森ビルによる大型複合施設「麻布台ヒルズ」が11月24日に開業する。「森ビルのヒルズ業態のひとつの集大成」であり、「未来のヒルズ」と位置付けるこの「街」は、どのような発想で作られたのか。ヒルズ初出店となる「エルメス(HERMES)」をはじめとしたラグジュアリーブランドや大型フードマーケット「麻布台ヒルズ マーケット」、注目のアートギャラリーなど約150 店舗を展開する商業施設ゾーンのリーシングを指揮した常務執行役員の栗原弘一・営業本部商業施設事業部統括部長に聞いた。
――麻布台ヒルズの開発コンセプトは?
栗原弘一・森ビル常務執行役員 (以下、栗原):“Modern Urban Village”、緑に包まれ、人と人をつなぐ「広場」のような街、がコンセプトで、それを支える2つの軸として“Green & Wellness”を掲げている。圧倒的な緑に囲まれ、自然と調和した中に多様な人々が集まり、心身ともに健康で豊かに、より人間らしく生きられる新しいコミュニティーの形成を目指している。敷地面積はサッカーコート10個分近い約8.1haで、約2万4000平方メートルの緑と、延床面積約86万1700平方メートルの空間を設け、オフィス、住宅、商業施設、文化施設、教育機関や医療機関など、多様な都市機能を集積させている。
――開発に長年の歳月を費やした一大プロジェクトだ。
栗原:1989年(平成元年)に「街づくり協議会」を設立する前の準備段階から数えて35年になる。最初は3人のチームで約300人の権利者の方々を一軒一軒訪問。高台と谷地が入り組む地形に小規模な木造住宅やビルが密集し、建物の老朽化も進み、防災面も含めて整備が必要であることを説明し、どんな都市機能を持った街にしたいのか、粘り強く議論を重ねてきた。
――国内最高峰のレジデンスや「エルメス」「ディオール(DIOR)」「カルティエ(CARTIER)」などのブランドが入るため、日本でも有数のラグジュアリーな商業施設になるとイメージしているが。
栗原:「未来のヒルズ」を目指すからには、当初からクオリティーにはこだわり抜きたいと考え、商品や空間環境、サービス、ホスピタリティなどクオリティーの高いテナントや企業にあらゆる形で参加してもらうことが必要だと考えた。誤解してほしくないのは、私たちは商業施設を作りたいわけではないということ。森ビルの開発思想の一番上位にあるのは、国際的な都市間競争が激化する中で、東京の磁力を高め、競争力のある新しい国際都市ゾーンを実現することであり、そのために「街づくり」に取り組んでいる。
オフィス・ビジネス機能と高級な住宅街が重なり、外資系企業や大使館、文化施設、総合病院の病床、ミシュランの星付きレストランなどの数が多く、しかも、緑の面積も大きいエリアは、街として高いポテンシャルがある。そこで、私たちは虎ノ門から赤坂、六本木を戦略エリアと位置づけ、麻布台でも、再開発によってオフィス、住宅、ホテル、商業施設、学校、文化施設、緑と広場などが高度に複合したコンパクトシティをつくろうとしてきた。そうすることで、クリエイティブな人々やイノベーティブな企業などがより集まりやすく、住む人も集まる人も豊かな都市生活を享受できるようになるため、国内外からビジネスや観光客、投資などを呼び込み、さまざまなプレイヤーと街を育んでいこうとしている。丸の内とも大手町とも新宿とも渋谷とも違う、新しいゾーンをつくりあげたい。
緑に囲まれたラグジュアリーストリート
――サステナビリティやウェルビーイングが社会の重要なキーワードになっているが、あらためて麻布台ヒルズで“Green & Wellness”を掲げた理由は?
栗原:これまでのヒルズに比べて、麻布台ヒルズは住宅も多く、「人の営み=LIFE」に重きを置いている。環境やサステナビリティは中長期的にも重要な社会課題だ。そんな中で都市に住むことでより豊かな生活を享受し、心身ともに健康で人間らしく生きるために、“Green & Wellness”を街のテーマにした。物理的にも緑を多く設けながら、街の重要な要素のひとつである商業施設でも、それに合わせた製品やサービス、ホスピタリティに至るまでクオリティの高い店舗を集積し、「都市に生きる人々が真の豊かさを体現できる場」を創造していく。
――約150店舗を導入しているが、テナントリーシングにあたり、とくに重視したことは?
栗原:商業施設のコンセプトは、「新しい体験や楽しさを提供し、都市生活を豊かにする」こと。リーシングでは、プロジェクト全体の価値、ローカルマーケットの強さ、これからのリアル店舗のあり方の3点に特に留意した。店舗面積は約2万3000平方メートル(約7000 坪)あるが、「街をつくる」ことが上位にあるので、商業施設という箱をつくってお店をはめ込むのではなく、街区のあちこちにお店が点在する、独自性のあるスタイルになっている。
――トーマス・ヘザウィック率いるヘザウィック・スタジオによる低層部の独創的な建築物と屋上緑化が特徴的なガーデンプラザに入る10のラグジュアリーブランド(ヒルズ初出店となる「エルメス」、LVMHグループの「ディオール」「セリーヌ(CELINE)」「ベルルッティ(BERLUTI)」「ブルガリ(BVLGARI)」、リシュモングループの「カルティエ」と、時計を集積した日本初上陸の「タイムヴァレー(TIMEVALLEE)」、ケリンググループの「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」、香水・コスメビューティ「オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー(OFFICINE UNIVERSELLE BULY)」、欧州最古のクリスタルガラスメーカー「サン・ルイ(SAINT LOUIS)」)は来年2月に開店予定だが、その特徴は?
栗原:ガーデンプラザは神谷町駅から街の真ん中にある中央広場まで人々を誘うように地上と地下のダブル導線をしき、その両側にお店を配置している。低層のゆったりとした空間と、あふれるような豊かな緑のランドスケープ(景観)が特徴だ。ガーデンプラザの北側ゾーンは200メートルあり、都心部でこれだけ長いラグジュアリーストリートを設けるチャンスはなかなかない。ちなみに、「エルメス」「ディオール」「ブルガリ」「カルティエ」など、物販・飲食の全150店舗のうち1割に当たる15店舗が屋外テラス付きの仕様で、既存のお店では提供できない体験価値の創出につなげたい。ちなみに、「森JPタワー」の商業空間デザインには藤本壮介氏と小坂竜氏が参画してくれている。
エンゲージメントスコアを上げる施設
――麻布台ヒルズの全体コンセプトや商業施設のプランをテナント各社にプレゼンした際の反応は?
栗原:主要ブランドには出店誘致よりもかなり前、8年近く前から考え方や全体構想などを伝え、意見を募り、面白いプロジェクトだと評価をいただいた。ただ、リーシングを始めてすぐにコロナ禍になってしまったので、延べ8カ月ほど交渉が進められない時期があった。そこでアーバンラボというプレゼンテーションルームで、何台かのカメラを使って模型や資料を使いながら、私たちからのメッセージをお伝えさせていたき、遠隔地にいるブランド本国の方々などにもご理解いただきやすいように努めた。クオリティーの高さやデザインなど、いかに良いプロジェクトかということと、このエリアのローカルなマーケットの強さと、これからのリアル店舗のあり方というポイントをきちんと説明してお伝えしないとご理解いただけないと思った。
多くのみなさんから興味関心を持っていただけたのは、一つはコンセプトへの共感、二つ目は規模感やレジデンス、ホテル、ミュージアム、予防医療、学校などの機能を含めたプロジェクトの希少性、三つ目は何よりも、緑あふれるヘザウィックの建築デザインによるランドスケープの特異性など、プジェクト全体のレベルの高さを評価していただけたと思う。もう一つは、これからのリアル店舗のあり方、考え方に共感いただいた部分も大きかった。
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