ファッション

LVMH メティエダールが細尾と提携 「日本のシルク産業に革新を」

世界トップクラスのサヴォアフェールの継続と発展を使命とするLVMH メティエダールはこのほど、西陣織の老舗企業細尾とパートナーシップを提携した。日本企業との連携は、岡山県のデニム生地メーカーのクロキに続く2社目となる。日本のシルク産業全体の再生と発展を目指し手を組んだマッテオ・デ・ローサ(Matteo de Rosa)LVMH メティエダール最高経営責任者と、細尾12代目の細尾真孝社長に話を聞いた。

WWD:細尾に着目した理由は?

マッテオ・デ・ローサLVMH メティエダール最高経営責任者(以下、マッテオCEO):彼らが長い歴史の中で培ってきたノウハウは素晴らしい。シルクの全生産工程において非常に知識が深く、伝統を継承するだけでなく未来に向けたイノベーションの可能性を感じたからだ。共に日本のシルク産業の活性化と発展に向けて取り組んでいきたい。加えて細尾の美しいモノ作りとエレガンスに対する共通の価値観は、このパートナーシップの基盤になっている。

細尾真孝・細尾社長(以下、細尾社長):非常に光栄だ。この話をいただいた時には、最高のモノづくりを目指し圧倒的な規模とクオリティーを持つ企業のパートナーとして、果たして自分たちは何ができるのだろうかと考えさせられた。でも西陣織は1200年の間、美を追求してきた歴史がある。先人たちが培い受け継いできたノウハウはきっと役に立てるだろう。

WWD:細尾は西陣織の伝統の継承と発展にさまざまな角度から取り組んできたが、その中で見えていた課題とは?

細尾社長:匠の技は存在するものの、着物のマーケットやシルク産業が縮小していることは否めない。1200年の蓄積を軸にしながらも、世界中のノウハウを総動員して新たなイノベーションを生み出していかなければならないと感じていた。

マッテオCEO:まさにこの彼の未来を見据える姿勢に共感した。過去を継承していくだけでなく、未来につながるイノベーションを追求していくことは私たちも大事にしている部分だ。35の企業と2つのイノベーションセンターで構成するメティエダールは、世界の職人が集まって知識を共有し合うコミュニティーだ。対話を続けながら、どうしたら品質を向上できるか、モノづくりの工程自体を改善できるか、マーケットへの出方も含めてより良い方法を探っていきたい。

シルクの歴史を変えるイノベーションを起こす

WWD:考えられるイノベーションとは?

マッテオCEO:イノベーションとは、単純に生産にまつわる技術的なものを意味しているわけではない。シルク産業にまつわる環境との向き合い方、人々の働き方、そしてビジネスの発展の仕方といった全てのトピックにおいて革新を起こしていく必要があると考えている。

細尾社長:イノベーションとは、世界の歴史を良い方向に変えることができたもののことを指すのだと思う。私たちはこれから100年先のシルクの歴史により良い変化を生み出すことを目指して取り組むが、それがイノベーションだったのかどうかが分かるのは100年先の話だ。

WWD:パートナーシップの具体的な内容は?

マッテオCEO:まだ具体的なことは公表できない。産業全体に大きな影響を与えることを目指しているからこそ、軽率に方向性を決めてしまうことはよくないと思う。2つの企業が組んで、日本のシルク産業に革新を起こそうというのは初の試みだ。これから慎重にR&Dの潜在性を探っていく。

細尾社長:歴史を振り返ると、日本が海外貿易を始めた際の重要な輸出品が蚕であったり、明治時代には当時最先端の織り技術を持っていたフランス・リヨンのジャカード織機を日本に持ち帰ることで西陣織が技術的に進化したりと、世界と交流しながら発展を続けてきた。今回のパートナーシップも、それくらい歴史に残るものでなければいけないと思っている。

WWD:持続可能な素材への需要が高まっている中、シルクの魅力は?

細尾社長:シルクは医療品にも使われるほど、肌への負担が少ない素材だ。加えてシルクは天然繊維の中でも最も水分含有量が高い。保湿力の高さや少ない水で育つ素材といった優位性を踏まえ、無限の可能性を秘めていると思う。

マッテオCEO:循環型の産業を目指す上でもシルクは重要だ。中長期的なビジョンを持ちながらシルク産業に関わる全ての人々を巻き込んで循環型産業の構築を目指す。

WWD:マッテオCEOは日本の職人にスポットライトが当たっていないことに課題感を持っているが、今回のパートナーシップではこの課題にどうアプローチする?

マッテオCEO:LVMH メティエダールが目指していることの一つは、職人たちに誇りを持ってもらうことだ。次世代が憧れる職業になっていくために、私たちも貢献していきたい。私たちのコミュニティーを通して、若者がグローバルなキャリアパスを描けることは強みだ。例えば細尾で修行した若者がシンガポールでワニのなめし技術を学び、日本に持ち帰ることだってできるだろう。世界に広がる夢のある職にしていきたい。

細尾社長:日本の場合は、職人が作業員になってしまった。素晴らしい技術やストーリーがあるにもかかわらず、職人たちは自信を失ってしまっている。この流れを変えたいという思いは私自身も強い。後継者育成を目的にスタートした「ゴオン(GO ON)」というプロジェクトもその一環だ。マッテオ氏の言うように、彼らは同じ美という共通言語でつながることができる。美を生み出すクリエイティブな産業だというメッセージをしっかり伝えていきたい。

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