ファッション

世界的コンペの覇者「ソリット!」が目指すオールインクルーシブなファッション

「グッチ(GUCCI)」などを擁するケリング(KERING)やIBM、ロンドン芸術大学、「ヴォーグ ビジネス(VOGUE BUSINESS)」が共同開発したグローバルなファッション・コンペティションの「ファッション・バリュー・チャレンジ(Fashion Values Challenge.以下、FVC)」はこのほど、オールインクルーシブを謳うファッションブランドの「ソリット!(SOLIT!)」にグランプリを授けた。「ソリット!」は、これからの未来に向けて、多様な人々はもちろん、自然や動物も取り残さない社会を目指し、2020年9月に設立。企画段階から商品や環境に課題を感じる当事者を巻き込むインクルーシブ・デザインの手法をもとに、必要とする人に、必要とされるものを、必要な分だけを製造することを目指す。障がいの有無やセクシャリティなどを超えて、自分の好みや体型にあわせて部位ごとに1600通り以上の組み合わせの中からカスタマイズが可能な、自分のために作れるファッションサービスも運営している。田中美咲代表に、コペンハーゲンで開かれた授賞式のあと、話を聞いた。
「ソリット!」は現在2024年4月のバンクーバー・ファッション・ウイークへの参加のためのクラウドファンディングを行っている。返礼品は、オンライン配信のチケットやメイキングのドキュメンタリー映画上映会チケットなど。あわせて今月末まで、新宿マルイにポップアップをオープン中だ。

田中美咲(たなか・みさき)SOLIT代表  プロフィール

社会起業家・ソーシャルデザイナー。1988年生まれ。立命館大学卒業後、東日本大震災をきっかけに福島県における県外避難者向けの情報支援事業を責任担当。2013年「防災をアップデートする」をモットーに「一般社団法人防災ガール」を設立して20年に事業継承。第32回 人間力大賞 経済大臣奨励賞 受賞。18年2月に社会課題解決に特化したPR会社であるmorning after cutting my hairを創設。20年「オール・インクルーシブ経済圏」を実現すべくSOLITを創設。同社が開発したインクルーシブファッションは、世界三大デザインアワード「iF DESIGN AWARD 2022」で最優秀賞GOLDを受賞

――FVCへの参加のきっかけは?グローバルコンペでは、他の地域のファイナリストにどんな印象を抱いた?
田中美咲「ソリット!」代表(以下、田中):FVCはSNSで知っていたのですが、応募するか迷っていました。でも複数の知り合いから「これ『ソリット!』に合っていそう」とのメッセージをもらい、エントリーを決めました。日本のファイナリスト(「ソリット!」を含めて3社)はそれぞれとても魅力的で、グローバルのファイナリストも素敵なデザインのファッションサービスばかりでした。NFTを活用したサービスもあれば、民族・文化的背景からの開発も多く、それぞれが「ファッション」をどのように捉えているのか?がアウトプットに表れていると思いました。

――今回は欧州だけでなく、世界中から数百以上のエントリーがあった。そんな中で勝ち取ったプログラムに期待することは?
田中:これから半年間、ケリングやIBM、「ヴォーグ ビジネス」からのサポートに期待しつつ、こちらからも「これをやりたい」と言いまくろうと思っています。例えば今「ソリット!」ではマーケティングとターゲティングをレビューしていますが、今のコアターゲットは障がいのある方とか、セクシャルマイノリティ、高齢者ら、既存のファッションに「選択肢が少ない」もしくは「選択肢が存在しない」と感じている方々です。今は世の中にサービスは生まれつつあるのに、当事者が選択肢を知らないなどの理由で、マーケットがそもそも生み出されない黎明期にあると思うんです。つまり人数はいるけれど、まだマーケットになっていないのが現状です。私たちがターゲットを変えて、カスタマイズやパーソナライゼーションを楽しんでくれそうな人にシフトする方法もあるけれど、収益のためだけにその意思決定はしたくない。あくまで必要な人のためにモノ作りしたいんです。でもこれって、一社だと市場にならないのでもっとプレイヤーを増やすか、それこそケリングのような先駆的存在が「ここに、ちゃんと市場があるよ」と世の中に発信するなど、光を当てる力のある人たちがもっと注目してくれるといいなと思っていて。今回のプログラムでも、そこを一緒に作っていけるのであれば、とてもありがたいです。

――黎明期のマーケットで起業して、今年で4期目。起業までの経緯は?非営利団体から社会課題解決に特化したPR会社を経て、アパレル業界で起業したのはなぜ?
田中:幼少期から正義感が強く、行動力がありましたが、東日本大震災は大きなトリガーとなりました。自分の人生における時間などのリソースを「社会課題を解決するためにつかう」ことを決めました。まず当時勤めていたサイバーエージェントを辞めて被災地に移住して活動する中で、復興も重要だけど、対処療法的解決ではなく、システムチェンジや根本解決のために「防災」を行うべきと考え、非営利団体の一般社団法人防災ガールを立ち上げ、8年活動しました。
さらに構造的に課題解決をするには、自然災害だけではなく、複合的かつ同時多発的に解決・改善していく必要があると考え、同じく異なる社会課題の解決に挑む社会起業家の仲間たちを支援するため、社会課題解決に特化したPR会社のmorning after cutting my hairを創業しました。
私は、アパレル会社を経営したかったわけでも、ファッションブランドを始めてみたかったわけでもなく、あくまで環境問題や人権侵害などの課題へのソリューションとして「ソリット!」を生み出しています。初めに起業した時から今まで、対象とする課題やアプローチ方法は変わったけれど、いかに本質的に解決をするのかを常に考え、意思決定を続けてきました。大学時代からのバックパッカーで世界を一周するなど、日本の一般的な既存のルールやキャリアパスにあまりとらわれていないことも関係していると思います。

――海外も含め多様性のあるメンバーが参画しているが、普段のコミュニケーションで気をつけていることは?
田中:基本的にはSNSで個別DMが届いたり、知り合いの繋がりで共感してくださった方が「私にも何かできないか?」と連絡をくれたりが多いです。メンバーはみんな気候変動やジェンダー、人権に関して何らか強い意志をもち、アクティビストとは言い切れないまでも自分と社会の距離がとても近いメンバーばかり。1人では解決しきれないので、チームで挑戦したいと考えた人が多いです。
今のメンバーは40人ほどです。できているのかちょっとわかりませんが、私自身結構マメなタイプなので、メンバーとのコミュニケーションは多く取るようにしています。あと私にしかできない業務量をできるだけ減らして分担してもらい、私はみんなに茶々を入れたり「元気?」みたいなことを言ったりして、それぞれが本当にやりたいことをできるように調整することを意識しています。成果が出しやすい・見えやすい環境も作っています。今回のようなアワードを取ったり、ちゃんと売り上げにつなげたり、イベントの参加者を予想以上に伸ばしたり、それぞれに成功体験を経験してもらい、自分達の行動が社会とどうつながっているのかを共有できることがとても嬉しいです。

――今後の展望は?
田中:国内でも少しずつ露出が増えていますが、今回の受賞を機にグローバルにどのように評価されたブランド・会社であることがもっと伝わったり、それがきっかけで私たちのプロダクトが必要とされている方にもっと届いたりするといいなと思っています。
私たちはミッションからスタートしたファッションブランドですが、衣食住や生活環境の中で、よりオールインクルーシブで多様な人にも動植物にも配慮されている選択肢がもっと増えたらいいなと思っています。全てがそんなプロダクトにならなくてもいいけれど、そんな選択肢が50%くらいあると、それぞれ自由に選べて、表現できる幅が増えて、自分がより自分らしくあれる可能性が生み出せる。見たい景色は、ファッショアイテムはもちろんのこと、例えばコンビニで売られているお菓子とか果物、文具も、50%はそういうものから選べる状態です。
まだまだ小さなスタートアップですが、ここからさらにたくさんの企業や自治体の方々と協力しながら、目指す社会を実現していきたいです。

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