コンデナスト・ジャパンの「GQ JAPAN」は9月29日、石田潤「GQ JAPAN」ヘッド・オブ・エディトリアル・コンテントが就任し、コンテンツをリニューアルした2023年11月号を発売した。本号は「ART TALK アートの話をしよう」と題し、表紙にはアートに造詣の深いBTSリーダーのRMを起用。現代芸術作家の杉本博司との対談などを届け、TOKYO NEW GENTLEMENの知的好奇心の喚起を狙う。新生「GQ JAPAN」は、ファッションやビューティをどう伝え、拡大するトピックスや発信手段にどう向き合うのか?また、TOKYO NEW GENTLEMENとはどんな男性像なのか?石田ヘッド・オブ・エディトリアル・コンテントに聞いた。
メンズ誌の王道の責任者が
女性というのも、
「今の時代らしい」
WWDJAPAN(以下、WWD):「GQ JAPAN」の編集トップに就任した経緯は?
石田潤「GQ JAPAN」ヘッド・オブ・エディトリアル・コンテント(以下、石田):昨年秋に、(コンデナスト・ジャパンの)北田(淳)社長と久しぶりにゆっくり話す機会があり、このポジションにふさわしい人物を探されていることを知りました。正直最初は、「女性の私に、メンズメディアのトップが務まるのだろうか?」とも思ったんです。その後「GQ JAPAN」が開催する「GQ MEN OF THE YEAR 2022」で、「GQ」のウィル・ウェルチ(Will Welch)=グローバル・エディトリアル・ディレクターに会って、「新しい『GQ JAPAN』を作ってみない?」と誘われたんです。以降、「これまでと違うものを目指しているなら」と考えるようになりました。「GQ JAPAN」は、メンズ誌の王道。その責任者が女性というのも、「今の時代らしい」と思えるようになって決断しました。
WWD:新しい「GQ JAPAN」とは?
石田:まずは「GQ」の原点に立ち返り、それをアップデートしたいとシンプルに考えています。「GQ」とは元来「Gentlemen’s Quarterly(ジェントルマンの季刊誌)」という意味。ジェントルマンに向けたメディアだから、「新しいジェントルマンって、どんな人だろう?」「そんなジェントルマンは、何を求めているんだろう?」と考え、ルーツを踏まえつつ、今の東京にふさわしいジェントルマン像を提案していきたいという意味を込め、「TOKYO NEW GENTLEMEN」というコンセプトを定めました。
「TOKYO NEW GENTLEMEN」は、
世界のどの国の男性よりも多様
WWD:「TOKYO NEW GENTLEMEN」とは?
石田:「ONE GQ」を説くウィル=グローバル・エディトリアル・ディレクターは、「NEW GENTLEMEN」を「旧来の男らしさにとらわれない、自由な男性らしさ」と考えています。私も全く同感ですが、元来ジェントルマンというのは、時代は変われど、知的で高潔、信念と独自のスタイルを持ち、常に未知の世界を探求しようとする冒険心に溢れた人物を指すと思います。そしてそれは、今も昔も各国の「GQ」が共有する男性像でもあります。
その上で東京のジェントルマンは、世界中の男性よりも「旧来の男らしさにとらわれない」多様性を持っています。私は「ヴォーグオム ジャパン(VOGUE HOMME JAPAN)」(2008年9月に創刊)の立ち上げに関わりましたが、当時から東京のジェントルマンは、「コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME DES GARCONS HOMME PLUS)」で川久保玲さんが提案したようなメンズのスカートを違和感なく受け入れていました。ことにファッションにおいては、東京のジェントルマンが体現するスタイルは常に開かれていて、だからこそマーク・ジェイコブス(Marc Jacobs)やキム・ジョーンズ(Kim Jones)ら数多くのクリエイターは幾度となく来日し、東京のストリートを歩くメンズのスタイルに影響を受けクリエイションを進化させてきたと思います。ハイ&ローの組み合わせや、ファッションとカルチャーの融合もいち早く、ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)らフロントランナーは、その先進性を面白がっている。そして興味の範囲はファッション、時計や車のみならず、アート、デザイン、食、旅行、ビューティへと広がっている。こうして常に未知の世界を知ろうとし続ける「TOKYO NEW GENTLEMEN」に世界各国の「GQ」が生み出すコンテンツを届けたいと思っています。
ウィル・ウェルチからの要望は
「日本からも発信してほしい」
WWD:他のインターナショナル・メディア同様、各国の「GQ」との連携は進んでいく?
石田:グローバル化はさらに進んでいます。今は各国のヘッドがオンラインでつながる企画会議が頻繁です。米英のコンテンツをリフトするだけでなく、各国の「GQ」のコンテンツはテーマに見合えば積極的に取り入れます。もちろん、「GQ JAPAN」のコンテンツも世界に広がっていきます。ウィルも日本に注目しており、「日本から、どんどん発信してほしい」とも言われます。企画段階から「どこが?」「何を?」を共有し、コンテンツの相互提供を加速させています。例えば各国の「GQ」チームが新たに取り組む、「GQ HYPE」というデジタルに特化したプロジェクトでは、「GQ JAPAN」は8月、米津玄師さんを取り上げました。すでに台湾やインドとコンテンツをシェアしています。バイリンガルの「GQ HYPE」の記事は、読者の1割以上、多いときは2割以上が海外からのアクセスです。ローカルコンテンツを深掘りすることでグローバルに楽しまれる「Local could be global.」のムードを感じています。一方、私が「GQ JAPAN」編集部に参加して初めて手掛けた10月号では、グローバルカバーのファレル・ウィリアムス、各国の「GQ」が推薦する若手デザイナーの紹介ページに続けて、「GQ JAPAN」が取材した日本人デザイナーを掲載しました。テーマに応じて、グローバルとローカルを上手く融合させていきます。
WWD:ファッションやビューティとはどう向き合う?
石田:ファッションビジュアルに関しては、新しいジェントルマン像にふさわしいと思われる方を、セレブリティーからクリエイターまで、さまざまなジャンルから選び、被写体に起用していきたいと思います。アップカミングな才能にも注目したいですね。ビューティは、「GQ JAPAN」読者の関心が高いコンテンツの一つです。誌面だけでなく、デジタルやSNS、イベントなど多角的に取り組んでいきたい。
今一番の話題は、アート。
最も話題だから
取り上げる使命がある
WWD:現職に就任して最初のリニューアル号は、「ART TALK アートの話をしよう」と題した。アートを取り上げた理由は?TOKYO NEW GENTLEMENの間で、アートが盛り上がっていると感じる?
石田:日本で開かれるアートフェアやアートフェスティバル、展覧会を見ていて、これまでとは異なる幅広い客層の来場などの勢いを感じていました。メディアには、その時、最も人々の話題になっているもの、こと、ひとを取り上げる使命がありますが、アートは今、その一つだと思います。
著名人との繋がりは「GQ JAPAN」の特徴でもあるので、音楽からファッションまで、さまざまなジャンルのアートに造詣の深い方々に登場していただき、いろんな話を伺っています。読者にはアートに関心はあるけれど、一方で「どう接して良いのか、分からない」という人たちもいるでしょう。そんな方々が奥深い世界を知るきっかけになってくれたらうれしいし、今まで「GQ JAPAN」を意識してこなかった方々にも届けばと願っています。
WWD:著名人との深い繋がりを活用し、表紙にはBTSリーダーのRMを起用した。
石田:表紙は、あくまでテーマに沿ったビジュアルを打ち出していこうと考えています。RMさんが世界的なスーパースターであることだけが起用の理由ではないんです。彼はアート界のパワーパーソンの一人でもある。そんなRMさんにアプローチしたら、「杉本博司(写真から彫刻、インスタレーション、建築、古典芸能まで多岐に渡り活躍する現代美術作家。2010年に紫綬褒章、13年にフランス芸術文化勲章を受章)さんに直接お話が伺えるなら来日する」と前向きなお返事をいただき、江之浦測候所(杉本が設計した壮大な文化施設)での撮影が実現しました。RMさんは、韓国で入手できる限りの杉本さんにまつわる文献を読んだ上で、対談に臨んでくれました。
こうしたスペシャルな企画は、「GQ JAPAN」だからこそ実現できたのだと思います。クロスカルチャーで、ユニークなビジュアルとストーリーを発信していきたいですね。
WWD:表紙を含む紙媒体、ウェブ、そしてSNSはどう使い分ける?
石田:紙媒体は、メディアの顔であり心臓部。コンセプトが一番凝縮したものです。各種デジタルプラットフォームはそれぞれの特性を活かしたコンテンツを作っていきますが、中でもインスタグラムは、紙媒体と並ぶメディアのもう一つの顔。フィードを見ると特徴がわかるように、新たなコンセプトに沿って刷新する予定です。これまではセレブリティーを中心に構成してきましたが、さらにカルチャーやライフスタイルのトピックスもプラスし、グラフィカルに見せていきたいと思っています。日本デザインセンターの色部義昭さんにもご協力いただいて、見ているだけでも楽しいものにしたいと思っています。YouTubeでも、扱うジャンルの拡大に伴い、新しいシリーズをスタート予定です。雑誌の発行は年に8回なので、ウェブでは雑誌同様に編集したコンテンツをどんどん発信したいと思います。
コンデナスト広報部
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