パリの老舗ジュエラー「ブシュロン(BOUCHERON)」は11月6日、パリを拠点とするハイジュエリー専門のアトリエを買収した。金額など取引の詳細は非公開。
ハイジュエラーやその工房が立ち並ぶヴァンドーム広場にある同アトリエは、ジュエリーメーカーのエタブリスマン・E・ブロンドー(ETABLISSEMENTS E. BLONDEAU)、ベルター(BELTER)、シャンソン & シー(CHANAON & CIE)、FGデブロプマン(FG DEVELOPPEMENT)の4社を擁しており、CADデザイナーや、宝石の加工、セット、研磨などを行う約60人の職人が在籍。今後は、「ブシュロン」のアトリエの職人らと共にハイジュエリーの製作に携わる。
エレーヌ・プリ・デュケン(Helene Poulit Duquesne)=ブシュロン最高経営責任者は、「今回の取引は、歴史ある当ブランドの生産力を向上させることが目的だ。最高のクラフツマンシップを維持しつつ、需要増に応えることが可能になる」と語った。なお、同ブランドがジュエリーのアトリエを買収するのは今回が初めて。
「ブシュロン」の親会社であるケリング(KERING)の2023年7〜9月期(第3四半期)決算は、売上高が前年同期比13.1%減の44億6400万ユーロ(約7142億円)と不調だった。これは主力の「グッチ(GUCCI)」をはじめ、「サンローラン(SAINT LAURENT)」や「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」などが軒並み減収だったことによるが、その他のブランド部門に属する「ブシュロン」については「ハイジュエリーやメインコレクションが好評で、業績も好調だった」としている。
近年、ラグジュアリーブランドでは、高度に訓練された職人を確保し、技術やノウハウを次世代に継承するため、職人を育成する専門学校の設立やアトリエ買収などの動きが加速している。LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は22年11月、ジュエリーの大規模生産を得意とするヴィラ・ペデモンテ・アトリエ(VILLA PEDEMONTE ATELIER)や、金細工を専門とするヴェンドラファ・ロンバルディ(VENDORAFA LOMBARDI)などを擁するイタリアのジュエリーメーカー、ペデモンテ・グループ(PEDEMONTE GROUP)を買収。23年4月には、傘下ブランドである「ティファニー(TIFFANY & CO.)」の生産力を高めることを主な目的として、フランスのジュエリーメーカー、プラチナ・インベスト・グループ(PLATINUM INVEST GROUP)の過半数株式を取得した。 また、LVMHが擁する「ディオール(DIOR)」も、フランスのジュエリーメーカー2社を買収している。
一方、ジュエリーやウオッチなどのハードラグジュアリーを得意とするコンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT)の傘下である「カルティエ(CARTIER)」と「ヴァン クリーフ&アーペル(VAN CLEEF & ARPELS)」は、現在のところハイジュエリーのアトリエを買収する予定はないものの、新たな自社アトリエを設立したり、職人のトレーニングプログラムを強化したりしているという。