ファッション
連載 エディターズレター:FROM OUR INDUSTRY 第79回

「よくわからない」って、案外いいかも

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「よくわからない、という状況を楽しむ」。

もしかすると、私はこの点において、多くの方と違っているのかもしれません。こと真面目な方は正解を求めたり、自分なりの見解やスタンスを持とうとしたりするのに対して、私は「よくわかんないな。まぁ、そのうちわかるのかな?」という感じで、しばらく“寝かせて”みる傾向が強い気がします。

例えば、2024年春夏の「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」です。演出ではなく、洋服でゾクゾクできるランウエイショーは久しぶりでした。ファッションとクラフツマンシップ、そしてアートが融合して、よもや洋服が新たな次元に到達・突入しようとしている印象を覚えましたが、その「新たな次元」がどこなのか?何なのか?については、未だ的確な言葉が見つかりません。

言葉を生業とする人間として、恥ずべきことかもしれません。でも「未知のもの」とは、そういうもの。自分の大したことのないボキャブラリーの中から、すぐさま的確な言葉が見つかったら、「それはそもそも、新しくないのでは?」なんて思ってもいるせいか(言い訳w?)、この「未だ的確な言葉が見つからない」状態を楽しんでいるというか、「そのうち、見えてくるのかなぁ?」なんて楽しみにしているフシもあります。

先日、ボルトスレッズのCEOにお会いしました。詳しくは年始の特集でと思っていますが、生み出した“マイロ”という素材について、ファッション業界ではレザーの代替品としての可能性が見出され、レザーのような色や柄をのせ、広まろうとしている現状に対して、「ビジネスマンとしては注力して、ファッション業界と共に発展させたい」と願う一方、「科学者としては、もっと違う可能性があるはず」という、ある意味で忸怩たる思いもあると教えてくれました。だから彼は、“マッシュルーム レザー”ではなく、“マイロ”と呼ぶのです。「人間は、新しいものを、見たことがあるものと関連づけようとしてしまう。それは、可能性を広げると共に、狭めかねない」と続けます。なるほど。ファッション業界は“マイロ”を見て、「レザーの代わりになるのでは?」という可能性を選びましたが、もしかすると「シルクの代わりになるのでは?」とか、そもそも何かの代替ではなく例えば「菌糸で送電できないか?」など、別の可能性を探ることだってできるのでしょう。って、後者も送電線の代替ですね。私の発想もショボいモンです(笑)。

そう考えると、私が得意な「よくわからない、という状況を楽しむ」って、結構アリなのかも。しばらく寝かせてみると、以前は思い浮かばなかった選択肢や可能性に気づくことができるのかもしれませんから。

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