アール・ヌーヴォーを代表する画家、アルフォンス・ミュシャをテーマにしたマッシュスタイルラボの新ブランド「ミュシャ(MUCHA)」が好調にすべり出している。同社はミュシャの芸術的・知的財産を管理するミュシャ財団とパートナーシップ契約を交わし、9月にルミネ有楽町に1号店をオープン。オープン当日には開店前から30人以上の並び列ができた。
ミュシャ作品の世界観を解釈し、日本のクラフツマンシップと掛け合わせて作ったフレグランスや雑貨を提案する。日本とフランスの調香師で作り上げたフレグランスや、米沢織ジャカード素材を使ったトートバッグは特に人気で、品切れ・入荷を繰り返しているという。
10月には京都高島屋S.Cの新ゾーン「T8」に2店舗目をオープンした。来日したミュシャ本人のひ孫であり、ミュシャ財団のエグゼクティブ・ディレクターを務めるマーカス・ミュシャ氏に、マッシュと組んだ理由と今後の展望を聞いた。
WWD:店内を見て、感想は。
マーカス・ミュシャ(以下、マーカス):曽祖父のアルフォンスがもし生きていたならば、ぜひここに連れてきたい。このようなすばらしい空間を目の当たりにしたら、きっと彼も感激するだろう。
WWD:お気に入りの商品は。
マーカス:どれもすてきだが、オードトワレだ。個人的に一番好みなのはローズの香り。アルフォンスの作品にとって「花」はとても重要なもの。代表作の“四つの花”をはじめ、彼の作品の多くに花のモチーフが見られる。パリのアトリエには、今も庭一面に薔薇の花が咲く。その風景を思い起こすようなフレッシュなノート(香り)だ。
WWD:世界初のブランドを開発するにあたり、マッシュを協業先に選んだ理由は。
マーカス:1〜2年前にマッシュから(ブランド開発についての)打診をいただいた。私たちはそれ以前の2019年から「ジェラート ピケ」とのコラボ商品でご一緒してきて、非常にいい関係を築いてきた。(商品の)サンプルを見て驚いたのは、どれもアルフォンスの考えに共感した上で作っているものばかりだということだ。だからマッシュとなら、一緒にいいブランドが作れるだろうという確信があった。
マッシュは、「ミュシャ」ブランドにおいても、私たちの大事にしていることをよく理解し、表現してくれている。最近パリで実施した作品展では、アルフォンスが広告ポスターを手がけた“ロド”という香水の現物を展示した。すでに製造から100年以上が経過しており、劣化が進んでいるため当時の香りを感じることはできない。今回の「ミュシャ」ブランドではこの“ロド”の香水もラインアップされている。オリジナルとは全く異なる香調だが、とてもすてきな香りだ。“ロド”の世界観を忠実に、かつユニークに表現していて感激した。
WWD:日本には多くのミュシャファンがおり、初の公式ブランドを待ちわびた人も多い。
マーカス:個人的な考えだが、アルフォンスの作品には、日本人女性が共感する部分は多いからだと思う。彼の描く女性像は、日本人女性と重なる部分がある。凛とした美しさがあるが、あからさまなセクシーさは強調しない。奥ゆかしく、どこか自立した強さを感じさせる。
アルフォンスは、一部の人に占有されるのではなく、万人のための作品を作るという哲学があった。今は多くの人にとって、彼の作品を手に入れることはそう簡単ではないかもしれない。だからこそ「ミュシャ」というブランドのフレグランスやバッグなどを通じて、彼の世界観を味わっていただけるのはすばらしいことだ。
現在、チェコ・プラハで新たな美術館の建設計画を進めている。すでに市長とは合意書を交わしており、ショッピングモールを併設する構想がある。そこに「ミュシャ」ブランドの店舗を誘致するのが私の夢だ。