ファッション

「ディオール オム」2015-16年秋冬パリメンズ 進むべき道を見せた、端正のセットアップ

 「ディオール オム」の2015-16年秋冬メンズ・コレクションは、スワローテイルのフォーマル、タキシードから幕を開けた。タキシードは、見かける機会がすっかり減ってしまった伝統的なフォーマルウエア。ここからスタートするところに、クリス・ヴァン・アッシュの「若い世代に、『ディオール オム』の美しいスーツを着てほしい」という想いが、今シーズンはさらに強くなったことが伺える。このメゾンでクリスが提案したいのは、トレンドの先頭をひた走るモードではなく、あくまで、男性にとってのドレスのような存在で欠くことのできないスーツ。それは、たびたびインタビューで口にしている。

 だからこそ、序盤はラペルこそ短く、丈はコンパクトに、ボトムスもスリムにとアップデートこそしているものの、ラペルはサテンで、オール・ブラックで、カマーバンドさえしっかり取りつけた伝統的なフォーマルが相次いだ。伝統と少しだけ異なる点があるとしたら、それは、足元がスニーカーなところ。そして、今シーズンの「ディオール オム」は、この「少しだけの違い」をキーワードに、端正なセットアップを連打し、見る者を魅了する。

 「少しだけの違い」の種類はさまざまだ。たとえばキャップや被ったり、ラペルにカンバッジをプラスしたりというスタイリングもあれば、素材をデニムやレザーに変えるという提案もある。また、グレンチェックのスタイルにほんの少しのブルーやイエローを混ぜるという配色のアイデアもあれば、スポーティなメッシュやヴィンテージライクなレザーを使うという素材についての考察も存在する。ただし、いずれもデザインは基本から大きく変わらない。「何かを変えたら、ほかは変えない」というミニマルなアプローチに徹しており、これが、いずれのスタイルにおいても圧倒的な美しさを保証する。誰もが「美しい」と共感できる、安心感の高いコレクション。クリスの「ディオール オム」は、進むべき道を見出し、着実に歩みを進めている。

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