最先端のファッションの販売と共に、常にトレンドやカルチャー、アートを発掘し、プレゼンテーションの場を作ってきたのがパルコ(PARCO)だ。そんなパルコのキャンペーンビジュアルは、時代をリードするクリエイターとの協業で強いメッセージを発信。見るものに新鮮な刺激を与えると共に、時代を反映してきた。
「今年は渋谷パルコ開業50周年のアニバーサリーイヤー。“伝統と革新”を年間テーマに企画してきた」とパルコ宣伝部の手塚千尋部長。ホリデーキャンペーンで、生成AIを使ったビジュアル制作に挑戦した。画像生成AIについては、今年初めくらいから注目し始めていたという。「これからどんどん進化していく技術に、パルコとして、アートやファッションとしてのクオリティーを求めながら本気で挑戦したらどんなビジュアルができるのか。やってみたいと考えた」と草刈洋担当部長。「新しい才能だけでなく、新しい技術も一早く採用して、前例がないものを世に出していくというのが、パルコの存在意義だ」。
これまでにもキャンペーン制作で協業してきたクリエイティブディレクターの木之村美穂STUDIO DOG代表と、LA在住世界最先端AIデジタルクリエイターAi-Editorial-Christian Guernelliに制作を依頼した。
コンセプトは「不思議な空間の中に住むモデルたちのハッピーホリデーズ」。「典型的なクリスマスのイメージではなく、通常だとなかなか出てこないような、不思議な雰囲気を大事にしたいと考えた」と本橋乃衣絵。6月に方向性を決めるための叩き台が送られてきて、そこから何度もキャッチボールを繰り返した。
「未来的なビジュアルも出してもらったが、現実離れすればするほどCGっぽく感じてしまった。AIで作るならリアルな撮影に近い方が驚きがあって面白いと思った」と手塚部長。選択とリクエストを繰り返すなかで、送られてきたビジュアルは100枚を超えたという。約半年かけて、ドレスアップしたモデル2人が、シャンパンピンクとグリーンの幻想的な空間に静かにたたずむ、モード感あるビジュアルが完成した。
「実際にモデルは存在しているのか?いないのか?―お客さまが立ち止まって、考えてもらえるような、SNSで話題になるような、少しだけ違和感のあるビジュアルを心掛けた」と木之村。陰の入り方や瞳の中の映り込みなど、リアルな写真のように見えながら、AIが苦手とする指や髪には少し違和感が残る。異世界に誘うような、見るものを引き付けるビジュアルだ。
11月から店内外、ウェブやSNS、ファッションメディア等での掲出はもちろん、TAITO OTANIによるAI生成の音楽を伴った動画の公開や、ビジュアルイメージと連動した店内装飾も行う。
「結局は人間の審美眼を通して制作し、それを見て素敵だなと思うのも人間。AIは一つのツールなのだと感じた。10年後にこのビジュアルがどう評価されるのか、それが楽しみだ」と草刈担当部長。手塚部長は「武器が一つ増えたという感じ。書き込むプロンプトに技術が必要だし、生成AIを使いこなす職種ができるだろう。今回の制作で、AIの得意・不得意が分かった。単に使うのでは面白くないので、よりアイデアが必要になってくる。複数パターンを作ってターゲットごとに最適なビジュアルを見せるなど、パルコとして、AIにしかできないことをやってみたい」と語る。
新たな選択肢を得たパルコは、この先50年も時代の先端を取り入れながら、進化を続ける。