コンパニー フィナンシエール リシュモン(COMPAGNIE FINANCIERE RICHEMONT以下、リシュモン)は、傘下に抱えるラグジュアリーEC大手ユークス ネッタポルテ グループ(YOOX NET-A-PORTER GROUP以下、YNAP)の株式47.5%をファーフェッチ(FARFETCH)に売却することを中止した。この取引には当初、ファーフェッチの企業向けECプラットフォームであるファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューション(Farfetch Platform Solutions)をリシュモンとYNAPが導入する契約なども含まれていたが、これも見直す。リシュモンは、破たんの危機に瀕していたファーフェッチとの取引について先月、「当社はファーフェッチに対する金銭的義務はなく、融資や投資も考えていない。状況を注意深く見守っている。現時点で、当社の傘下ブランドやYNAPはファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューションを導入しておらず、それぞれのプラットフォーム上で運営している」との声明を発表して、当初は23年度中に完了する見込みで10月には欧州委員会(European Commission)からの承認も得ていた取引について、様子を見ることを宣言。ファーフェッチが韓国発のEC企業クーパン(COUPANG)に救済を求めて5億ドル(約715億円)の資金援助を受けることを踏まえ、様子見としていた取引を正式に中止することを表明した。
リシュモンのヨハン・ルパート(Johann Rupert)会長は長らく、アマゾン(AMAZON)や中国最大手EC企業のアリババ(ALIBABA)の台頭を踏まえ、YNAPの過半数株式を保有する支配株主をなくすこと“中立的なラグジュアリーECプラットフォーム”の実現を夢見ていたが、計画は大幅な修正を余儀なくされる。クーパンからのファーフェッチへの資本注入の報を受け、リシュモンは18日(ヨーロッパ時間)「“中立的なラグジュアリーECプラットフォーム”の実現に向けて、当初とは違う選択肢を考えることになるだろう」とのコメントを発表。一方で、「将来、ブランドはカッティングエッジなテクノロジーの恩恵を受けるだろう」とも話しており、ルパート会長は夢を諦めていないようだ。
債権の返上で注入資本も引き上げ
当面、YNAPは独自のテクノロジーでビジネスを継続。リシュモンもYANP事業を育て続け、然るべき時にまたルパート会長の夢を実現する姿勢を示している。
リシュモンは20年、ファーフェッチが発行した優先債権を取得する形で3億ユーロ(約468億円)を投資したが、「債権は返上する」という。現在、この債権は2億1800万ユーロ(約340億円)相当の価値を有している。
ファーフェッチは同名のマーケットプレイスを運営しているほか、ファーフェッチ・プラットフォーム・ソリューションという企業向けのECプラットフォーム開発事業を展開しており、必要なソフトウエアやサービスを一式そろえて英百貨店ハロッズ(HARRODS)など20社以上のラグジュアリー企業に提供している。リシュモンとファーフェッチによれば、新たな構想では、これをリシュモンの傘下ブランドやYNAPが使用したり、リシュモンの傘下ブランドがファーフェッチのマーケットプレイスに出店したりすることに加えて、ファーフェッチがYNAPに直接投資して少数株主となることなども検討されていた。