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「トートバッグ以外も知ってほしい」 「ビューティフルピープル」がジーユーと組んだ理由

PROFILE: 熊切秀典/「ビューティフルピープル」デザイナー兼エンターテイメント社長

熊切秀典/「ビューティフルピープル」デザイナー兼エンターテイメント社長
PROFILE: (くまきり・ひでのり)1974年生まれ、神奈川県厚木市出身。98年に文化服装学院アパレル技術科を卒業し、「コム デ ギャャルソン」のパタンナーとして経験を積む。04年にパターン製作会社のエンターテイメントを立ち上げ。07年春夏にオリジナルブランド「ビューティフルピープル」 をスタート。17-18年秋冬からパリ・ファッション・ウイークでコレクションを発表する。20年には「第38回毎日ファッション大賞」を受賞。コレクションの一部はニューヨークのメトロポリタン美術館や京都服飾財団に収蔵されている PHOTO:SUGURU TANAKA

ジーユー(GU)」は11月3日、「ビューティフルピープル(BEAUTIFUL PEOPLE)」とのコラボコレクション第2弾を全国の店舗とオンラインストアで発売する。「ビューティフルピープル」は、デザイナーの熊切秀典が文化服装学院時代の同級生らと2007年にブランド開始。“大人のための子ども服”として企画したキッズシリーズのライダースジャケットやトレンチコートが早々にヒットし、瞬く間に東京コレクションの看板ブランドに駆け上がった。17-18年秋冬シーズン以降はパリに発表の場を移し、それから5年超。「ジーユー」とのコラボについてや、パリに出て感じたことを熊切に聞いた。

WWD:3月に発売した「ジーユー」とのコラボ第1弾に続き、今秋第2弾を発売する。改めて、「ジーユー」と協業に至った経緯は。

熊切秀典「ビューティフルピープル」デザイナー(以下、熊切):第1弾も第2弾も、僕らの方から「ジーユー」にコラボをオファーしました。「ビューティフルピープル」は若い世代にとっては特に、トートバッグのブランドというイメージが強くなっていて、洋服を作っているブランドだという印象が弱まっている。そこを変えたかったというのがコラボを依頼した一番のきっかけです。

トートバッグは、僕が電車に乗ったら前に座っていた方が持っていたということもありました。それは非常にありがたいこと。ただ、ブランド本来の姿ではなく、トートバッグという商品1点だけで認知が広がっていくということには歯がゆい思いもありました。当初トートバッグは、お店に来たお客さまが洋服を買って、「これもかわいいから買っていこう」と一緒に買っていただくといった想定で企画した商品です。けれど人気になり過ぎてしまって、トートバッグ自体が目的になっていた。「ビューティフルピープル」といえば、昔は(パターンメーキングの工夫によって大人も着られるようにした)キッズサイズのライダースジャケットなどのイメージが先にあったと思います。トートバッグだけでなく、そういった面白いモノ作りの考え方の部分も幅広く伝わっていけばいいなという思いが(コラボを依頼した背景に)あります。

WWD:コラボの相手に「ジーユー」を選んだ理由は。「ユニクロ(UNIQLO)」なども候補としては考えたのか。

熊切:(他ブランドよりも)「ジーユー」だと更にいいなと思っていました。「ジーユー」というブランド名や、その由来となった自由という言葉がすごく好きだというのが第一の理由です。固定観念やつまらない考え方から自由になるということを、「ビューティフルピープル」としても非常に大切にしてきました。コラボのオファーをしたのは、ちょうど服の着方の既成概念から自由になる、といった考え方でコレクションを作っていた時期です。服の上下を入れ替えても着用できる“ダブルエンド”や、前後左右や上下、裏表を入れ替えて複数通りの着方を楽しめる“サイドC”といったパターンメーキングがそれです。また、「ジーユー」は最も低価格帯のブランドだというイメージが僕にはあって、そこで挑戦をしてみたいと思っていました。

コラボをきっかけにVIP顧客に

WWD:コラボ第1弾の反響は。

熊切:コラボをきっかけに「ビューティフルピープル」を知り、今ではVIP顧客になってくださったお客さまもいます。コラボの後は「ビューティフルピープル」のインラインでも(コラボで人気アイテムとなった)ジャージがよく売れて、単純にコラボは安いから買う、というわけではないんだなと感じました。ファン層が広がったことは、まさに僕らが狙っていた通りです。

また、「ジーユー」から多くのフィードバックをもらったことで、マーケティングとして非常に勉強になりました。例えば、“大人のための子ども服”のライダースジャケットは、ブランドとして15年間作り続けていますが、第1弾ではそれよりもジャージなどのアイテムの方が動きがよかった。今の若い子たちはファッションに目覚めた当初からオーバーサイズがはやっていて、“大人のための子ども服”のサイズ感では小さ過ぎるんだと思います。一方で、1.5足組のソックス(注:両足+1足組)はすぐに完売して、そういった既成概念を壊すといったブランドの個性の部分はしっかり面白がってもらえるんだという手応えがありました。

WWD:大手小売りとデザイナーズブランドとのコラボでは、元々のブランドファンから「コラボしてほしくない」といった声も必ず出るものだが。

熊切:そういう声もあったとは店頭スタッフから聞いています。ただ、インラインとコラボは別物だと捉えてくださっているお客さまが多く、特にコラボをしたことでのマイナスは感じていません。コラボコレクションの考え方として、(インラインの焼き直しなどではなく)もう一個別のコレクションを作るという意識で作っています。「ビューティフルピープル」のコレクションが通常は年4回のところ、23年は5回、6回になったといったイメージ。デザインの組み立て方、考え方はインラインと同じですが、商品そのものは今までやったことのないものを作っているということです。その結果、インラインの商品もコラボも、両方着てくださっている顧客の方も多いです。

WWD:インライン、コラボ共通で、具体的にどのようにデザインを組み立てているのか。

熊切:「インターネットにないものを探す」ことが大きなテーマになっています。それでコラボ第2弾では、ブランドメンバーの思い出の写真を出発点にしました。僕と戸田(昌良パタンナー)が文化の学生だった頃、同級生の実家を訪ねて博多に遊びに行ったときの写真もその一枚。冬なのに当時はみんなすごく薄着で、すごくかっこよかったんです。あと、若林(祐介 営業担当)が文化を卒業した後に配線の仕事をしていた時期があって、そのワークスタイルもインスピレーション源になっています。どれもエモいんだけど、エモさの中で(今の時代に合わせて)何を新しくすべきか、何が必要かというのを考えていく。シルエットやバランスを見ながら試行錯誤を繰り返していく大変な作業ですが、それを経るからこそどこかで見たことがあるようで見たことがないものに仕上がる。一見カジュアルなのに、着るとカジュアルではないといったアイテムはこのように作っています。

WWD:「インターネットにないものを探す」は、今の時代の多くのデザイナーにとって悲願なのではと思う。

熊切:インターネットにないものでなければ、作る意味はないというのが僕らの今の考え方。それを追いかけています。そうはいっても、企画チームの子たちはきっかけになる何かが必要みたいで、最初はネットサーフィンもしちゃうんですけど。僕も全くネットを見ないかといったらそんなことはありません。SNSを見るのは大好き。でも、実はスマートフォンは持っていなくて、ここ10年ほどiPadしか持っていません。だから、安全なWi-Fiにつながるカフェぐらいでしかネットは見ない。スマホを持ってしまうと、どうしてもそういうもの(ネット上の情報)に自分が影響を受けてしまう。人と違うことをするためには、人と違うことをやんなきゃなっていう考えで、ストイックに追い込んでみたんです。

「燃え尽きたと感じる部分があった」

WWD:17-18年秋冬シーズンから発表の場をパリに移した。それにより、デザインする上で変わった部分もあるか。

熊切:パリは去年の10月に発表した23年春夏をもって、ショーを一旦休止しています。パリでの展示会は続けていますが、23-24年秋冬、24年春夏と現状はプレゼンを休んでいて、次は24年6月のメンズシーズンでパリに戻ろうかなと考えています。ウィメンズに関しては、ちょっと燃え尽きたなと感じる部分があって。“ダブルエンド”や、1つのアイテムで複数通りの着方を提案する“マルチプリシティー”のパターンを発表した後、それ以上のパターンの発展形って何かあるのかなと悩んでしまいました。男女の境界や時代の境界といったあらゆるボーダーを超えて共存するようなアイデアがパターンで実現できたと感じたし、22年春夏コレクションの一部がニューヨークのメトロポリタン美術館に収蔵されるというビッグニュースもありました。頑張ってきてよかったなという達成感と共に、次に何をやろうか考えてしまったんです。

WWD;パリで発表するようになって以降は、それまでに比べて非常にコンセプチュアルになったとも感じていた。

熊切:元々、東京で発表していたころは(パターンの追求以外にも)さまざまな手法で固定観念を超える、ウィットを効かせるといったデザインをしていました。でも、パリで発表するようになって自分の強みは何かと考えた時に、パタンナーだったことに立ち返りました。それでとにかくパターンの追求をしてきたんです。パリコレにカウンターパンチを打ち込みたいという思いもありました。ショーだけのためのコレクションピースではなく、リアルに販売する商品でこれ(パターンを生かしたさまざまな着方の提案)ができるんだぞということを見せたかった。まさにそれができて、やり切ったという気持ちになっていました。次は、東京でやっていたことと、パリのウィメンズで見せてきたことをうまく融合したコレクションを作りたいと思っています。

僕らが作ったパターンの構造の上にお化粧をすることならいくらでもできます。テーマを変えれば何でもできるんです。“ダブルエンド”のパンツだって、その時その時でデニムで作ったり、ミリタリーテイストにしたりといったことならいくらでもできる。それが“時代のムード”というものなのかもしれないですけど、自分としてはそれは何か違う。構造を作ることが僕らのデザインの一番重要な部分なのに、そんな形で継続することに意味はあるのかなと考えてしまいました。

WWD:プレゼンをメンズシーズンに移すのは生産期間の問題なのか(注:ウィメンズはメンズに比べ、発表から実売までの期間が短い)。

熊切:それが一番大きいです。やはり10月と3月にパリコレで発表しても、実売まで3カ月しかないと生産が難しくてオーダーが付きづらい。実際、(メンズの発表時期と同時期にパリで展示会を行う)プレコレクションと、メインコレクションとでは、プレのオーダーの方が多いですから。もちろん、僕らのブランドの立ち位置がそうだということなんでしょうけど。自分の強みを突き詰められたという点で、パリで5年間、ウィメンズをやったことはよかったなと思っています。「ビューティフルピープル」を始める前は僕はずっとメンズを手掛けていましたし、今回の「ジーユー」とのコラボも全てユニセックスで、男女の体の作りの違いを乗り越えたパターン設計にしています。実際に、コラボ第1弾で男性のお客さまが想像よりも多いことも分かりました。発表をメンズシーズンに移すのは生産時期というビジネス上の問題ですが、これからはメンズシーズンに(男女の差などの)ボーダーを超えたコレクションを見せていきます。

WWD:07年のブランド設立から17年。今の率直な気持ちや、20周年に向けての思いは。

熊切:今は早くパリに行きたくてしょうがない。メンズシーズンにパリに復帰というのはまだ予定で、これから調整していく部分もあるんですが、6月を待ち遠しく感じています。iPadを見ていると、パリのレストランで撮った写真がリマインドされてくることがありますが、「この料理、美味しかったなあ」とか考えたり。もちろん、パリに行きたい理由がそれだけではないですけど(笑)。20周年に向けての目標もありますが、それについてはまだ非公開。パリと東京で、同時に何か面白い取り組みができたらと考えています。ブランドメンバーで組んでいるバンド「ザ・ビューティフルピープル」で、またライブもするかもしれません。

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