だからこそ、序盤はラペルこそ短く、丈はコンパクトに、ボトムスもスリムにとアップデートこそしているものの、ラペルはサテンで、オール・ブラックで、カマーバンドさえしっかり取りつけた伝統的なフォーマルが相次いだ。伝統と少しだけ異なる点があるとしたら、それは、足元がスニーカーなところ。そして、今シーズンの「ディオール オム」は、この「少しだけの違い」をキーワードに、端正なセットアップを連打し、見る者を魅了する。
「少しだけの違い」の種類はさまざまだ。たとえばキャップや被ったり、ラペルにカンバッジをプラスしたりというスタイリングもあれば、素材をデニムやレザーに変えるという提案もある。また、グレンチェックのスタイルにほんの少しのブルーやイエローを混ぜるという配色のアイデアもあれば、スポーティなメッシュやヴィンテージライクなレザーを使うという素材についての考察も存在する。ただし、いずれもデザインは基本から大きく変わらない。「何かを変えたら、ほかは変えない」というミニマルなアプローチに徹しており、これが、いずれのスタイルにおいても圧倒的な美しさを保証する。誰もが「美しい」と共感できる、安心感の高いコレクション。クリスの「ディオール オム」は、進むべき道を見出し、着実に歩みを進めている。