シェルバ英子/ユニクロ グローバルマーケティング部部長 プロフィール
(しぇるば・えいこ)大学卒業後、外資系アパレル企業などを経て、2001年ファーストリテイリングに入社。同年に発足した、現在のサステナビリティ部の前身「社会貢献室」に配属。 以降、サステナビリティ活動の企画・運営を担う部署にて「全商品リサイクル活動」や「ユニクロ東北復興応援 プロジェクト」、「Clothes for Smiles」といった各種社会貢献プロジェクトの立ち上げに参画
ユニクロが、回収した自社古着の販売に乗り出した。10月11〜22日に「ユニクロ原宿店」地下1階でポップアップストアを実施。同社は2006年に店頭での衣料品回収をスタートし、難民支援や被災地支援などに充ててきた。「20年近く活動を続けてきた中で、支援に充てる量以上の古着の在庫がある」(広報担当者)ことからポップアップ開催に至ったが、1回きりのイベントでは終わらせず、循環型社会を目指す取り組み「リ・ユニクロ(RE.UNIQLO)」の一環として事業化を目指す。競合の「ザラ(ZARA)」「H&M」なども、二次流通の事業化に向けてさまざまな検証を目下行っている。ユニクロでサステナビリティを推進するシェルバ英子グローバルマーケティング部部長に、ポップアップの狙いや「リ・ユニクロ」プロジェクトの手応えを聞いた。
WWD:古着販売に乗り出す意図は。
シェルバ英子ユニクログローバルマーケティング部部長(以下、シェルバ):ファーストリテイリングとして、2021年にビジネスモデルを循環型にすることを経営目標として掲げた。そのときから、古着販売にトライすることは1つの構想として持っていた。若い世代を中心に古着の人気が高まって古着への抵抗感は薄まっている。また、欧米のスタッフからは二次流通のマーケットがどんどん大きくなっていると報告を受けていた。ではわれわれも挑戦してみようとなったときに、大きな規模で始めるのは違う。社風として、何事も大きく始めがちな会社ではあるが、サステナビリティの取り組みは一度始めたら継続しなければならない。大きく始めるよりも小さく始めて、お客さまや社会と対話しながら反応を見て検証していくことが重要と考え、若い世代の客も多い原宿でのポップアップ実施に至った。
WWD:古着を扱う上で苦労したポイントは。
シェルバ:ユニクロが販売する以上、古着であっても一定のクオリティーでなければ販売できない。1点1点検品し、補修が必要なものは補修し、販売基準に満たないものははじいている。ニットは東京・有明のユニクロ本部の近隣、東雲(しののめ)にある子会社のニット工場で洗浄し、手作業で毛玉まで取っている。通常の古着は、洗浄のみで毛玉はそのままということが多いのではないか。単に古着を売るのではなく、いかに付加価値を高めるかという考えのもと、スエットやTシャツなどでは製品染めを施した商品もある。もとの色や素材によって異なる染まり具合や風合いを楽しめる点が魅力だ。ネルシャツなどはビンテージ風の加工を施した。製品染めは小松マテーレで行っているが、有力な取引先があるからこそ、さまざまな加工もできる。今では使用していない昔のロゴタグの商品を探すことなども、お客さまには楽しんでいただけるのではないか。
「サステナビリティは継続が前提」
WWD:「ザラ」は英国でCtoCの二次流通プラットフォームを立ち上げたり、「H&M」はリセール企業を買収したりといった動きがある。そういった構想はユニクロにもあるか。
シェルバ:古着販売に乗り出す際に、外部の二次流通プラットフォームに乗っていくなど、さまざまなやり方は考えられるだろう。ただ、ユニクロとしては“LifeWear”の価値観の中で古着を販売していく。(自社プラットフォームの立ち上げなども)視野に入れつつ、そのための初のトライアルの場がこのポップアップストアだ。ここでお客さまの生の声を集める必要がある。常時スタッフが売り場に張り付いて、お客さまのニーズを聞いていく。私自身も週末は店頭に立つ予定だ。今では13の国・地域の25店に広がったリペアやリメークサービスを提供する「リ・ユニクロ スタジオ」も、もともとはドイツの店舗で行った小さなワークショップが出発点だった。06年に開始した店頭での衣料品回収も、当初は時期を絞って回収していたのを10年から通年回収に切り替えて規模を拡大した経緯がある。古着販売のポップアップも、原宿を皮切りに国内何カ所かで実施し、検証する。繰り返しになるが、サステナビリティの取り組みはやり続けることが前提だ。とはいえ、何事もやってみなければ分からないことも多い。他社も実際にやるまでには迷いがあるのだろうが、小さく始めて検証していくことが重要だと思っている。
WWD:拡大中の「リ・ユニクロ スタジオ」に対する客からの反応や手応えは。
シェルバ:国内は「リ・ユニクロ スタジオ」導入店舗が今秋6店増え、全9店となった。リペアと刺しゅうのサービスは9店全店で提供し、余力がある店舗では刺し子も提供する形にしている。リペアは30〜50代の男性が持ち込むケースが多く、女性はリペアよりも刺しゅうで自分だけのデザインを楽しむという傾向が強い。全店で(リペアよりも)刺しゅうサービスが人気だ。循環型社会を目指すうえでは、お客さまの行動変容につなげる必要がある。いかに世の中に良いことであっても、企業の独りよがりでは伝わらない。楽しく参加していただけるかどうかがカギだ。だからこそ、今回のポップアップでもキャッチーなワッペンを用意したり、アオイヤマダさんを起用してビジュアルを作り込んだりと、ファッションとして楽しいと感じていただくための要素を盛り込んでいる。