ファッション

ザ シードが輸入販売する「ヴェジャ」 成長の背景にあるのは、環境と人への配慮

VEJA

ザ シード(THE SEED)が日本総代理店を務めるフランス発のスニーカーブランド「ヴェジャ(VEJA)」は、サステナビリティや透明性にこだわったモノづくりとビジネスモデルで成長を続けている。生産拠点を構えるブラジルで話されるポルトガル語で「見る」を意味する同ブランドが目指すのは、洗練されたデザインと社会的責任の両立だ。環境と人に配慮して作られたスニーカーのラインアップは年々充実し、現在はクリーンな定番スタイルからレトロスポーティーなデザイン、ランニングシューズ、ビーガンモデルまで、幅広いニーズに応えるアイテムをそろえる。それだけでなく、「マルニ(MARNI)」や「リック・オウエンス(RICK OWENS)」といったブランドとコラボレーションするなど、ファッションアイテムとしても注目度を高めている。ただ、その根幹にあるのは、従来のスニーカー界の常識にとらわれず、限界に挑戦し続けること。そんな「ヴェジャ」の今に迫る。

スニーカーを
長く愛してもらうための
リペア・プロジェクト

「ヴェジャ」がスニーカーを製造・販売するだけのビジネスモデルから進化を遂げたのは、フランス・ボルドーにあるエコロジーに特化した施設「ダーウィン(DARWIN)」に、修理とリサイクルに向けた初の実験的店舗を出店した2020年6月のことだ。「ダーウィン」は、もともとフランス軍の施設だった廃墟をリノベーションして、12年に誕生した。同じ理念や価値観を持つ人々が集まるコミュニティーのような施設には、ショップやコワーキングスペースから、イベント会場、スケートパーク、オーガニック食材や地産地消にこだわったレストラン、ベーカリー、畑、高校、モービルホーム、マイクロワイナリーまでが同居。自転車やバイクの修理屋、家具の修復やDIYを行う工房、古着や不要になった雑貨などを扱うスリフトショップなどもある。

そんなユニークな施設の中にある「ヴェジャ」の店舗には、修理職人が常駐するリペアカウンターや履き古されたスニーカーの回収ボックスを設けており、取り扱う商品もパリなどにある他の店舗とは異なる。中心となるのは、職人が小さな欠陥のある商品にリペアや補強目的のアレンジを施して唯一無二に仕上げたシューズ。また、生産終了したモデル、実際には商品化されなかったプロトタイプもある。通常の新品よりも低価格に設定することで、廃棄物を生まない努力を続けている。

そして、「ダーウィン」の店舗から始まったリペア・プロジェクトは広がりを見せ、現在はパリの百貨店ギャラリー・ラファイエット(GALERIES LAFAYETTE)の靴売り場にリペアコーナーを構えるほか、一部直営店にもリペアカウンターを併設。「ヴェジャ」のスニーカーだけでなく、他ブランドのスニーカーも持ち込み、修理やクリーニングをしてもらうことができる。価格もほとんどのサービスが数十ユーロと手頃。そこからは、ただ使い捨てるのではなく、所有するスニーカーをできるだけ長く愛してほしいという思いが感じられる。

環境と人に配慮した
スニーカービジネスへのこだわり

2005年にフランソワ・ギラン・モリィヨン(Francois Ghislain Morillion)とセバスチャン・コップ(Sebastien Kopp)が創業した「ヴェジャ」は、デザインと社会的責任の両立を目指し、スニーカー界の常識にとらわれずに歩み続けてきた。従来の方法に疑問を抱き、ゼロからやり直すというアプローチは、原材料の調達や素材開発から生産、物流にまで見られる。例えば、キャンバスや靴ひもに使われるオーガニックコットンは、ブラジルとペルーの生産者から直接調達。あらかじめ生産者と話し合い、市場価格よりも高い固定価格で買い取ることを保証する年間契約を結ぶことで、生産者が安定した収入を得られるシステムを構築している。また、ソールに20〜40%用いられる天然ゴムは、ブラジル・アマゾンのゴム樹液採取に従事する家族による協同組合から市場価格の5倍で調達。生産者を支援することにより、素材の品質を保証するとともに良好な労働・生活環境を提供している。さらに、リサイクルペットボトルを100%用いた「B-メッシュ」や、オーガニックコットンと組み合わせた「ヘキサメッシュ」、レザーの代替素材となるトウモロコシ由来のコーティングで覆われたコットンファブリック「C.W.L」など、新素材の開発にも積極的だ。

「ヴェジャ」は、生産面や流通面においても常に上を目指している。ブラジルに構える生産工場では、国際労働機関(ILO)の規則に従うだけでなく追加基準を設け、公平な労働環境や適切な生活水準を保証。サプライヤーにも透明性の向上を求め、社会的責任を問う監査や化学物質使用に関する検査を定期的に実施している。また、物流は創業以来、非営利団体の国境なきアトリエ(ATELIERS SANS FRONTIERES、ASF)や、運送大手XPOロジスティクス(XPO LOGISTICS)と非営利団体アレス(ARES)の合弁会社ロギンズ(LOG’INS)に委託。社会的弱者や軽度の障がいのある人々が社会復帰したり、自立したりすることを支援する。さらに18年12月には、社会や環境への配慮、透明性、説明責任、持続可能性において企業のパフォーマンスを評価する「Bコーポレーション(Bコープ)認証」を取得。そこから弱点を見いだし、さらなる改善に取り組み続けている。

共同創設者が語る
「ヴェジャ」の現在地

「ヴェジャ」は創業から一歩ずつ着実に前進し、世界60カ国以上で販売される人気スニーカーブランドになった。特にヨーロッパでは、街で目にしない日がないほど愛用者が多い。主にブランディングやデザインを監修するセバスチャン・コップ共同創設者に、「ヴェジャ」の哲学や現在の取り組みを尋ねた。

WWD:「ヴェジャ」は自社ECや卸売からスタートし、直営店を出店したのは19年と設立から約15年がたってからだった。現在は、パリやニューヨーク、ベルリン、マドリードなどに計6店舗を構えているが、実店舗はどのような役割を担っているか?

セバスチャン・コップ「ヴェジャ」共同創設者(以下、コップ):新作のローンチや本のサイン会といったイベントを開くなど、物理的に人が集えるアクティベーション(活性化)の場だ。

WWD:現在、ベルリンやマドリードなど一部の店舗には修理職人が常駐している。リペア・プロジェクトを始めたきっかけは?

コップ:きっかけは、リサイクル・プログラムに着手したことだ。しかし、そのためには10トン分の「ヴェジャ」のスニーカーを回収する必要があり、それと同時にリサイクルの前のステップとして、捨ててしまう前に修理できるものは修理して履き続けられるようにすることが重要だと気付いた。

WWD:店舗のリペアカウンターでは、「ヴェジャ」だけでなく他ブランドのスニーカーの修理も受け付けていて、寛大だと感じる。

コップ:寛大なわけでない。私にとって、人々が履き古したスニーカーを捨ててしまう必要がないと気付くことは未来のあるべき姿。修理することはスニーカーのライフサイクルを延ばし、その大切さを再確認することにつながる。そして、地球上の資源がどんどん限られていくなか、将来的には修理して使い続けることを強いられるかもしれない。

WWD:18年には「Bコープ認証」を取得したが、取得して良かった点は?

コップ:(申請のために回答が必要な)質問事項を読んだときに、透明性に関して「ヴェジャ」はまったく問題がないと感じたが、コーポレート・ガバナンスについてはこれまで疑問にも思ったことがなかったような内容があり、自分たちに改善できる点があると感じた。例えば、申請当時、フランスの法律では男性の育児休暇取得可能日数は11日だけだったが、男女の格差を是正するため、「ヴェジャ」では3カ月取得できるようにした。女性も4カ月半だったところを5カ月半の休暇を取れるようにした。つまり、難しい質問に答えていくことが、新たなアイデアをもたらしてくれたと言える。ただ、「Bコープ認証」は製品そのものよりも企業としてのパフォーマンスを評価するもの。認証を取得したとしても、素晴らしい製品を生み出しているとは限らない。

WWD:その点、「ヴェジャ」は創業当初からモノづくりにおける透明性にこだわり、その情報や課題を公式サイトで開示している。その理由は?

コップ:それは、自分たち自身のために「ヴェジャ」に取り組んでいるからだ。自分がもし顧客であれば、製品の背景を知りたい。私たちが示したいのは、環境と人に配慮しながらスニーカーを作れるということ。創業当初はその生産背景を気にする人なんていなかったし、今でもそこまで多くない。しかし、「ヴェジャ」ではそれを重視している。

WWD:3年前のインタビューでは「透明性の限界を押し上げ、革新的な素材を見つけること」を課題として挙げていた。それは達成できたと感じるか?

コップ:常に挑戦すべきことや改良の余地があり、達成感に浸ることはない。ただ、今はブランドの規模が大きくなり、研究開発やソーシングなどの新しいプロジェクトにより投資しやすくなった。そのため、たくさんのプロジェクトが同時進行している。

WWD:では、現在の一番大きな挑戦は?

コップ:レザーだ。そのもととなる牛が、遺伝子組み換えではないオーガニック飼料を食べているかまでトレーサビリティーを追求したいが、現状は難しい。「見る」を意味する「ヴェジャ」では、製品の製造工程だけでなく、原材料がどのように作られているかに至るまでを知ることが大切だと考えている。

広がる日本での展開
「グリーンエイジ」やドーバー ストリート マーケット
との取り組み

「ヴェジャ」を日本で展開しているのは、独自技術を生かした靴の製造や海外のさまざまなシューズブランドの輸入販売を手掛けるザ シードだ。同社が目指しているのは、100年後も社会から広く必要とされる企業になること。地球環境への配慮を考えると同時に、高品質かつ長く履き続けられる満足度の高い靴を提供することで、人々の足元を支えていくことを掲げる。

そのためのキーブランドの一つとして現在注力する「ヴェジャ」では10月11日、大阪・阪急うめだ本店8階の「グリーンエイジ(GREEN AGE)」にある日本初のコーナーをリニューアルオープンした。「グリーンエイジ」は、自然との新たな関わり方を提案し、生活者やブランド、地域と持続可能で豊かな未来を共創していくことを目指したゾーン。そのコンセプトに共感したブランドが、ラグジュアリーやファッション&スポーツからヘルス&ビューティ、ライフスタイルまで垣根なく並ぶ。「ヴェジャ」のコーナーは、アースカラーを基調にした空間に、多彩なスタイルのスニーカーをラインアップ。壁面には映像を映し出し、ブランドの哲学や世界観を表現する。

さらに、ドーバー ストリート マーケット ギンザ(DOVER STREET MARKET GNZA)で10月28日に開催されるイベント“オープンハウス”への参加も決定。レザースニーカーの最新モデル“V-90”をベースに、「ヴェジャ」のレザー廃材を使ってタイルキルティング風の装飾をあしらったスペシャルモデルを20足限定で販売する。

PHOTO (DARWIN, SHOP, OFFICE):KOJI HIRANO
EDIT & TEXT:JUN YABUNO
問い合わせ先
ザ シード
054-281-7111