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「クレージュ」、ニコラス・デ・フェリーチェの改革 若年層のシェアは120%増

ニコラス・デ・フェリーチェ/「クレージュ」アーティスティック・ディレクター プロフィール

1983年生まれ、ベルギー出身。学生時代は音楽に没頭し、ミュージックビデオがきっかけでファッションに興味を持つ。ブリュッセルの有名校ラ・カンブルに進学すると、2008年にニコラ・ジェスキエールが率いる「バレンシアガ」のデザインチームに加入。在籍6年間でウィメンズのメイン・コレクションのシニア・デザイナー兼プレ・コレクションのヘッド・デザイナーを務めた。その後ラフ・シモンズ時代の「ディオール」を経て、15年に「ルイ・ヴィトン」に入社し、ジェスキエールと再び協働する。20年9月から現職

クレージュ(COURREGES)」が好調だ。現アーティスティック・ディレクターのニコラス・デ・フェリーチェ(Nicolas Di Felice)が2020年9月に就任以降、パンデミックの逆風をものともせず、年間売上高は2年連続で3桁成長を続けている。

デ・フェリーチェ=アーティスティック・ディレクターは現職に就任当初、同ブランドのDNAやヘリテージを大切にしながら「ロマンチックな要素や若い頃に通っていたナイトクラブを感じさせるようなラディカルなムードを加えていきたい」と語っていた。その言葉通り、若々しさを手に入れた新生「クレージュ」はY2Kブームの後押しもあってZ世代の新規顧客も着々と獲得しており、21年から22年にかけての15〜30歳のシェアはグローバルで120%増を達成。また韓国では、BLACKPINKやaespa(エスパ)といったK-POPスターの着用効果などが後押しし、主要卸先の大手ECでは同400%増という伸長率で存在感を急速に強めている。

日本でも、東京・銀座のドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GINZA 以下、DSMG)4階に常設スペースを4月にオープンするなど、アジア市場攻略に向けて着々と進んでいる。デ・フェリーチェ=アーティスティック・ディレクターは、1961年創業の「クレージュ」を約3年間でどう変えたのだろうか。本人に思いを聞いた。

「これはまだ始まりにすぎない」

WWDJAPAN(以下、WWD):現職に就いてからの約3年をどう振り返る?

ニコラス・デ・フェリーチェ(以下、デ・フェリーチェ):実は、ブランドのクリエイティブのトップとして仕事をするのは初めてだったので、就任当初はとても不安だった。サポートをする立場が多かったからね。でも、いざスタートすると余計な雑念はなくなり、満たされた感覚で仕事に取り組めた。そのおかげで、私たちは短期間で素晴らしい結果を残せている。私が就任した2020年ごろの「クレージュ」は低迷期で、世間からの興味関心は薄く、ストリートでも着ている人は少なかった。でも、今は違う。就任当初掲げていた「ブランドを立て直す」という目標はすでに達成できたし、次のフェーズに向けていろいろなアクションを起こしている。私は過去は振り返らないし、立ち止まるのが苦手だから、これはまだ始まりにすぎないよ。

WWD:好調要因の一つが、Z世代のファンを獲得したことだと思う。

デ・フェリーチェ:Z世代だけをターゲットにしていたわけではないから分からないけれど、K-POPスターが「クレージュ」を着てくれていることが、Z世代に影響を与えているのは間違いない。私は昔から音楽やライブが好きで熱中していたので、もしかすると無意識のうちのアーティストが好むような、ステージ映えするデザインになっているのかもしれないね。

WWD:日本市場でも韓国の成功例を応用できる?

デ・フェリーチェ:韓国での急成長は戦略なんて大それたものはなくて、全て自然に起こったこと。テクノロジーの発達で世界中の人々が交流しやすくなり、遠く離れた国に向けても、自分のデザインが愛されるきっかけを作れるようになった。でも、ブランド的にはそこを狙ってマーケティング戦略を打つ段階にはまだなくて、現時点では全てが自然に起こることが一番美しいと考えている。だから日本でも「クレージュ」が自然に浸透していけばうれしいし、そうなる可能性は十分ある。

「ブランドの核は人と人との一体感」

WWD:DSMGにオープンした常設スペースは、「クレージュ」が日本でさらに浸透していくための後押しになりそうだ。

デ・フェリーチェ:これまで多くのブランドがドーバー ストリート マーケットのサポートのおかげで知名度を広げてきたので、常設スペースができてとても光栄に思っている。初めて来日したときはお金がなく、DSMGで何も買えなかったのを覚えているから、なおさら感慨深いよ。売り場に置いた什具は、屋根の上にある白いアンテナをイメージしていて、2023-24年秋冬シーズンのショーに着想したもの。ショーで使った6メートルのアンテナを売り場用に小さくしてはどうかとDSMG側が提案してくれた。

WWD:23-24年秋冬シーズンのショーは、モデルがスマートフォンをタイピングしながら歩く姿が印象的だった。この演出やコレクションで伝えたかったことは?

デ・フェリーチェ:23-24年秋冬のショーは、AIやデジタルについて考えていた際に思いついたアイデアだった。AIは素晴らしい発明かもしれないけれど、私は少し怖れてもいるんだ。テクノロジーの進化はコミュニケーションを活性化し、人類の進化に貢献している一方で、中毒性があり、現代人はスマートフォンを触ることが癖になっている。まるでテクノロジーに監視されているような気分だ。私も恋人と過ごしているのに、一緒にいる感覚になれないことがあった。ショー会場では、スモークをたいて2メートル先が見えないようにすることで、スマートフォンに夢中で近くにいるはずの人の存在を感じない様子を表現した。

WWD:演出だけでなく、前傾姿勢のシルエットでもテーマを表現していた。

デ・フェリーチェ:私は常に新しいシルエットを探求している。23-24年秋冬シーズンでは、スマホ中毒の人たちの曲がった背中をイメージするうちに、私自身がその姿勢になってしまっていることに気付き、それをシルエットにするアイデアを思いついた。

WWD:シルエットのほかに、「クレージュ」ではどのようなクリエイションにこだわってきた?

デ・フェリーチェ:明日には古くなってしまう服を作らないこと。私が現職に就いたころのファッション業界は、デザインや個性よりもサステナビリティが先行しすぎて“目的”になってしまっており、ファッション性が失われているような感覚があった。今は、当時ほど多くの人がサステナビリティに関心を持っていないようにもみえる。持続可能性について考えるのは当然だが、服づくりにおいてはすぐ古いと思われないデザインを考え続けることが最もサステナブルであり、就任以降こだわってきたことだ。

WWD:今後チャレンジしたいことは?

デ・フェリーチェ:つい最近まで、「クレージュ」はフランスでは有名だが、アメリカでは発展途上で、若い人にはあまり知られていない状況だった。今後はまだ開拓できていないエリアに注力しながらブランドを成長させ、世界中のみんなが「クレージュ」を知っている状況を作り出すのが私の夢だ。

WWD:その夢の実現ために必要なものは?

デ・フェリーチェ:私が「クレージュ」で働き始めたころは物理的な交流が一番難しかった時期だったので、人と人との一体感を自然と求めるようになっていた。みんなをつなぐきっかけになることが、私たちが目指すゴール。コロナ禍で感じた一体感の価値は、日常が戻りつつある現在でも考えるテーマだ。全てが元通りになりつつあっても、人々の心はまだ離れたままだと感じることがある。だからこそ、私たちはこれからもクリエイションを通じて一体感のある未来を目指し続けたい。

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