フランス国立モード芸術開発協会が主催する2023年「ANDAMファッション・アワード(ANDAM Fashion Award以下、ANDAM賞)」のグランプリに、パリを拠点に活動するルイ・ガブリエル・ヌーチ(Louis-Gabriel Nouchi)=デザイナーによるメンズブランド「LGN ルイ ガブリエル ヌーチ(LGN LOUIS-GABRIELE NOUCHI)」が選ばれた。賞金30万ユーロ(約4710万円)に加えて、今年度のメンターであるクロエ(CHLOE)のリカルド・ベッリーニ(Riccardo Bellini)最高経営責任者による一年間のコーチングセッションが贈られる。
「LGN ルイ ガブリエル ヌーチ」は17年、「ヴォーグ・パリ(VOGUE PARIS)」やラフ・シモンズ(Raf Simons)の下で経験を積んだヌーチがスタート。新しいエレガンスを独自のコンテンポラリーの視点で表現。また読書好きなことから毎シーズン、本や作者に対しオマージュを捧げている。24年春夏コレクションでは1964年の小説「シングルマン(A Single Man)」を着想源に、男性のセンシュアリティーを再定義。ジェンダーフリュイドなコレクションには、環境負荷の少ない生地や天然染料、リサイクルプラスチックで作られたボタンやラベルを優先的に採用した。ヌーチは賞金の使い道や今後について、「社会的および環境的な責任という観点から、価値ある成長を持続していく。今年の課題は物流やパッケージング、保管などだ。賞金はホリデーに費やしたい気持ちもあるが、前述の価値観を大切にしつつ収益を上げられるよう、ブランドの根幹を強化するために使う」と答えた。また、マーケティングやウェブサイトの刷新にも取り組むという。
また昨年新設された特別賞には、ベルギー・ブリュッセル発の「エスター マニャス(ESTER MANAS)」とオランダ・アムステルダム発の「デュラン ランティンク(DURAN LANTINK)」の2ブランドが選ばれた。それぞれ、賞金10万ユーロ(約1570万円)に加え、WSNデベロップメント(WSN Developpement)が主催するフランスの見本市「プレミア・クラス(Premiere Classe)」のフレデリック・マウス(Frederic Maus)=ジェネラル・ディレクターによるコーチングセッションが授与された。
「エスター マニャス」はエスター・マニャスとバルタザール・デレピエール(Balthazar Delepierre)が2019年に設立。主にデッドストックの生地を使い、サイズインクルーシブのスタイルを特徴に、22-23年秋冬からショー形式でコレクションを発表している。今回の受賞について2人はランウエイという場において、サイズの多様性を提案し続けることへの自信がついたと語る。マニャスは、「悩んでいたけれど、業界がある意味“イエス”と答えてくれた。この評価は大きな意味があり、私たちに次なる扉を開いてくれた。目的のないファッションはもはや意味を持たない。この賞金は新鮮な空気を吹き込んでくれる。なぜなら、若手ブランドにとって日々の活動は簡単なことではないから」とコメントした。
デュラン・ランティンクによる「デュラン ランティンク」は、アップサイクルをコンセプトにしたコレクションブランドで、“春夏秋冬”と称したシーズンで年1回発表。19年度「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」では、セミファイナリストに選ばれた。パリに拠点を移し、オフスケジュールながら23-24年秋冬シーズンでパリコレデビュー。“23年春夏秋冬(ssaw2023)”のコレクションは、自身のアーカイブや他ブランドのアイテムを裁断し新しいものに作り替えた。受賞したランティンクは、「とても興奮している。緊張していたからか、今日のことは昨日や一年前のことのようにも思えるが、こうしてサポートを得て今後もパリで活動できることを幸せに思う。アップサイクルやリサイクル、デッドストックの活用には難しさもあるが、今後も取り組んでいきたい」とコメントした。今秋開催のパリ・ファッション・ウイークで、24年春夏コレクションをオンスケジュールで発表することを目指すという。
これらの他に、ピエール・ベルジェ(Pierre Berge)賞にアーサー・アヴェラーノ(Arthur Avellano)による植物性のラテックスを特徴とする「アヴェラーノ(AVELLANO)」、アクセサリー賞にラスラン・バジンスキーによるウクライナ発のヘッドウェアブランド「ラスラン バジンスキー(RUSLAN BAGINSKIY)」が受賞した。
12組のファイナリストは、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」や「ロンシャン(LONGCHAMP)」が提供するデッドストックの素材を使用できるほか、「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」や「ジル サンダー(JIL SANDER)」などを擁するOTBによるサステナブルデザインの成功事例から学ぶワークショップへの参加が認められる。