ファッション

“循環する美食”で質とサステナブルを両立【進化する幸せ産業】

2023年の食を振り返ると、“循環する美食”は私にとって注目すべきテーマだった。循環農業を志す農家の野菜や、これまで廃棄されていた部分の活用、素材を無駄にしない調理法、肉や魚の消費を抑えるソイミートや昆虫などの食材の可能性、食品ロスやごみを出さないサービスなどがその例だ。驚くほど上質で、工夫を凝らしたビーガン料理も増えた。体のため、地球のために食べるのではなく、美味しいから食べるという積極的な選択——その結果、サステナブルな働きかけに寄与するのが、今の時代を象徴する“循環する美食”なのだ。

循環をテーマにした
三ツ星シェフによる「スィークル」

今秋、それを体現するファインダイニング「スィークル(CYCLE)」が東京・大手町に開業した。ミシュラン三ツ星レストラン「ミラズール(MIRAZUR)」を率いるマウロ・コラグレコ(Mauro Colagreco)シェフがプロデュースした「スィークル」はその名の通り、自然の中での生命の“循環”をコンセプトにしたレストラン。同店のキッチンを任されたのは、「ミラズール」のスーシェフを務めていた宮本悠平シェフだ。種が根を広げ、葉が生え、花が咲き、実を結び、再び種となるそのサイクルを途切れさせず、次世代へつなぐという願いを込め、6~10皿の3種のコースを提供している。

コースの前に提供されるのは、その日の料理に使う野菜の皮や切り落としを使ったウェルカムブイヨンだ。日常的に出る食品ロスについて考え直すきっかけにもなる。次に出るのは、循環を表現したタパスだ。“根”は誕生、成長を現わす“葉”は苔玉のようなコロッケ、再生を象徴する“花”はしめ鯖に菊の花のピクルスをあしらったタルト、再誕生は“実”であり“種”でもある栗のフィナンシェというように、生命のサイクルをビジュアルで伝える。続く料理もどれもフォトジェニックで、メインである薔薇の香りを楽しむための蝦夷鹿と林檎の料理もドラマチック。デザートの後には、根、葉、花、種子・実を表現した小菓子4品がさらに登場し、生命の循環について再び考えるきっかけになる。

廃棄物ゼロのレシピを心がけ、料理でメッセージを伝える「スィークル」の取り組みは、キッチンの中だけではない。南フランスにある「ミズラール」の菜園では、持続可能な農業やパーマカルチャーを支援し、生物多様性と土壌保全のための実験を行っている。大手町の「スィークル」もまた、たくさんの植物や木が茂る千葉県の自然農園と連携し、食材作りから取り組んでいる。畑とのつながりがシェフのインスピレーション源となっているのだ。そうして生まれたアイデアを、マウロ=シェフのフィロソフィーに共鳴した宮本シェフが、次なる“作品”として具現化する。

■スィークル
住所:東京都千代田区大手町1丁目2-1 Otemachi One 1階
時間:平日17:00〜23:00(L.O. 20:00)/ 週末・祝日11:30〜15:00(L.O.13:00)18:00〜23:00(L.O.20:00)
定休日:月曜日

店内にはチーズ工房も
持続可能な食材にこだわるピザ屋

今冬オープンしたばかりの麻布台ヒルズにも、サステナブルをテーマにしたピザレストランがある。ガーデンプラザDの1階にある「ピザ フォーピース 東京(PIZZA 4P’S)」は、IT企業で働いていた日本人夫婦がベトナムで創業。現在はベトナムで31店舗運営しており、カンボジアに進出後、インドにも12月、で、日本には初上陸したばかりという逆輸入型レストランだ。

麻布台ヒルズ店では、正面にチーズ工房を併設。工房ではベトナムのチーズ工房で修業をした職人が、ピザには欠かせないチーズを製造している。モッツァレラチーズ製造時にミルクから出るホエイ(乳清)を無駄にせず、リコッタチーズの材料としたり、ビールの醸造や花瓶などに活用したりしている。ホエイレモンサワーなど、メニューにそのまま生かすアイデアも見られる。廃棄されがちなホエイは、実は栄養価が高く、さまざまな形に活用できることを学べる。ミルクがチーズになり、ホエイが活用される循環を、チーズ工房と店内を仕切るガラスに図解し、その流れを可視化する。ショップでは、実際にホエイを使用したビールやデザートを販売している。

「ピザ フォーピース 東京」では、メニューにも注目してほしい。食材から家具、器、ナプキンにいたるまで、サステナブルな未来を築きたいという思いに共鳴する作り手の情報が掲載されている。埼玉県小川町の自然栽培農家や北海道の小麦農家など、美食を支える多くの作り手とのつながりを感じられるだろう。メニューの各コンテンツは読みごたえがあり、わくわくするビジュアルだった。1冊の雑誌のようなクオリティーの高さに驚く。サステナブルな取り組みを発信するだけでなく、「仲間になろうよ」と問いかけられているような意思が伝わってくる。

益子夫妻が提供したいのは、親しい仲間とピザを囲んで過ごす豊かな時間だ。“Make the World Smile for Peace”の企業ビジョンのもと、幸せな未来へとつないでいく。

■ピザ フォーピース 東京
住所:東京都港区麻布台5丁目10-7 虎ノ門ヒルズ ガーデンプラザD 1F
時間:ランチ 11:00~15:00(L.O.14:00)ディナー 17:00〜22:00(L.O.21:00)
定休日:火曜日

廃棄物ゼロを目指す
注目の“シェアする”フレンチ

日本を代表するフレンチの巨匠、三國清三シェフもまた、サステナブルな美食に取り組む料理人の一人だ。麻布台ヒルズの森JPタワーにオープンした「ダイニング33(Dining 33)」は、三國シェフにとって初の試みである、シェアスタイルのグランドビストロ。ランチはアミューズを含む6皿6000円、ディナーはメイン2品の7品1万1000円の本格的なフレンチコースだ。ランチとディナーともにメイン料理が迫力ある大皿でサーブされ、食べたい量を取り分けるシステム。大皿を囲みながら親密さを演出し、食の楽しさを再認識する仕立てとなっている。食べられる分だけ取り分けることにより、フードロス軽減を目指す。

三國シェフの、料理から器、サービス内容にいたるまで、日本の風土を取り入れたフレンチを表現する思想「ジャポニゼ(JAPONISEE)」はここでも健在。三國シェフの故郷である北海道増毛の海の幸、伝統的な“江戸東京野菜”なども積極的に取り入れ、食材について学ぶ大人の食育でもある。実はJP森タワーの33階は、麻布台ヒルズ入居企業のための会員制ウェルビーイング施設の一部。「ダイニング33」は一般のゲストも利用できるが、懇親や接待など、ビジネスユースも見込んでいる。三國シェフは、スローフードの推進や、病院のウェルネスフードにも積極的に取り組んできただけに、高感度な層に食の循環について感じてもらう狙いもあるのだろう。

■ダイニング33
住所:東京都港区麻布台1丁目3-1 麻布台ヒルズ 森JPタワー33階
時間:ランチ 11:00〜15:00(L.O.14:00)ディナー 18:00〜23:00(L.O.22:00)
不定休

「茅乃舎」の出汁かすも再活用
希少なイタリアン野菜を栽培

廃棄物を生かす発想もある。農家兼飲食業を営む「里山サポリ」の城戸勇也の試みが、その例だ。福岡県久山町を拠点に循環農業に取り組む城戸は、希少なイタリアン野菜を栽培し、全国のレストランに直接届けている。「朝食イタリアン キッキリッキー」では、自らキッチンにも立ち、スープや色とりどりのサラダなど、コース仕立ての朝ご飯を提供している。

畑の肥料となるのは卵、飲食店の生ごみ、そして出汁かすだ。これらは、地元企業である久原本家が茅乃舎だしを製造するときに出る廃棄物。久原本家もまた同じく、次世代に未来をつなげるサステナブルな食をテーマとし、農法法人美田を2004年に設立するなど、土づくり、野菜づくりと向き合ってきた。醤油蔵が起源である久原本家が、醸造発酵という食の分野で、自然の循環から切り離せないものづくりを続けてきた。今後も地元農家と連携して、農業支援を行うという。

城戸は、週末にはキッチンカーでの野菜やピザの販売などにも精力的だ。生産者が直接調理、サーブし、消費者と交流することにより、その思いはよりダイレクトに伝わる。もともとイタリアンシェフだった城戸だからこそ、どう調理すれば野菜本来の力を引き出せるかを伝授もできる。消費者が野菜を手にすれば、未来について考えるきっかけになる。これも食の循環だ。

■里山サポリ
住所:福岡県糟屋郡久山町猪野91
時間:毎週日曜日13:00〜日没に直売

これらの全ての店に共通するのは、メッセージをただ伝えるだけではなく、消費者を自分ごととして巻き込み、行動につなげ、仲間にする点だ。共感者は次なる語り手になる。2024年につながる食の循環がどう進化してくのか、楽しみだ。

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