ヤン・アンドレア/プラダ ビューティ グローバル プレジデント
PROFILE:2001年に「アルマーニ ビューティ」のフレグランスのインターナショナル・マーケティング・プロダクト・マネージャーとしてロレアルに入社。その後、インターナショナル・グループ・マーケティング・マネージャーに任命された。07年にはスペインにへ移り、「アルマーニ ビューティ」と「ヘレナ ルビンスタイン」のマーケティングを指揮した。10年にフランスに戻り、「イヴ・サンローラン」のインターナショナル・フレグランス・マーケティング・ディレクターに就任。その後、「アルマーニ ビューティ」と「ビオテルム」のジェネラル・マネージャーとして中国に赴任。21年1月から現職 PHOTO:SHUHEI SHINE
「プラダ(PRADA)」は2024年3月20日、スキンケアとメイクアップ製品を発売する。それに先駆けて、東京・表参道のポップアップストア「プラダ ビューティ トウキョウ(PRADA BEAUTY TOKYO)」で2月1日に先行発売する。グローバルでは8月1日にローンチし、ミラノ・コレクションでファッションショーの来場者にアイシャドウとリップ、クリームがプレゼントされ話題になるなど日本国内でも注目を集めていた。来春、満を持して日本に上陸する。
「プラダ」がロレアル(L’OREAL)と長期的なビューティライセンス締結を発表したのは2019年12月。契約は21年1月1日付で有効となり、ロレアルは直近ではウィメンズフレグランス“パラドックス(PARADOX)”を世界的な成功に導いている。世界トップのビューティ企業で は「プラダ ビューティ」のビジョンをどう描くのか。ロレアルのヤン・アンドレア(Yann Andrea)=プラダ ビューティ グローバル プレジデントに話を聞いた。
目指すは真の意味の
グローバルビューティブランド
WWD : 8月1日にスキンケアとメイクアップがローンチしたが、現在何カ国で展開しどのような反響があるか?
ヤン・アンドレア=プラダ ビューティ グローバル プレジデント(以下、アンドレア): まず初めに「プラダ ビューティ」が目指しているのは、真の意味でのグローバルブランドだ。展開する地域やプロダクトカテゴリーでもグローバル(世界的、網羅的、全方位的)でありたいと考えている。その上で、世界中の誰が見ても「プラダ ビューティ」だと分かるブランドコードを大切にして進めていく。現在イギリスやドイツ、イタリア、中国など7カ国で展開しているが、新しいマーケットでローンチする度に出店した百貨店のトップ5ブランドに入るなど大きな反響を得ている。来年は米国や日本でのローンチも控え、展開国を拡大する。グローバル戦略においてはアジア、特に日本に注目しており、多くの人に「プラダ ビューティ」を手にしたいと思ってもらえるビューティブランドに育てたい。
WWD : アジアや日本市場を重視する理由は?
アンドレア : ビューティカテゴリー自体が強い市場であり、「プラダ」というブランドがアジアの生活者から非常に愛され力を持っているからだ。そして、アジアでは男女共にビューティを重要と考えているからだ。アジアの中でも、とりわけ日本の消費者はビューティのエキスパートが多い。
WWD : ロレアルが「プラダ」とビューティ事業のライセンス契約を締結したのは2019年だった。当初からスキンケアとメイクアップの構想はあった?
アンドレア : 「プラダ」とのコラボレーションが始まった時から私たちは非常に意欲的な目標を持っていた。最もグローバルなビューティブランドを目指す上で、フレグランスだけでなくスキンケアやメイクアップでも新しいビジョンを提案したい思いがスタートからあった。
全ての処方の背景にイノベーション
WWD : スキンケアとメイクアップの開発にはどのくらいの時間を要した?
アンドレア : 商品開発には非常に長いプロセスがある。まず初めに処方作りに着手した。「プラダ ビューティ」の全ての処方の背景にはイノベーションがあり、なおかつベストパフォーマンスを出すことを目指した。同時に素敵なパッケージ作りもしなければならない。「プラダ ビューティ」では男女関わらずいいと思えるパッケージ開発を行っている。機能的で美しいオブジェクトを作りつつ、長く使えるように全商品をリフィル対応にした。開発過程では、容器に入れた時に中身の処方が変容しないか、発色が美しく出るかなどのテストを重ねた。
WWD : イノベーションには例えばどんなものがある?
アンドレア : 前提として、「プラダ ビューティ」の哲学はマイナスをゼロにしたり、良くないものを改善したりするのではなく、肌にポジティブな影響を与えることを大事にしている。未来の肌に働きかけるように、肌を整え準備をしていくということが重要だ。例えばスキンケアのスター商品“オーグメンテッド スキン クリーム”は「APG スマート テクノロジー」を搭載している。これはさまざまな有用成分の組み合わせにより、クリームを使う人の肌をその人がいる環境に順応させてくれるもの。肌トラブルを補正するのではなく、ライフスタイルや環境の変化に素早く対処する、肌に本来備わる“適応力”を高める。あらゆる外的・内的要因から肌を守ってくれるというイノベーションだ。
WWD : メイクアップでは2人のアーティストを起用しているが狙いは?
アンドレア : 私たちはコラボレーションの力とコレクティブ・インテリジェンス(集合知)を強く信じている。そして、ビューティの世界に新しいアプローチを持ち込みたいと考えている。また、私たちは現実世界とバーチャル世界に強いつながりがあると感じており、それをなんとか商品開発やそのほかの活動にも反映したいと考えた。そんな背景があり、2人を起用した。1人は「プラダ」のファッションショーも手掛け、彼女の世代では最も名前が知られる才能豊かなメイクアップアーティスト、リンジー・アレキサンダー(Lynsey Alxander)。もう1人は世界的に知られるデジタルアーティストで、ビューティ・ファッション・ラグジュアリー界でアートディレクターとして3Dを使い始めた第一人者であるイネス・アルファ(Ines Alpha)だ。
色に対する新しい視点
人の力とテクノロジーの融合
WWD:コラボレーションはどのように進んだ?
アンドレア:例えば色と色の組み合わせを考える時に、“フィジカルメイクアップアーティスト”のリンジーは実際にピグメント(色素、顔料)を触って考える。一方で、“デジタルメイクアップアーティスト”のイネスはパソコン上でピクセルを使って考える。その後、意見交換を重ねる。このプロセスで「プラダ ビューティ」は色に関する新しい視点を持つことができた。「プラダ ビューティ」のもう一つの特徴として、クラフトマンシップ(職人技)とテクノロジーの融合がある。人の力とテクノロジーを合わせた錬金術の末にどのような新しいものが生まれるかを非常に重視している。
細かい話だが、リップスティックの表面には「プラダ」のファッション小物を象徴する素材であるサフィアーノ レザーとリナイロンの質感を再現した精緻な刻印を施した。実はこれは非常に難しい技術で、液状のリップを型に流し込んで固めて製造するが、これだけ細かくしかも深く彫るのはとても困難だ。発色にもこだわり、2種の質感のうち マットレザーは黒のピグメントを、スムース ナイロンは白のピグメントをベースに色素を足していくことで、サフィアーノ レザーの深みやナイロンバッグの表面の白い反射を再現した。こうした細部へのこだわりもあり、リップスティックの売れ行きは非常に好調だ。アイシャドウも「プラダ」のテキスタイルのアーカイブからインスパイアされたカラーハーモニーが大変好評だ。アイシャドウは通常パウダーケースに充填してプレスして固める工程を取るが、「プラダ ビューティ」ではクリームを充填して水分を蒸発させている。そのため、塗り広げた時に粉落ちせず、滑らかな感触と質感が出せる。このテクスチャーは重ね塗りに適していて、薄くつけて柔らかく発色させてもいいし、重ねて大胆な濃い発色を楽しむこともできる。
ターゲットはビューティに
高いパフォーマンスを求める層
WWD:すでにスキンケアとメイクアップを発売した国ではどのような客層が購入している?「プラダ ビューティ」のターゲットは?
アンドレア:ビューティはよりインクルーシブ(包括的)でユニバーサルである必要があり、展望としては“Beauty for Everyone”と考えているが、20〜30代の若年層、特にファッションとビューティの融合を目指している人たちから支持されている。“ビューティアディクト”“ファッションアディクト”と言われるような人、ビューティにより良いパフォーマンスを求めている人、ビューティの力を信じている人に向けてアプローチしていきたい。
WWD:欧米ではフレグランス市場が非常に大きいが、スキンケアやメイクアップの顧客は「プラダ」の香水を購入する顧客と違う層になるか?
アンドレア:フレグランスとビューティのお客さまは乖離してしまうことがよくあるが、私たちは一貫性のある「プラダ」らしいコード作りを大切にしながら同じアプローチをしている。ただ、日本はフレグランス市場が小さいため、スキンケアやメイクアップを展開することでフレグランスに入ってくるお客さまもいるだろう。グローバルと日本では状況は異なるが、フレグランスとビューティで一貫したメッセージや世界観を伝えていく。
各市場のフラッグシップストアに出店
WWD:今後のグローバル展開におけるリテール戦略は?
アンドレア:まずは各マーケットのアイコンと言われるようなビューティのフラッグシップストアへの出店を目指す。欧米においてはセフォラ(SEPHORA)やパフューマリーショップと言われる業態のエクスクルーシブなストアを狙う。一例として、10月末には1996年のオープン以来、初のリニューアルオープンをしたセフォラのパリ・シャンゼリゼ通り店でローンチした。
WWD:ロレアルには「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」「アルマーニ ビューティ(ARMANI BEAUTY)」「ヴァレンティノ ビューティ(VALENTINO BEAUTY)」といったデザイナーズブランドがあるが、「プラダ ビューティ」の目指すポジションは?
アンドレア:ロレアルグループはミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)やラフ・シモンズ(Raf Simons)とのコラボレーションのチャンスをもらい、良い機会などという言葉では言い表せないほどの素晴らしい経験を得ている。共同開発がインスピレーション源となり新たなビジョンやクリエイティビティも生まれた。当社は「プラダ ビューティ」に関して非常に意欲的な目標を掲げており、世界的にもプロダクトレンジ的にも真のグローバルブランドを目指し育てようとしている。そのために、今回スキンケアとメイクアップを発売した。しかしこれは共同開発の序章にすぎず、今後も商品レンジを完璧で幅広いものにしていく予定だ。評価され力のあるブランドに育成し、「プラダ ビューティ」にふさわしいポジションを目指す。