その出会いは衝撃的でした。1990年後半に東コレの発表を控えたデザイナーのアトリエでショーの事前取材をしていたときのこと、制服&ルーズソックス姿の17歳の女子高生モデルがフィッティングのために部屋に入ってきました。その存在感と言ったら!あっと息を飲む、とはああいうことを言うのでしょう。アニメや漫画でありますね?スターが登場するやいなや周囲の景色が吹き飛び、眩しくて相手をまともに見ることもできないみたいなシーン。脚が長く、黒い艶髪で、ちょっと突っ張った目線でまっすぐ立っている高校生の背後はマンションの一室なのに旋風が吹いている。私の脳内では冨永愛さんとの出会いはそのように転換・記憶されています。
その後、世界のトップモデルへと駆け上がってゆく愛さんを世界中のランウェイで見てきました。彼女が歩き始めた当時はランウェイに多様性という概念はなく、欧米勢を前にアジアやアフリカ勢は明らかに劣勢。だからランウェイでその姿を見るたびに誇らしかった。当時アントニオ・マラスがクリエイティブ・ディレクターを務めていた「ケンゾー」の2006年春夏コレクションでは生後半年の愛息子、章胤(あきつぐ)さんを抱いてショーに登場し新時代到来を予感させました。
子育てを優先し、一時ランウェイを離れていた冨永さんですが、36歳になった2016年にモデルとして完全復活を宣言しました。以降はランウェイに加えてテレビなどで活躍していることはみなさん、ご存知の通りです。36歳でモデルとして本格復活とは言うや易し、です。多様性という価値観が広がってきたとはいえ、ランウェイを見れば、まだまだ10代後半〜20代前半のモデルが活躍しています。その中で、彼女は「一生モデル」と先に言い切って道を切り開いてきました。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。