企業が期ごとに発表する決算書には、その企業を知る上で重要な数字やメッセージが記されている。企業分析を続けるプロは、どこに目を付け、そこから何を読み取るのか。この連載では「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)の著者でもある齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、企業の決算書やリポートなどを読む際にどこに注目し、どう解釈するかを明かす。今回は毎年恒例となった同氏算出の世界アパレル専門店売上高ランキングのハイライトを紹介する。(この記事は「WWDJAPAN」2023年5月15日号からの抜粋です)
2022年度をまとめてみて、最も目を引くのは、ルルレモン(LULULEMON)の大躍進ですね。また、かつては日本円で5000億円を超えればトップ10にランクインしていたものですが、今は6000億円ないとトップ10に入れなくなってきていることに気付きます。
私がランキングを作り始めた2009年度から不動の1位に君臨するインディテックス(INDITEX)は、前回の連載でも解説しましたが、圧倒的です。前期比も17.5%増と高いですが、下の表を見ると金額の大きさが群を抜いているのが分かります。
H&Mは苦戦が続いています。22年度はロシアが響いているようですが、アメリカの伸びが大きく、いよいよドイツを抜いて売り上げシェア1位になりました。
ファーストリテイリングの22年8月期決算は、Vol.43で解説しています。過去最高の粗利率が出て、順風満帆ですが、国内ユニクロ事業の成長性に陰りが見えているのが気になります。
ギャップ(GAP)は相当リストラしていますね。CEOも22年7月に退任して、暫定的にCEOを兼任している会長がだいぶスクラップ・アンド・ビルドをしています。ヨーロッパとメキシコと中国はローカルのパートナー企業に事業を移管しました。
前期比ではプライマーク(PRIMARK)が一番伸びていますが、まだ回復途上ですね。オンラインで商品を見せて、近隣店舗のどこに在庫があるかを示すサービスは実装済みでしたが、オンラインで注文した上で、店舗で受け取るサービス(クリック・アンド・コレクト)を25店舗で実験的にスタートしています。全店にまで広げるか分かりませんが、宅配をやるつもりは一切なさそうですね。
サブスクサービスも始めたルルレモン
ルルレモンは前年、コロナ禍でも伸びていましたが、さらに29.6%増収です。19年度対比は、なんと倍。すごいですよね。円建てで1兆円企業になりました。トップ10の中で唯一、付加価値商品を扱っていて利益率も高く、本来はもっと営業利益も高いのですが、ホームフィットネスのスタートアップ企業ミラーを買収した後の、のれんの減損が響いて、減益になっています。
注目は、有料会員制を導入した点です。無料会員もあって、無料レッスンを受けたりできますが、有料会員は月39ドル(約5200円)で1万本以上のワークアウトのコンテンツが見られたり、ギアが10%オフで買えたり、ルルレモンが提携する教室が20%オフで利用できるなどの特典があります。有料会員制は、コストコの回でも解説しましたが、つまりはお客さまが前払いしてくれるわけです。LTV(顧客生涯価値)が重視される時代に、顧客とつながり続けている証しですし、サブスクフィーは粗利100%の大きな利益源。企業にとっては非常にありがたい収入源です。
同社は21年度に発表した「5年間で売り上げを倍にする」、つまり年率約15%の成長を続けるという計画を実行中ですが、今期はそれを上回る約3割増収でした。初年度としてはまずまずという感じでしょうか。
ネクストは、自身のオムニチャネルプラットフォームを完成させた上で、今では、サイト作りから在庫管理、配送までECにまつわる全てを請け負うサービスをスタートさせて、すでに全社売り上げの2.6%を稼ぐようになっています。「ギャップ」は英国での事業をネクストとのジョイントベンチャーに売却しており、トータルプラットフォーム利用ブランドになっています。テクノロジーと物流に投資していることもアピールしており、ライセンスも含めたブランド開発もしています。同社の決算発表資料を見ていると、小売業の未来図を見ているみたいです。
しまむらは、シマラーブームのときの営業利益を超えられていなかったのが、21年度に超えて、22年度はさらに伸ばしました。中身を見ていくと、黒字化したバースデイとアベイルがそれぞれ5%ずつの営業利益を出すように育ちました。ファッションセンターしまむらは単体で営業利益10%を出せますが、婦人服はまだ戻っておらず、キッズとインテリアと雑貨の売り上げの伸びによって回復した感があります。でも、一番の健闘賞というか、しまむらの“リボーン”の立役者はバースデイですね。
最近気になっているのは
イスラエル
3年ぶりの海外出張で中東のイスラエルに来ています。欧州、中東、アフリカからの移民国家。国境紛争で常に攻撃を受けている国。そんな怖いイメージも少なくない同国ですが、訪問すると国家が国民を教育し、鍛え、安全と平静を維持し、世界で最も自立している国民を有する国のひとつであると感じます。将来、協力しながら、イノベーションを起こすことを楽しみにしています。
齊藤孝浩/ディマンドワークス代表 プロフィール
1988年、明治大学商学部卒業。大手総合商社アパレル部門に勤め10年目に退職。米国のベンチャー企業で1年勤務し、年商100億円規模のカジュアルチェーンへ。2004年にディマンドワークス設立。ワンブランドで年商100億円を目指すファッション専門店の店頭在庫最適化のための人材育成を支援。22年4月、明治大学商学部特別招聘教授就任。著書に「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」(共に日本経済新聞出版社)。「5月に発売した『図解 アパレルゲームチェンジャー』(日本経済新聞出版)の第4章ではワークマンのビジネスモデルの優位性をその他のチェーンストアと比較し解説しています。ワークマンは本文にもあるようにFC方式を採りますが、しくみは違えど、一般のチェーンストアでも学べる本部と店舗の関係性のあり方があります。どんな共通目標を成果報酬の対象にしたらよいのか、その答えは、FCでも、直営でも変わりません」
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