スペイン発のアクセサリーブランド「ヘイマット アトランティカ(HEIMAT ATLANTICA)」のプレスツアーに参加してきました。同ブランドは、“手工芸の職人技を現代化し、促進すること”を理念に掲げ、ハンドメードのカゴバッグを中心に商品をラインアップしています。
同ブランドは、スペイン出身のモンセラット・アルバレス(Montserrat Alvarez)が2016年に創設すると、すぐにパリの伝説的コンセプトストアであるコレット(COLETTE)と、アメリカ発ラグジュアリーECのモーダ・オペランデイ(MODA OPERANDI)やドーバー・ストリート・マーケット(DOVER STREET MARKET)で取り扱われ、20年からは「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」とのコラボレーションを継続しています。日本では伊勢丹やトゥモローランド(TOMORROWLAND)で販売しており、価格帯は275〜498ユーロ(約4万5000〜8万円)です。
目的は伝統産業の継承
今回のプレスツアーでは、同ブランドが拠点とするスペイン北西の大西洋に面したガリシア地方に滞在しました。このエリアにはキリスト教三大聖地として有名なサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂があり、1000年以上の歴史を持つとされるフランスからスペインへの巡礼路は、世界遺産にも登録されています。同じ巡礼道として、日本の熊野古道と姉妹道提携を結んでいるのだとか。このことから、歴史の長さと神聖な地であることが想像できるのではないでしょうか。街中には巡礼路上の道標や、聖地を目指す長い道のりに備え登山用の服を身に着けた観光客を多く見かけました。角を曲がれば教会に当たるほど小規模なカトリック教会が点在し、同ブランドのアトリエも教会の目の前でした。
「ヘイマット アトランティカ」のシグネチャーであるカゴバッグは、ガリシアに隣接したポルトガル北部の小さな街で、数世紀に渡って受け継がれる伝統的な手編みのアシカゴを用いています。今回訪れたガリシアのアトリエでは、女性職人が持ち手や装飾となるレザーを制作する現場を見ることができました。カッティングから編みまでを全て手作業で、測りも使わず完璧に仕上げていく手さばきは、まるでマジックのようです。そしてバッグの魅力は、裏地にもありました。「ロエベ(LOEWE)」も採用している、熟練革職人が集まるスペインのウブリケ村産の高級レザーを裏地に使用するというぜいたく仕様。全てハンドメードのため生産数には限りがあり、一つのバッグが完成するまでに36時間を要するといいます。
主要市場はアメリカとフランス、韓国、日本で、「少数の厳選したリテールと協力することで、ブランドを建設的に成長させ、希少性とユニークな気質を維持したい」と、創設者のモンセラット。「ヘイマット アトランティカ」のビジネスの指針は、市場規模の急進的な拡大ではなく、あくまで「手工芸のコミュニティーを作り、伝統産業の保護」なのです。
神聖で楽しいデザイン
創設者自身とブランドのユニークさは、さまざまなコラボレーションにも現れています。スペインが誇る最高級磁器メーカー「サルガデロス(SARGADELOS)」と制作した陶器のアクセサリーや花瓶に加え、大西洋で採れる貝殻を使ったジュエリーラインもその中の一つです。これらもハンドメードで、“コラレイラ”と呼ばれる海女兼職人の女性集団が貝殻の採集から装飾までを手掛けています。貝殻はガリシアの名産品であるとともに、ホタテの貝が教会のステンドガラスに描かれたり、チャペルの外壁前面を覆っていたりと、神聖な存在として伝わっているようです。「ヘイマット アトランティカ」のデザインには、縁結びの象徴とされるタツノオトシゴや、口を開けた人の顔のようなお守りを意味するモチーフを取り入れています。このようなスピリチュアルな要素は、キリスト教三大聖地とされるガリシアならではの精神性なのかもしれません。
プレスツアーでは他にも、ガリシアでマザーオブパールの生産をたった一人で継承する男性の職人に会ったり、スクーナー船で大西洋を回遊したり、庭園でのディナーなど、充実したプログラムを満喫しました。滞在したのは、今年5月にオープンしたホテルのペペ・ビエイラ(Pepe Vieira)。ガストロノミーの至福の味や、コテージタイプの大きなガラス壁から眺める雄大な自然風景はこれぞパラダイスといえる美しさ。
神聖なガリシアの空気に包まれて、私も心が浄化されたような気分になりました。「日本への旅行が人生で最も感動的だった」という、親日家の「ヘイマット アトランティカ」創設者モンセラットは、プライベートとポップアップイベントを兼ねて日本を再訪するのが夢だと教えてくれました。「ヘイマット アトランティカ」の神聖なムードを日本でも体感できる日は、そう遠くないかもしれません。