まるとの認識を示す。「ニキビケアはピーリング系が主流だが、より肌への刺激が少ない発酵系や植物由来成分がこれまでのAHAやBHAの代わりになる」と話す。またトーンアップ効果のある日焼け止めも人気で、中でも「ラ ロッシュ ポゼ(LA ROCHE-POSAY)」「スキンシューティカルズ(SKINCEUTICALS)」「薇諾娜(WINONA)」「夸迪(QUADHA)」といったブランドへの支持が高い。

これからは若年層がエイジングケアカテゴリーをけん引するとみる専門家もいる。ラグジュアリービューティを扱う化粧品セレクトショップのジョイス・ビューティ(JOYCE BEAUTY)で中国市場のマネジング・ディレクターを務め、ジョイス・ビューティを中国で展開するクリサリス・ビューティ(CHRYSALIS BEAUTY)の創業者でもあるミリアム・ブレイ(Miriam Bray)は、「18~25歳の消費者はすでにエイジングケア商品を使い始めている。若い彼らにとって大事になのは効果実感だけでなく、パッケージや中身のテクスチャーといったブランド体験だ」と説明する。

中国発の新規ブランドが台頭

プレステージブランドの勢いが増す一方、マスブランドの存在感も健在だ。22年は「E.L.F」「トゥー フェイスド(TOO FACED)」「フーダ ビューティ(HUDA BEAUTY)」「グラムグロウ(GLAMGLOW)」「エチュードハウス(ETUDE HOUSE)」など、中国市場からの撤退や、中国でのEC事業を終了するブランドもあったが、多くのマスブランドはマーケットのノウハウを生かし、タイムリーに新商品を出すことでパンデミックの苦境を乗り越えた。

ビーイング キャピタルによると、「HBN」「ジベン(ZHIBEN)」「溪木源(SIMPCARE)」「ユニスキン(UNISKIN)」をはじめとする19年のビューティブームで頭角を現した現地の新しいスキンケアブランドも、流通取引総額10億ドル(約1340億円)規模に成長しているという。これらのブランドは、価格帯が200元(約3800円)以下だ。フー=ユーロモニター インサイト マネジャーは、「現地のCビューティブランドはすでにマスマーケットのシェアをある程度獲得しており競争も激しい。そのため多くのブランドはプレステージ市場に目を向け始めている」と話す。ブレイ=クリサリス ビューティ創業者は、「新型コロナウイルスで次世代の実業家が育ってきた。国外に旅行ができなくなり、資金を持った投資家たちが国内市場に目を向けた。同時に外国への留学から戻った若く優秀な人材も増えた。彼らは親からの資金援助を武器とするだけでなく、ロレアル(L’OREAL)やLVMHといった大手よりも中国消費者をよく理解している」と指摘する。実際、孟昭然(Zharoan Meng)が21年に立ち上げたフレグランスブランド「ドキュメンツ(DOCUMENTS)」や、イ・ヒ(Yi He)が20年に立ち上げたスキンケアブランド「ハービースト(HERBEAST)」はここ数年で急成長しており、創業者は2人ともパリへ留学・就職した経験を持つ。「ハービースト」は「アウグスティヌス ベーダ―(AUGUSTINUS BADER)」「111スキン(111 SKIN)」「エビダンス ドゥ ボーテ(EVIDENS DE BEAUTE)」といった外国ブランドと肩を並べ、世界中の化粧品を扱うジョイス・ビューティ(JOYCE BEAUTY)で唯一取り扱われているCビューティブランドだ。500~1000元(約9700~1万4900円)という価格帯で展開する「ドキュメンツ」「ハービースト」は、実店舗からスタートしローカルに根付いた世界観やコミュニティーづくりを戦略に成長した。昨年9月にはロレアルグループの中国ファンドが「ドキュメンツ」の少数株式を取得した。

各社がリアル店舗とショッピングイベントを強化

中国では昨今、実店舗に注力する店舗が増えている。昨年は「シャーロット ティルブリー(CHARLOTTE TILBURY)」「ザ・ギンザ(THE GINZA)」「花西子(FLORASIS)」「ジュディドール(JUDYDOLL)」、フレグランスブランド「トゥ サマー(TO SUMMER)」「ドキュメンツ」などがこぞってオフラインビジネスを強化した。「イソップ(AESOP)」も昨年2店舗をオープンしたほか、「シスレー(SISLEY)」は1月にスパとカフェを併設した初のアジア旗艦店「メゾン シスレー」を上海にオープンした。「スキンシューティカルズ(SKINCEUTICALS)」は昨年12月にフェイシャルトリートメントセンターと物販を合わせた新型店舗「スキンラボ(SKINLAB)」を開店。化粧品セレクトショップのセフォラやハーメイ(HARMAY)、SKPセレクト・ビューティ(SKP SELECT BEAUTY)、ボニー&クライド(BONNIE&CLYDE)などもオフラインビジネスを強化している。

ブレイ=クリサリス・ビューティ創業者は「オフラインビジネスに再び注目が集まっている。外出のついでに寄るショッピングが一つの楽しみになっている。ニッチなブランドは知名度がないため、消費者が商品を試せる場として実店舗が大きな機会となるだろう。一方で商品を店頭で試してオンラインで購入する可能性もあるため、オムニチャネル戦略が大事だ」と説明する。

25~32歳をターゲットにするジョイス・ビューティでは、“体験”にこだわっており、ブランドだけでなく店そのものにロイヤリティーをもってもらえる顧客を育てている。「化粧品小売は昔からトラフィック(来店客数)を指標としてきたが、店頭ならではの体験と顧客とのつながりを重視している」とブレイ創業者は説明する。
 
さらにセールや買い物を促すショッピングイベントが売り上げ拡大の大きな起爆剤になる。越境ECのアゾヤ・ヨーロッパ(AZOYA EUROPE)のエレーナ・ガッティ(Elena Gatti)=マネジング・ディレクターは、3月8日の国際女性デーや5月20日の中国におけるバレンタインデー「520(我愛你)の日」、EC大手JDドットコム(JD.com)による6月18日のセールイベント、アリババ(ALIBABA)による11月11日の「独身の日(シングルデー、W11)」セールをはじめ、大きなイベントが重要なタッチポイントになると説明する。「多くのブランドは7~8月ごろから『独身の日』の準備を始める。10月までに話題をつくっておけば、11月の売り上げに直結する」。

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