ファッション
連載 東京・コレクション

三原康裕の愛弟子「カミヤ」が大舞台に込めた思い ブランド改名と初の東コレ参加

メンズブランド「カミヤ(KAMIYA)」が、ブランド初のファッションショーを28日に行った。同ブランドは「メゾン ミハラヤスヒロ(MAISON MIHARA YASUHIRO)」を運営するソスウのブランドで、2016年に「マイン(MYNE)」の名で始動し、23年春夏シーズンに「カミヤ」に改名した。新たなブランド名は、ディレクター神谷康司の名前から採用している。

神谷ディレクターは1995年生まれ、愛知県出身。高校卒業後に販売員としてファッション界でのキャリアをスタートさせ、2016年に大阪の「マイン」直営店のスタッフとしてソスウに入社した。その後、東京店の店長などを経て、18年にブランドのディレクターに就いた。

当時の神谷ディレクターは、生産・企画は未経験だった。しかし、「お前しかいない」と三原社長に指名されたという。それまでの同ブランドは、グラフィックや色使いを売りにしたストリートウエアだったが、神谷ディレクターは色落ちやクラッシュ加工など、ビンテージ風のムードを加え、ブランドに新たな個性をもたらした。現在は東京・中目黒に直営店を構え、取り扱いアカウントは約30と堅調なビジネスを続けている。

ブランドの改名は、「よりパーソナルなクリエイションに挑戦するため。ビジネスに本腰を入れるため。そして、その覚悟を決めるため」と神谷ディレクターは言う。「当初はブランドらしさと自分らしさのバランスで苦労することもあった。長く向き合ってきた結果、今、ようやく胸を張って自分のブランドだと思えるようになった」。ショーは1年前に、改名を決断したタイミングで計画したという。「ブランドを知っている人にも、知らない人にも、これからの『カミヤ』の姿勢を感じてもらえたら」。

師匠から継いだエンタメ精神

会場は国立競技場の大型駐車場。広々とした空間の端に、ブランドロゴを乗せたモニュメントを2つ置いた。観客の多くは、モニュメントの間からモデルが登場すると思っただろう。しかし、大きなBGMが流れてショーがスタートすると、トラックがモニュメントをぶち壊し、貫通した穴からモデルが登場した。師匠である三原デザイナーの系譜を感じる、サプライズ演出だった。

「変える部分と変えない部分」
ショーに挑み、初めて見えた景色

コレクションは、ランウエイだからと肩肘を張らず、ビンテージ仕立てのリアルクローズを貫いた。「ブランドの自己紹介」として、定番品を多く登場させた。厚いコットン素材にインクを吹き付けたワークパンツやジャケット、色あせた加工のヘビーウエイトなフーディー、穴の空いたスエットシャツやニット、ネルシャツなどを披露した。また、よりパーソナルなコレクションを目指して、自分のルーツも掘り下げた。袖にあしらった炎のモチーフや背中に刺しゅうしたスカルなどは、「ファッションをピュアに楽しんでいた、大阪時代に好きだったモチーフ」だと言う。腰履きしたパンツから下着を見せたり、素肌の上にトップスをそのまま羽織ったりと、ルーズなスタイリングも、当時の好みを反映させたものだろうか。

一方で、ブランドの新たな挑戦として、カジュアル一辺倒にならない工夫も行った。クラッシュニットはハイゲージのものをレイヤードして味付けしたり、ワークパンツはナイロン素材で機能性を盛り込んだり。強みの加工技術も進化させ、ナイロンとポリエステルの混紡生地を二浴染めした自然な色落ちや、真っ白のレーヨンをシャツやパンツに縫製した後、黒やオレンジで製品染めし、その上からブリーチして色落ちさせるテクニックなどを取り入れた。フィナーレでは雪を降らせて、ドラマチックに演出した。

ランウエイ後に神谷ディレクターは、「ショーに挑むことで始めて気づくことも多かった」と話した。「ブランドとして変える部分と変えない部分、両方を意識して、自分たちにしかできないものづくりを追求していきたい」。さらに大きな収穫は、ファッションをピュアに楽しむ心を再発見したこと。「とにかく楽しかった。ファッションのワクワクを再認識できた。チームとともに、新しいことを吸収して、ステップアップしていきたい。がむしゃらにファッションを楽しんでいた、あの頃のように」。

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