シャッターの下りた店舗の前で、ストへの理解を求めるビラを配る組合員たち。私たちが知る百貨店の従業員は、洗練された姿形(すがたかたち)で接客しているイメージですが、この日は強い日差しの中、汗だらけになって、声を枯らして「西武池袋本店を守ります、何卒ご理解ください」と道行く人たちに必死に呼びかけていました。
ストは消費者や取引先に多大な迷惑をかけてしまうと心配する向きもありました。私が通行人に取材した限りでは「確かに休業は残念だけど、ストは大切な権利なので頑張ってほしい」「大好きな池西(西武池袋本店)を守ってほしい」という声が多かったです。
ただ、同じ日に親会社セブン&アイ・ホールディングスは、そごう・西武の売却を正式に決めました。きょう9月1日に手続きは完了し、そごう・西武はセブン&アイを離れて、米国の投資ファンドの傘下に入ります。ストが目指した結果は得られませんでした。
だとすると、ストは無駄だったのか。私は単純にそうとは言い切れないと思います。
日本では終身雇用制度の崩壊もあって労働組合の加入者が減り続け、ストなんて遠い昔の遺物のような扱いでしたが、今回の件で働く人の権利として主張すべきは主張することの価値が見直されたと思うのです。働き方が変わっても労働の問題は存在しつづけます。賃上げに限らず、労働環境を改善するために、働く人が個人で声を上げるだけでなく、仲間と連帯して主張する。そうすることで物事を前に動かす。労使の健全な関係は普遍性のある価値のはずです。
アメリカではZ世代が中心になってアマゾンやスターバックスで労組が結成されるなど、新しい動きも起きています。ハリウッドの俳優組合による43年ぶりのストライキも大きな話題になりました。物言う株主の力が強かったアメリカにおいて、長年沈黙してきた労働者も声を上げて、行動するようになってきたわけです。若い世代はSNSも用いて、連帯の輪を広げています。つまり「物言う労働者」の台頭です。
そごう・西武の従業員による反乱は、世界の潮流に合致しているのだとすれば、日本の労使関係においてエポックになるかもしれません。
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