REPORT
軽々と実現したフォーマルの「スポンテニアス」
着る人に着方を委ね、フォームまで変換することさえ許す「スポンテニアス(英語で『自由自在な』の意味)」というアイデアの探索を続ける「マルニ」。2017年春夏は、伝統に則ってきたスーツの「スポンテニアス」に挑戦した。
スーツを自在に着こなすためのアイデアは、ストラップとベルクロだ。ファーストルックは、 グレーのセットアップ。トップボタンだけが露わで、残りは比翼仕立てのジャケットのVゾーンには真一文字に一本のストラップが通っている。一見するとVゾーンを彩るバンドのようだが、続くルックでそれは、背中のループを通るベルトのようなストラップだとわかる。よく見るとループは肩とウエスト、2つの場所に取り付けられており、ストラップを通したり通さなかったり、通すとしてもショルダーラインかウエストラインのループに通すかで、スーツはフォームやその印象、緊張感やリラックスしたムードを表現し、変化する。中盤以降のジャケットやコートはより大胆で、正面から見るとプルオーバーのようだが背中側は真っ二つに分かれ、ベルクロで左右の身頃を貼り合わせている。これもまた、ベルクロで、左右の身頃をどの程度合わせるか次第で、仕上がりの印象を変えるアイデアだ。
ベルクロは、シャツにもふんだんに取り付けられた。さまざまなパーツに分解されたシャツは、ベルクロによってつなぎ合わせられ、スリットを刻んだアイテムのように仕上がり、ランウエイに登場している。これもまた、ベルクロのつけ方次第で、表情を微妙に変えていくのだろう。まるでスリットを刻んだかのように見えるジャケットなどからは、渦巻きやカラフルなストライプなど、「マルニ」らしいプリント柄のアイテムが覗く。そんなシャツは、背中の左右に1つずつタックを刻み、バルーンシルエットを描いた。
メンズのドレスコード、特にフォーマルのルールを崩すのは、普通ならアバンギャルド。なのに「マルニ」は、持ち味の可愛らしさを失わないまま、それを軽々とやってのけた。