ファッション
特集 東コレ2024年春夏

「ヨウヘイ オオノ」夢と希望をのせたショーで直球勝負 家族写真に見た平成初期の輝き

大野陽平デザイナーの「ヨウヘイ オオノ(YOHEI OHNO)」は、2024年春夏コレクションのランウエイショーを「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で9月2日に行った。

同ブランドは23年春夏から3シーズン連続で東コレに参加しており、その理由を「決死の覚悟がある」と大野デザイナー。「希望の持てない今の日本に向けて、まぶしいくらい夢のあるコレクションを見せたい」という強い思いがあった。

家族アルバムで見つけた
希望に満ちた平成初期の輝き

今シーズンのコレクションの起点は、大野デザイナーが実家で見つけた家族アルバムだった。現在36歳の大野デザイナーは平成の時代に、愛知県郊外のニュータウンで育った。「幼い頃の家族写真は“理想的な庶民の家族”のようで、平成初期の希望に満ちていたように見えた。しかしこの時代は今、“失われた30年”と言われ、希望の持てない時代が続いている」。

また、長年離れて暮らす家族を題材にしたことは、大野デザイナーにとって“受難”のようだったという。「実家に居心地の悪さを感じて15年以上前に上京したものの、家族を残して自由に生きていくことに後ろめたさがあった。それをモノづくりに反映することは、心がえぐられるような感覚だった。でも過去を見つめることで、未来につながるものを生み出せると思った」。

その“苦しみを乗り越える”という表現を、ショーに強く反映した。会場になった東京・代官山のイベントスペース、カラート71の美しいらせん階段を降りるモデルたちは、うつむき、カメラをにらみつけるような表情でウォーキングする。これは意図的な演出で、「地獄にいるように、見る人が不安を覚えるくらいの顔で歩いてほしい」と大野デザイナーがリクエストしていた。

構築的シルエットにのせる
懐かしい“田舎あるある”

今季は平成を過ごした者なら共感できる、懐かしいエッセンスが散りばめられていた。総合スーパーや量販店で売られているようなバッグをモチーフにしたドレスをはじめ、ビニールのテーブルクロスを使ったようなドレスやバッグなど、大野デザイナーいわく“田舎あるある”を落とし込んでいる。

また、学生時代の部活動を思い起こさせるスポーツの要素も際立った。ファーストルックのラグビーボールを象ったドレスをはじめ、運動着やジャージーをほうふつとさせるドレスや、アシンメトリートップスなど。スポーツメーカー風のオリジナルロゴもあらゆるアイテムにあしらった。いずれもブランドが得意とする構築的なシルエットや光沢のある素材感をプラスして、ウィットが効いていながらも洗練された印象に仕上がっていた。

家族と過ごした父の車と
未来を象徴するテスラ

“NEW TOWN, NEW CAR”と題したコレクションを象徴するのが、車のモチーフだった。ラスト4ルックは、車を象ったコンセプチュアルなピースを披露。ニュータウン育ちの大野デザイナーがイメージする家族との時間は、父が運転する車の中で過ごした時間。しかし、その車は家族アルバムには登場せず、どんな車種だったのか思い出せなかったのだという。

記憶の片隅にあった過去の父の車を対比するものとして、近未来の車であるテスラ(Tesla)の“サイバートラック(Cybertruck)”もコレクションの中で描いた。「“サイバートラック”は人類の大きな夢に向かって漸進(ぜんしん)するデザインとして、『ヨウヘイ オオノ』のモノづくりとのつながりを感じた」と大野デザイナー。

さらにラスト2ルックには、家族写真を水玉模様にコラージュしたベールを被せて、もう一方は父とのツーショットを大きく配置した。坂本龍一と娘の坂本美雨による楽曲「The Other Side of Love」を流し、家族への感謝の思いを伝える直球のメッセージを放つ。会場には大野デザイナーの父、母、姉が集まっており、目を輝かせてコレクションを見届けていた。

“これが日本のコレクションだと
自信を持って見せたかった”

大野デザイナーは、このコレクションに“夢や希望”を託している。しかしそれは、単に人々を明るく“がんばれ!”と鼓舞するものではない。「かましてやろうと思った。僕のコレクションは一般のお客さんだけでなく、デザイナーやクリエイターも見ている。ブランドのステップアップのショーではなくて、きれいごとでもいいから、(デザイナーやクリエイターに)夢を与えられることをやりたかった」とショー後に説明した。

会場には、大野デザイナーと交友のあるデザイナーやファッション関係者が来場しており、彼らはその思いをしっかりと受け取っているように感じた。

この壮大なる決意の背景は、大野デザイナーが好きなフランスの映画監督ギャスパー・ノエ(Gaspar Noe)が映画「クライマックス(CLIMAX)」の冒頭で、“誇りを持って世に出すフランス映画”と打ち出していることに感化されたのだという。「僕も日本のデザイナーとして、これが日本のコレクションだと自信を持って見せたかった」。

パーソナルなルーツを掘り下げた「ヨウヘイ オオノ」のエモーショナルで強いショー。このピュアで美しいクリエイションは、今後も多くの人々の心に刺激を与えていくだろう。

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