ファッション

「サードマガジン」に感じるスピリット【メルローズと私vol.2 スタイリスト・大草直子さん】

メルローズは「マルティニーク(MARTINIQUE)」「ピンクハウス(PINK HOUSE)」など個性的なブランドを運営し、昨年50周年の節目を迎えた。同社と関わりの深い人たちによる連載「メルローズと私」の第2回のゲストは、大草直子さん。エディターやスタイリストとしてさまざまな服と接してきた大草さんの目に、メルローズはどのように映っているのか。ブランド立ち上げ当初からゆかりのある「サードマガジン」ショールームで話を聞いた。

育ちの良さそうな若者が、
はみ出そうと冒険する

高校生のころ、一番好きなDCブランドが「ジャストビギ」でした。人気のスタジャンは10代の私には高価すぎるため、なかなか手が出ませんでしたが、学校のテストの点数が良いときに母におねだりしたのも良い思い出です(笑)。あれから約30年が過ぎた今、私の23歳の娘が「ジャストビギ」のスタジャンがY2Kアイテムとして若者に人気だと教えてくれました。確かに古着市場を見ると、当時の商品がけっこういい値段で売買されていてびっくりです。本物は時代を越えて伝わるんですね。

私なりにメルローズやビギグループを表現すると「育ちの良さそうな若者が、ちょっとはみ出そうと冒険する」――そんな感じでしょううか。品格があって着る人を最大限に美しく見せるけれど、その枠だけに収まらない何かがあるのです。

例えば青山の「プレインピープル」のお店に入ったとき、調味料や食器が真ん中に陳列されているのに衝撃を受けました。洋服屋さんなのに出汁を売っている!着るもの、食べるものを一つのライフスタイルの軸で表現しているのが斬新でした。一方「マルティニーク」は、セレクトショップといえば尖った流行やモードを打ち出すのが当たり前なのに、育ちの良さ、クラッシーさを感じさせる。母と娘で買い物ができるお店ですね。それがかえって新しいと思いました。昨年と同じことはしたくない、他と同じことはしたくない。きっと、これがメルローズが脈々と築き上げてきた矜持だと思うのです。新しいことに挑戦し続けるのは簡単なことではありません。エネルギーが必要だし、険しい道です。でも、そうした姿勢だから半世紀もファッション業界をリードする存在であり続けたのでしょう。

訪れるたびに刺激を受ける場所

象徴的なのが2018年にスタートした「サードマガジン」です。EC(ネット通販)と連動したショールーミングストアを代官山に設け、1人のお客さまを感動的な接客でおもてなしする。代官山の一等地の広いスペースなのに、商品をずらりと並べて売るわけでない。画期的な挑戦だと思いました。スタートから5年以上が過ぎても、しっかりとお客さまに支持されているのも素晴らしいところ。

私も商品リースでよく代官山の「サードマガジン」を訪れますが、仕事はすぐに終わらせて、つい自分の買い物に夢中になってしまいます(笑)。SNSやユーチューブが全盛ですが、ここはディスプレーを含めて次々に新しい提案が行われるのでライブ感があるんです。訪れるたびに刺激を受けます。

「サードマガジン」には、クリエイティブディレクターの中山彩子さんの強いメッセージがあります。メッセージとは、すなわち服にスピリットを入れ込むこと。これがあるかないかが決定的な差を生みます。メルローズの人たちは服の力を信じ、服をリスペクトしている。だからタイムレスな魅力を放つのでしょう。

問い合わせ先
メルローズ
03-3464-3310(代表)