PHOTO:HENRY WOIDE
2024年春夏パリ・ファッション・ウイークの期間中にショーを開催した100以上のブランドから、現地取材チームが深掘りしたいコレクションをピックアップ。今回は、ファッションの楽しさとサステナビリティの両立に正面から向き合って大成功した「ステラ マッカートニー(STELLA McCARTNEY) 」のショーを徹底解説する。
まずは上の、ショー会場の完璧な構図を見てほしい。朝のエッフェル塔を背景に、街路樹の間の歩道に作ったランウエイの上を一列で歩くモデルたち。右手には一斉にスマートフォンを掲げる観客。そして左手にはパリらしいマルシェのトタン屋根が並ぶ。このマルシェは今季のショーにおいて重要な役割を果たした。
マルシェの21店舗に新進気鋭のサステナ技術
会場となったパリ7区の屋外市場、マルシェ サックス ブルテュイユは普段は野菜や魚、惣菜などを売っているが、この日は”ステラのサステナブル・マーケット”と題して、21店舗それぞれにデザイナーのステラ・マッカートニー(Stella McCartney)が考えるサステナブルな素材や技術、アイテムを並べた。サステナブルな素材の多くは科学やハイテクと密接なケースが多く、理解が難しいものも多いが、マルシェで原料や生地に触れながら説明を受けるとスッと理解できる。マルシェに立って説明をする企業家や技術者の多くは女性でいずれも今後、ファッション界内に限らずその名を知られるだろう企業・人だ。熱心に語る彼女たちの情熱に触発されつつ「あのニットドレスが海藻からできていたなんて!」と得た気づきはリリースを読むだけよりもはるかに記憶に残る。そこで本記事ではまず、各店を写真で深堀りする。
リサイクルガラスを使ったウエアラブルアートは英国を代表する彫刻家兼創作家アンドリュー ローガンによるもの
イタリアのジュースやジャム産業から出る廃棄リングを利用したレザー代替素材「アッピール」。開発企業はマーベル・インダストリー PHOTO:HENRY WOIDE
中央はフランス発のキャンドル「アーメン」。パラフィンワックスを使わず、容器は天然素材の白磁、包装はキノコの菌糸体由来の素材をそれぞれ採用している。左隣は環境再生型農業に取り組むウール「ナティヴァ」
PHOTO:HENRY WOIDE
「オーシャンボトル」は1点販売するごとに11.4キロの海洋プラスチックの回収に取り組んでいる。Bコープを取得している PHOTO:HENRY WOIDE
イタリアのワイン産業から出る廃棄ブドウを使用したレザー代替素材「ベジェア」PHOTO:HENRY WOIDE
“動物を愛する幼いエコ戦士たち向け”の「ステラ マッカートニー キッズ」PHOTO:HENRY WOIDE
LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン傘下のメゾンのデッドストック生地を販売するオンラインプラットフォーム「ノナ ソース」。担当者もデッドストック生地を使ったミニドレスで接客
海藻由来の繊維「ケルサン」を開発した米国のスタートアップ、キールラボのテッサ・キャラハンCEO
植物由来のレザー代替素材「ミラム」。開発した企業はNFW
「レコード ステーション」はパリのアイコニックなレコード店。特に米国、英国、日本のヴィンテージアルバムが豊富
マテリアルサイエンス企業バレーナ
「リンダ マッカートニー フード」は、ステラの母、リンダ・マッカートニーが設立したベジタリアン&ヴィーガン食品のパイオニア。この日は植物由来ミートのバーガーを提供した
100%プラントベースの食材を使ったパリのレストラン「ワイルド・アンド・ザ・ムーン」。廃棄物ゼロを目指してカトラリーからプラスチックを排除している
スタイリストのハイディ・ビベンズが過去のコレクションや一点ものの「ステラ マッカートニー」のアイテムを厳選。「ステラ マッカートニー ヴィンテージ」として販売をした
ステラの両親のバンド「ウイングス」のコーナーも。そのブランドの歴史を掘り下げ、クラシックなアルバムやコレクターズアイテムを厳選した
100%電動型スクーター「ピュア エレクトク スクーター」。都市部の移動での活用を推奨
「アディダス バイ ステラ マッカートニー」のコラボは19年目。健全な心は健全な身体に宿る
スタートアップ、ラディアントマターがプラスチックのスパンコールの代替えとして開発したセルロースベースの「ビオシークイン」。「ステラ マッカートニー」はこの素材を衣類に採用した最初のブランド
「ステラ マッカートニー ビューティ」は99%以上が臨床試験済みのナチュラル&ヴィーガン成分を使用し、リサイクル&リフィル可能な容器で販売している
「ステラ マッカートニー」が2019年からパートナーシップを組むトルコの素材メーカー、ソクタス社。環境再生型農業で栽培されたコットンを扱う
ヒッピーライクなニットドレスの素材は海藻由来
招待客は、ショーの前の20~30分でこれらのブースを巡り、コレクションを形成するサステナブルな素材について一通り頭に入れた後ショーを見ることとなった。リリースには「全体の95%が責任ある素材から作られた、ブランド史上最もサステナブルなコレクション」とある。ただし、いったんショーが始まれば、服のどこがリサイクル素材か、はたまた自然再生型農業によるコットンかは判別できない。ただしマルシェで知識を得ているから「このブランドの服を着ることは、地球を傷つけることにつながらない」という安心感は残る。それが大切だ。
モデルとフォトグラファーの距離が近いバックステージの写真からは、素材の特性をより詳しく知ることができる。そこで今季の特徴でもある70年代調のマニッシュなパンツスーツや軽やかな素材のドレスがどんなサステナブル素材で作られているのか、代表的なアイテムをチェックしよう。
左写真:エクリュカラーのニットドレスが海藻由来の繊維「ケルサン」を使ったルック。PHOTO:SONNY VANDEVELDE 右写真:同じく「ケルサン」使いをメンズはヒッピーライクなスタイルで PHOTO:JAMES COCHRANE
一番左のモデルが手にしているバッグは「ヴーヴ・クリコ」のシャンパンのために収穫されたブドウの絞りかすから作られた「フレイム」を使用 PHOTO:SONNY VANDEVELDE
オーガニックコットンのデニムはフリンジをあしらって華やかに PHOTO:JAMES COCHRANE
オーガニックコットンのシャツにレイヤードしたのは、「ウイングス」のヴィンテージツアーグッズに描かれていたグラフィックをのせたオーガニックコットンのTシャツ PHOTO:GABBY LAURENT
リサイクルガラスを使ったウエアラブルアートをアクセサリーに PHOTO:SONNY VANDEVELDE
リサイクルガラスのアートは服を飾るブローチにも PHOTO:JAMES COCHRANE
リセールプラットフォーム「ノナ ソース」から使用した上質素材が随所に
植物由来のレザー代替素材を使ったバイカージャケット PHOTO:GABBY LAURENT
オーガニックシルククレープのミニドレスシリーズ
ジェンダーレスも大きなテーマ PHOTO:GABBY LAURENT
両親のバンド「ウイングス」などこだわりの音楽。オーディオはJBL
ショーの始まりを待つ間に流したのはステラの両親であるポール・マッカートニーとリンダ・マッカートニーのバンド「ウイングス」の曲、フィナーレに採用したのはフレンチ・エレクトロ・ムーブメントを代表するアーティスト、ミスター・オワゾと、音楽一家出身のステラは音楽にもこだわりを見せる。ショー会場のオーディオは音響器機メーカーのJBLが担当した。ちなみにJBLは先日、フランスで世界初のポータブルスピーカーのリセールプラットフォームである「JBLセカンドチャンス」を立ち上げたばかりで、電子破棄物の削減に努めている。
ステラのサステナビリティの取り組みは本気で本格的だ。そして彼女を取りまくのは、ファッション関係者だけではなく、農業やバイオ、デジタル、モビリティなど幅広い世界の人たちだ。ステラは自分がハブとなり、サーキュラーエコノミーを目指す異業種をつなぎ、新しい才能を浮かび上がらせて鼓舞し、生活者に気づきとファッションの楽しみを与えようとしている。マルシェとショーはまさにそれが形となったものであり、考え抜かれたショー演出は見事だ。
最後に“ステラのサステナブル・マーケット”を動画でチェックしてほしい。記者がスマホ片手に急ぎ足で歩き抜けた5分間の記録から会場の空気を感じるはず。動画は赤いコート姿のアナ・ウィンター(Anna Wintour)米「ヴォーグ」編集長兼コンデナスト(CONDENAST)アーティスティック・ディレクターがマルシェをのぞくシーンからスタート!
VIDEO