ラリン ジャパンが展開する「ラリン(LALINE)」は、イスラエル特有の死海のミネラルや厳選された植物エキスやオイルを使用したコスメブランドだ。1999年に従姉同士の2人によってイスラエルで誕生し、2011年2月にアジア第1号店を表参道にオープン。16年5月にラリン ジャパンはTSIホールディングス傘下となり、現在、ファッションビルやモールを中心に国内35店舗を展開する。この度、あらためて本国イスラエルと日本の強固なパートナーシツプを築くために、エレズ・マルカ(Erez Malka)ラリンCEOが来日。今年4月に着任した石原教宏ラリン ジャパン社長と共に、現状と新たな成長に向けての戦略について聞いた。
WWD:来日の目的は?
エレズ・マルカ=ラリンCEO(以下、マルカ):コロナが収束してやっと来日することができた。この3年間は非常にタフな期間だったが、今後、日本市場でのさらなる成長に向け、あらためてラリン ジャパン、そしてTSIホールディングスとの関係を築いていきたいと思い、来日した。
石原教宏ラリン ジャパン(以下、石原):コロナ禍の3年間は十分な情報交換も出店もできず、さまざまな戦略が停滞した。ここでもう一度顔を合わせ、戦略を立て直そうと思い、来日してもらった。今、イスラエルは好景気。国の産業としては、テクノロジーが一番。AIやデジタル領域の産業が伸長していて、若い富裕層も多い。現地に出向くと世界の経済は大きく変わり始めていることを実感する。
WWD:アフターコロナの世界のコスメ市場の状況をどのように捉えているか?
マルカ:急激に復活する市場もあれば、まだコロナ禍前のレベルに達していない市場もある。イスラエルは22年1月には回復しており、おおよそ世界のビューティ市場も活況が戻りつつある。その中で日本市場の回復は最後だった印象だ。
イスラエルでは135店舗、全ての店舗が黒字
WWD:本国イスラエルでの「ラリン」の位置付けと現状は?
マルカ:イスラエルの国の大きさは四国程度。そこに135店舗があり、全ての店が黒字で好調だ。ただ、新しい商品を矢継ぎ早に投入しないと飽きられるし、お客さまは魅力を感じない。アフターコロナの市場では、その流れが顕著だと感じており、全体の20%程度は常に新商品に入れ替え、鮮度を保っている。今後は、さらにその入れ替えはスピードアップすることも考えられる。
石原:135店舗展開していて、全店黒字というのはオペレーションが優れていることの証。学ぶべきことも大いにある。「ラリン」はイスラエル一のアパレル会社のフォックスグループの傘下というのも大きい。そのグループの中でも「ラリン」は中核ブランドに位置付けられる。
WWD:強化しているカテゴリーは?
マルカ:フェイスケアだ。「ラリン」は、死海の塩を使用したボディースクラブを中心とするボディーケア商品のイメージが強いかもしれないが、全体の65〜70%を占める程度。他にタオルなどの雑貨類やルームフレグランスなど幅広く展開するライフスタイルブランドだ。その中で、イスラエルに限らず、フェイスケア商品への要望が強く、今後、さらに注力していく。
WWD:「ラリン」の展開国と成長している国は?
マルカ:現在、カナダ、台湾、オーストラリア、グルジア、日本の5カ国に輸出している。
売り上げ構成比はイスラエルが70%、海外が30%(ともに卸しベース)。海外の売り上げの20%を日本が占めている。イスラエルの売り上げは毎年前年比3〜5%増と安定して伸長している一方、4年前に進出したカナダの22年度売上高は、前年比28%増と大きく成長している。今後5年間で、アメリカ、メキシコ、ヨーロッパのスペイン、フランス、イタリア、そしてアジア諸国への輸出拡大を計画している。
日本ではECの売り上げがここ数カ月で急速に伸長
WWD:11年にアジア初の店舗として表参道店をオープンして以降、日本の状況をどう捉えているか?
マルカ:個人的には日本が大好きで、TSIホールディングスはいいパートナー。一緒に仕事ができて幸せだと思っている。今は、イスラエルと日本のお客さまの違いを学んでいる最中だ。例えばパッケージの大きさは、日本はイスラエルに比べ小ぶりなものを好む。
石原:気候の違いも大きく、冬でも気温17〜18度程度で湿気があるイスラエルと日本では、乾燥肌に対する考え方も異なる。
マルカ:それに、日本のお客さまは好奇心が旺盛で非常に賢い。商品の成分や効果などをより詳しく知りたがる傾向が強い。
WWD:16年時に21年で50店舗、売上高30億円を目指していたが、その進捗は?
石原:コロナ禍で経済が停滞してしまった影響は大きく、現在35店舗で、ルクア大阪が1番店。売り上げに関してもまだ未達だ。これからTSIホールディングスが中期経営計画を発表するが、そのタイミングでしっかり達成できるようにしたい。
WWD:そのための仕掛けは?
石原:日本のEC売り上げがここ数カ月で急速に伸びており、本国も全面的に協力してくれていることもあり、ここに大きなチャンスがあると感じている。現在、ECが全体の売り上げの12〜13%を占める。ピューティのスタッフは、SNSに関しての知識も理解度も高く、面白くてパワフル。その能力を生かしてインスタライブなどを積極的に行いSNSでのお客さまとのタッチポイントを増やし、ECの割合をさらに上げていく。また、日本化粧品検定受験などさまざまな面でのスタッフのスキルアップを後押ししている。
「ウーマン エンパワーメント」を体現
WWD:EC強化の戦略は他の国でも同じ?
マルカ:もちろんイスラエルもECは成長しているが、昨今の日本の成長に比べるとスピードは落ちる。なぜならイスラエルのEC売り上げの伸長のピークは日本より早かったからだ。
石原:先日、イスラエルに行った時はデリバリーの速度の改革に入っていた。オーダーして最長2時間、早ければ20分で届くという、まるでフードデリバリーのようなシステムを構築していることに驚いた。四国程度の国土にメインのデリバリーセンターがあり、サポートセンターをどこに作るかや、テクノロジーによるサプライチェーン構築についてのディスカッションをしていて、われわれはまだまだだと思った。
マルカ:フォックスグループは今、1400億円を投資し、中近東で一番大きな物流センターを建設しようとしている。その半分はロボット技術への投資だ。完成すれば「ラリン」もそこから出荷するし、これから輸出する国が増えても十分対応できる体制が整う。
WWD:日本市場はまだ伸び代があると思うか?
マルカ:今回、3日間日本市場を見て、素晴らしい市場だと思ったし、伸びる可能性が大いにあると確信した。イスラエルは約900万人の人口で135店舗あり、97%のブランド認知度を誇る。日本は約1億2000万人の人口で35店舗しかないから、爆発的に成長すると期待している。さらなる成長のためには、一流のロケーションに出店すること、そして、いい商品を提供することが重要だ。日本のような厳しい審美眼を持つ市場では、ベストセラーとなるような商品を提供し、一番いい体制で臨まなければ商機がないことは理解している。その一環として、日本限定の商品もスタートしているし、来年はブランド誕生25周年で、コラボアイテムなど特別な商品も予定している。
石原:出店にあたり、デベロッパーからは若い層を取り組むことを期待されている。とはいえ、「ラリン」の商品は4000〜5000円が中心価格帯。それを納得して購入する感度の高い若年層がいる場に出店していく。マルカCEOが言う「一流のロケーション」というのはそういう意味だ。そして、「ラリン」の創始者から続くフィロソフィーは「ウーマン エンパワーメント(WOMEN EMPOWERMENT)」。女性が商品を使って幸せな気持ちになり、自信を持って社会に出ていくことを後押しする存在であることを目指してきた。ラリン ジャパンの従業員は約170人でうち男性は4人。あらためてそのフィロソフィーに立ち返り、彼女たちにポジティブに活躍してもらい「ウーマン エンパワーメント」を体現していく。