ファッション

学生起業のスパイバーが世界初の「人工構造タンパク質」素材を量産化するまで

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ゴールドウイン(GOLDWIN)は9月29日、スパイバー(SPIBER)の人工タンパク質「ブリュード・プロテイン(BREWED PROTEIN)」糸を使った17アイテムを「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」など主力4ブランドで販売を開始した。これまでのように数十着の限定販売ではなく、数千着の在庫を構え、通常販売する。最新のゲノム編集を駆使して新素材を設計し、原料に石油を使わない人工構造タンパク質素材は、次世代の本命サステナビリティ素材の1つ。二人三脚で繊維・アパレル分野の開発を進めてきた両社は人工構造タンパク質素材で、かつて世界を席巻した日本の繊維産業の復活の号砲を鳴らす。その裏側を追った。(この記事は「WWDJAPAN」2023年10月9日号からの抜粋です)

*文中敬称略

ゴールドウインからトヨタ、小島プレスなど、
繊維&異業種のトップの強力支援も

2014年の夏、ゴールドウインの専務(当時、現社長)の渡辺貴生は新井元(現・常務執行役員)を連れ、2人で山形県鶴岡市のスパイバーを訪ねた。慶応義塾大学発のベンチャー企業として注目を集めてはいたものの、当時のスパイバーはようやく糸の少量生産にこぎつけたばかり。

だが、創業者で社長の関山和秀(当時31歳)と共同創業者で取締役の菅原潤一(同30歳)の2人の若者が語る、「石油を使わず、地球環境に極めて優しいタンパク質を遺伝子レベルで合成し、どんな素材も設計できるようになる」という壮大な夢に大きな衝撃を受けた。「まさに未来のあるべき繊維・アパレル産業の姿がそこにあった。何としてもこの夢の実現に自分も参加したい」と即座に腹を決めた。この出会いは、スパイバーが海外の並みいる強豪を抑え、世界初の人工構造タンパク質素材の量産化を実現する最後のピースになった。

当時、クモの糸に代表されるタンパク質の遺伝子を解析し、繊維や医療、人工培養肉などの用途に応じて再設計し、材料や素材として開発する、人工タンパク質のスタートアップ企業が世界中で次々と誕生し、注目を集めていた。スタートアップ大国の米国では、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)やパタゴニア(PATAGONIA)とコラボレーションしていたボルトスレッズ(BOLT THREADS)、人工培養肉で知られるスタートアップ企業界の大物のアンドレアス・フォーガッシュ(Andras Forgacs)が立ち上げた人工レザーのモダンメドウ(Modern Meadow)などが、有力なベンチャーキャピタル(VC)や投資家から巨額の資金を調達するなど、まさに花盛りだった。

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