ファッション

突き抜けた「ギャルソン」勢と「ディオール」にずっと鳥肌 2024年春夏メンズコレ取材24時Vol.7

2024年春夏コレクションサーキットが、各都市のメンズ・ファッション・ウイークから本格的に開幕しました。「WWDJAPAN」は今回も現地で連日ほぼ丸一日取材をするノンストップのコレクションリポートを敢行。担当は、メンズ担当の大塚千践「WWDJAPAN」副編集長とパリ在住のライター井上エリの大阪出身コンビ。時には厳しい愛のツッコミを入れながら、現場のリアルな空気感をお届けします。

10:00 「ジュンヤ ワタナベ マン」

本日の取材は「ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」からスタート。今日は「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」のショーも夕方にあるので、一部では、というか自分では“ギャルソン・デイ”と呼んでいます。そして朝の「ジュンヤ ワタナベ マン」のショーではいつもパワーを注入してもらうのですが、今シーズンもすごかった。

何がすごいって、コラボが得意な同ブランドが今シーズンの協業相手に選んだのは「ジュンヤ ワタナベ」だったのです。え?「ジュンヤ ワタナベ マン」が「ジュンヤ ワタナベ」とコラボ?と思った方も多いでしょう。でも、渡辺淳弥デザイナーが「私にとっては別のブランド」と語る通り、両ブランドのアイデアやアプローチは全く異なります。個人的には、プロダクト起点の「ジュンヤ マン」、スタイル起点の「ジュンヤ ワタナベ」という印象でした。ショーが開幕すると、“コラボ”のクリエイションが立ち上がりから続々と登場します。アイテムを解体・再構築した巨大アウター類にはウィメンズのシルエットを引用。何着ものトレンチコートやライダースが、一着のアウターとして姿を変えます。「ジュンヤ マン」のショーには“イケおじ”モデルが登場することも少なくありませんが、今シーズンは1990年代のX JAPANのようにヘアを逆立てた若いモデルたちが鋭い視線でランウエイを歩く、かなりエッジが効いた雰囲気です。ほかにも「リーバイス(LEVI’S)」「ステューシー(STUSSY)」「パレス スケートボード(PALACE SKATEBOARDS)」「「ニューバランス(NEW BALANCE)」「グレゴリー(GREGORY)」「カーハート(CARHARTT)」などの物欲刺激系コラボも登場するものの、印象に残ったのはやっぱり「ジュンヤ ワタナベ」とのコレクションでした。パワー注入完了です。

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11:30 「ポール・スミス」

“THE SUIT(BUT DIFFERENT)”をテーマにした今季の「ポール・スミス(PAUL SMITH)」は、英国調のテーラリングにワークウエアとミリタリーウエアを融合させるアイデアが出発点となりました。カッチリした印象のジャストフィットからゆったりとしたシルエットまで、動きのあるテーラードジャケットにカーペンタースタイルのトラウザーズやボクサーショーツ、ルーズフィットのビンテージライクなジーンズを合わせて、気楽なスーツスタイルを提案します。

ショー後にポール・スミス=デザイナーは、「コロナ禍を経た今、男性はスーツの古典的な着用方法に回帰すると同時に、堅苦しさは避けたいと思っている。だから私は、伝統的な仕立てを守りつつ、軽量な生地やパッドを外すなどして、その要望に応えられるスーツを作りたかった」と話していました。その言葉通り、厳格さとは無縁の、デイリー向けのカジュアルなスーツです。ただこのカテゴリーでのスーツは市場での競争率が高いので、「ポール・スミス」はもっと遊び心を加えたらほかと明確に差別化でき、さらに強みを生かせるかもとも思いました。そしてショー終わりの会場に、何となく俳優のマット・スミス(Matt Smith)がいるじゃないですか。本当に何となくすぎてほぼ囲まれてもなかったのですが、個人的には本日のセレブ遭遇で一番興奮しました。デザイナーとマット・スミスの“ダブル・スミス”のスーツの着こなしがとてもかっこよかったです。

13:30 「メゾン ミハラヤスヒロ」

パワー注入系のショーといえば、「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」も世界屈指です。見る人を楽しませようとする演出で、毎シーズン期待値がどんどん上がっていくものの、その斜め上をぐいんと越えてくるのが三原康裕デザイナーです。ランウエイには、前回に引き続き生演奏用のセットを設置し、Die Deutsche Post Punkのライブと共にショーが開幕。今シーズンは「私は最近、記憶の迷路の中にいる」そうで、デザイナーが10代だった1980年代後半から90年代にかけての記憶をたどり、当時の若者らによる熱狂的なファッションコミュニティーを2023年風に描いたコレクションを披露します。

得意のビッグシルエットシリーズはいつにも増してめちゃくちゃ大きく、グレーやブラック、ホワイトのニュートラルカラーに絞ることでかたちの面白さが際立ちます。色彩を抑えた分、色落ち加工によるぼやけた色味や、吹き付けと染色を融合した特殊技術で、表面のデザインに奥行きをプラス。「トーキングアバウト ジ アブストラクション(TALKING ABOUT THE ABSTRACTION)」とコラボレーションしたラジカセ型ショルダーバッグやカセットテープ型ウォレットにも時代性を盛り込み、雑誌型のクラッチバッグにはストリートスナップ誌の先駆け「ストリート(STREET)」「フルーツ(FRUITS)」の表紙を転写しています。大ぶりのダイナソーバッグもかわいい。ブラックデニムのような素材感がかっこよく、見たことないのにどこか懐かしい、不思議なバランスのコレクションが好きでした。

さあ、いよいよフィナーレです。バンドの演奏がますます激しさを増す中、三原デザイナーはどのような登場をするのでしょうか。「WWDJAPAN」のライブ配信でご本人が言っていた通り、今シーズンもいろいろなデザイナーの登場シーンをチェックし、自分はどう出ようかと考えていたはずです。三原デザイナーはゆっくり登場すると、バンドの前で軽快に踊り始めました。そのステップに合わせてバックステージ方向に徐々に歩みを進めて去っていくかと思いきや、いったん三歩下がり、再び前進して去って行くという、「三百六十五歩のマーチ」ステップを披露。前進しながらも、ときには自分の過去に遡ることでさらに未来への推進力を増していくという、まさに「私は最近、記憶の迷路の中にいる」というコレクションテーマとリンクするデザイナーあいさつでした。あー楽しかった。

14:30 「ディオール」

ディオール(DIOR)」のショー会場である旧陸軍士官学校(Ecole Militaire)周辺は、今季もセレブリティーのファンで大混雑。ちょうど会場入り口に到着すると、外のフォトコールで俳優の竹内涼真さんが撮影中でした。会場に入ってから、“顔の天才”こと韓国アイドルグループASTROのチャ・ウヌさんや、俳優パク・ソロモンさんとの写真撮影に応じていたところをキャッチしました。竹内さんは小顔で高身長で、一際目立っていましたし、「ディオール」のテーラードをまとった姿が美しかったです。カタールW杯の日本代表でドイツ2部デュッセルドルフで活動する田中碧選手も来場していたそうですが、残念ながら見つけられず……。見逃してしまったのは悔やまれますが、メインはあくまでコレクション取材なので、ショーに集中することにしました。

正直なところ、パリコレ中盤のこの日は、心身ともに疲労困憊でした。今季はいつも以上に道路が大渋滞しているため、メトロでの移動を余儀なくされ、暑さに体力を奪われることもあり、疲れが溜まりに溜まっていたんです。でも、「ディオール」がやってくれました。疲れも暑さも吹き飛ばす前代未聞の演出と、会心のコレクションを披露してくれたのです。ついついショーに見入ってしまい、メモを取る手には鳥肌が立ち、完全にその動きを止められました。今季は、キム・ジョーンズ(Kim Jones)=メンズ アーティスティック・ディレクターが就任して5年目を迎える、節目のシーズンです。個人的には、5年間の中で最も完成度の高いコレクションだと思いましたし、次なる5年にも大いに期待できる、キムの引き出しの多さと豊かな創造性に脱帽でした。「ディオール」メンズのほかに「フェンディ(FENDI)」ウィメンズも手掛けている彼は、どんな多忙な日々を送っているのでしょうか。「私ごときが疲労困憊なんて言ってられない」と自分に喝を入れ、英気を養えるショーでした。コレクションの内容は、リポートでご覧ください。

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16:00 「コシェ」

夏のフランスは16〜17時頃が最高気温に達する時間帯です。しかも、この日は34度と猛暑日。「コシェ(KOCHE)」は、直射日光照りつける屋外のプールサイドをランウエイに選びました。ドリンクを提供するサービスはあったものの、とにかく暑く、開始まで40分も遅れ、連日の寝不足も相まって頭がクラクラ……。ビーチでのカクテルパーティーに適したドレスがたくさん出てきたコレクションが会場と見事にマッチしていたので、この場所を選んだ理由に納得です。レースや手刺しゅう、フェザーの装飾のクラフツマンシップは相変わらず一級品。ただ、過去数シーズンはスタイルとしての新しい提案に欠けており、以前のユースカルチャーを投影したエネルギーはどこへやら。特にメンズは既視感が否めませんでした。プールに飛び込んで火照った体を冷やしたい衝動をこらえて、次のショー会場に急いで向かいました。

17:00 「コム デ ギャルソン・オム プリュス」

「コシェ」の会場から一転し、ビルのフロアを真っ暗にしたのは「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS以下、オム プリュス)」です。ゲストが密集状態のため熱気がこもり、汗がしたたり落ちてきます。この張り詰めた空気を感じると、「オム プリュス」のショーに来たなと実感します。今シーズンは“現実を越える”というキーワードのコレクションを披露しました。テーラリングを軸にした構成は不変でありながら、ジャケットの背中や裾にジャケットが付いていたり、パンツが天地逆さになっていたりと、目が錯覚を起こしているかのような仕掛けが続きます。

特に、「キッズ ラブ ゲイト(KIDS LOVE GAITE)」とのコラボレーションシューズは、つま先が上下左右にぶれたようにつま先が分離しており、コンタクトが乾いてシパシパする目を思いっきり閉じ、もう一度凝視したほど不思議な感覚になりました。見た目こそかなりアバンギャルドなのですが、後日展示会に行って試着するとちゃんとかっこいい服なのです。決して作品ではなく、あくまで商品であることが分かりました。あとは、お値段が気になるところです。詳しくはリポートにてご覧ください。

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18:30 「マイキータ × 032c」

ドイツ・ベルリンに拠点を置くアイウエアブランド「マイキータ(MYKITA)」と、同じくベルリン拠点のカルチャーマガジン「032c」が協業し、ギャラリーでプレゼンテーションを行いました。「マイキータ」が開発した環境に優しく耐久性の高い独自素材マイロ(Mylon)を用いて、3Dプリンターで制作した未来的なデザインのサングラスは、ベルリンらしいエッジが利いた仕上がりです。会場内では、キャンペーン映像に出演したシンガーによるパフォーマンスもありましたが、直射日光に晒されたショーの疲れを引きづっていたので、現物のサングラスだけ拝見してすぐに会場を後にしました。

20:00 「ケンゾー」

さあ、本日最後は「ケンゾー(KENZO)」のショーで公式スケジュールは締めくくりです。会場は、パリの現代美術館パレ・ド ・トーキョーとエッフェル塔をセーヌ川上につなぐドゥビリ歩道です。Nigoアーティスティックディレクターの盟友であるファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)が「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」メンズのデビューに選んだのもセーヌ川にかかるポンヌフでしたし、二人の絆の強さを感じます。そのファレルも、モノグラムの鮮やかなイエローのバッグを持参し、会場に現れます。ファレルはどの会場にも同じバッグを持って現れており、エディターよりも大きい荷物を抱えてる姿が何だかちょっとかわいいのです。

そして、アンバサダーであるK-POPグループSEVENTEENのバーノン(VERNON)さんも大歓声と共に現れました。ここで、ある言葉が頭をよぎります。「大塚さん、必死すぎてセレブに並走しながら撮ろうとしてるけど、それじゃあかん。撮りたい気持ちを我慢してダッシュでコースに先回りし、正面から撮れる位置を確保するんですよ」。1月のメンズ・コレクションで、朝日新聞の後藤洋平編集委員にアドバイスいただいた言葉でした。後藤編集委員の教え通り、並走したい気持ちを抑えてダッシュで前方スペースに走り込み、ゾーンディフェンスのように空間に陣取ってアンバサダーを待ち構え、至近距離すぎてのけぞるほどの撮影に成功しました。後藤編集委員、ありがとうございました。メンズ・コレクション取材は、このようにメディア同士の助け合いもあるのが好きなところです。

「ケンゾー」2024年春夏コレクションは、Nigoアーティスティックディレクターが1980年代に日本で聴いていたシティ・ポップの軽快なリズムをコレクションに盛り込みました。BGMは、コーネリアス(Cornelius)が制作。ワークウエアをベースにしながら、素材使いやシルエットで軽やかさを加えます。ウィメンズはロング&リーンの優雅なフォームで、メンズのテーラリングは、夏らしいリネン素材を使い、パステルトーンのカラーリングで高田賢三が好んだフレッシュさを表現しました。注目は、Nigoの長年の友人であるグラフィックアーティストVerdyとの協業です。同氏が手掛けたスワッシュ・フォントの“Kenzo Paris”のロゴを、ウエアやアクセサリーに大胆にあしらっており、人気を集めそうな予感。ほかにもビッグサイズのベレー帽やミリタリーキャップ、1980年代のストリート写真からヒントを得たバケットハットやガードキャップ、レザーとスエードを用いた新作スニーカー“ケンゾー P×T”など、アクセサリーも充実です。エッフェル塔を背景にモデルたちが歩く演出は、誰もが憧れるパリを絵に描いたような光景で、素直に素敵でした。アフターパーティー会場も素敵なルーフトップで、一日を素敵に締めくくります。

22:00 「ボッテガ・ヴェネタ」

が、まだまだ終わらないのがメンズコレ取材24時。公式スケジュール最後の「ケンゾー」のショーの後は、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」がサポートするカルチャーマガジン「エール・アフリック(AIR AFRIQUE)」出版記念パーティーに参加するため、ポンピドゥー・センターに向かいました。同誌はパリの若手クリエイターたちのアイデアから誕生し、アフリカに関連する現代カルチャーのコンテンツを掲載しています。「ボッテガ・ヴェネタ」は創刊のサポートのほか、読者コミュニティー構築や支援のためのプラットフォームやイベントを提供しています。ラグジュアリーブランドが、このような点のカルチャーをサポートする試みは素晴らしい。雑誌好きとしては、本当に心強いです。会場に到着するころには、DJによるバキバキのプレイで大盛り上がり。こちらの体もバキバキの中、時間が経つごとにさらに人は増えていき、もうすぐ日付が変わるとは思えないほどの盛況ぶりでした。こんな飲めや騒げやなパーティーだらけの中でも、ノンアルコールを貫くストイックな著者二人を自画自賛したいと思います。

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