ファッション

デムナの故郷で台頭するニュースター候補3選 “こじらせ系ヘンタイ”や“攻めクラシック”の原石たち

「メルセデス・ベンツ・ファッション・ウイーク・トビリシ(MERCEDES-BENZ FASHION WEEK TBILISI)」が、ジョージアの首都トビリシで5月に開催された。トビリシは「バレンシアガ(BALENCIAGA)」クリエイティブ・ディレクターのデムナ(Demna)の出身地で、彼の世界観を感じさせるストリートスタイルや、最近ではフェミニンなムードが台頭している。同イベントは、コロナ禍を経て約3年半ぶりの実施となり、今季からメイン会場を旧コカ・コーラ工場に設けた。会場は、街の中心地からは少し離れた工業地域に位置し、約2700平方メートルの敷地内にある、かつて大型倉庫だった複数の建物が、ショールームやキャットウォーク、アート作品のエキシビション会場となった。同イベントでコレクションを発表した22ブランドのうち、メイン会場でショーを行った17ブランドの中から、新進ブランドや現地で高い人気の3ブランドを紹介する。

1.INGOROKVA
攻めクラシックトビリシ仕立て

トビリシ出身のタムナ・インゴロクヴァ(Tamuna Ingorokva)が手掛ける「インゴロクヴァ(INGOROKVA)」は、ホテルの客室でプレゼンテーションを実施。同ブランドの設立は2000年代初頭と新しくはないものの、18-19年秋冬シーズンにブランド名を改名し、20年春夏シーズンからはメンズをスタートさせるなど、市場規模拡大のためにリブランディングを進めている。以前見た際は印象に強く残るブランドではなかったが、今季はフェミニンなデザインに、クラシックな仕立てを組み合わせて、洗練さが際立っていた。

デザイナーのタムナは映画からインスピレーションを得ることが多く、今季はフランス映画に着想して、ヨーロッパの古典主義を自身の世界観へと浸透させた。コレクションはシンプルなモノクロームのパレットで、線と幾何学柄で遊ぶミニマリズム。縫製は手作業で行い、過剰生産と廃棄を避けるために数量限定で製造しているという。シルク混クレープのジャケットが約6万5000円で、ジョージアのブランドの平均的な価格帯だ。

2.RECKLESS
“アイ・ラブ・ヘンタイ”

「レックレス(RECKLESS)」は、今季最もゲストの数が多く、若者の熱気を帯びたショーだった。同ブランドはトビリシが拠点で、21-22年秋冬シーズンにデビュー。サロメ・グヴェレシアーニ(Salome Gvelesiani)創業者兼CEOと、デザインは設立当時19歳だったアンカ・コイヴァ(Anka Koiava)とリザ・カジリシュヴィリ(Liza Kajrishvili)、マス・マツァリシュヴィリ(Masu Mtsariashvili)が手掛ける。美術大学で出会った三人がデザインからルックブックの撮影までを担っており、コロナ禍にオープンした旗艦店も彼らがディレクションを行ったという。コンセプトは“混沌とした世界で帰属意識を感じられるコミュニティー”で、ブランド名でもある向こう見ずな無謀さと、若者ならではの荒削りなクリエイションが魅力だ。

“私の心は傷ついてる(My Heart Hurts)”を今季のテーマに、“今日もまた泣いちゃった(cried again today)”や“神は死んだ(god is dead)”“アイ・ラブ・ヘンタイ”の文字をプリントと刺しゅうで施したTシャツやパーカといった日常着で構成した。ニットには日本のアニメ風のキャラクターを描き、音楽はアニメ声優が歌う日本語の曲を流すなど、日本のサブカルチャーがジョージアの若者のよりどころになっているようだった。ジョージアらしいストリートウエアに、日本のカワイイ文化を取り込んで、Z世代、さらにその下のアルファ世代の心をつかんでいた。100%コットンのオーバーサイズのラガーシャツが約1万円と、若者でも手の届きやすい価格帯である。

3.OK KINO
異素材で奏でる変拍子

同イベントには、ジョージアだけでなく東欧のブランドも参加した。中でも、モルドバ共和国に拠点を置く「オーケー キノ(OK KINO)」に目を引かれた。ブランドは、モルドバ共和国の小さな村で生まれ育ったというダリヤ・ゴルネヴァ(Darya Golneva)とカウノフ・デニス(Caunov Denis)の二人が2年前に創設し、今季で3シーズン目を迎える。ともにモルドバ共和国の美術大学でファッションデザインとパターンを学び、イタリアのファッションスクールでハンドプリントなどの技術を習得したという。

自国の伝統と幼少期の記憶から着想を得ることが多く、今季はゴルネヴァが祖母と一緒に果物の収穫に出かけた思い出が出発点となった。ドレスやスカートの裾をスナップボタンで折り返したデザインは、収穫物を保管するために裾を折り畳んだ衣服から踏襲したもの。デッドストックの生地と糸によるアップサイクルで生産しており、リネンやコットンといった自然素材を多く採用した。光沢のある生地はモルドバ共和国の一般的な住宅で見られる、太陽光を反射するファサードを投影させたという。花弁や種から形どった有機的なフォームのヘッドピースは、一つひとつ手作業で作るアートピースで、彼らの自然主義な世界観を表現するための重要な役目を果たした。ミニマルでウエラブルなエプロン風のドレスや解体したジャケットは、パターン技術の高さと異素材の魅力を持ち、柔らかな音色を奏でるニュートラルなコレクションに仕上がっていた。生産は全てモルドバ共和国で行っており、シルク裏地のウールのジャケットで約3万8000円という手ごろな価格帯も特徴だ。

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