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特集 メンズ・コレクション2024-25年秋冬

「M A S U」パリ初陣で輝く 予想を裏切る“キラキラ”の一夜【2024-25年秋冬メンズコレまとめ】

M A S U」は、2024-25年秋冬コレクションをパリで現地時間1月17日に発表した。パリでの発表は、東京都と繊維ファッション産学協議会が主催するファッションコンペ「ファッション プライズ オブ トウキョウ(以下、FPT)」受賞によるサポートを受けてのもの。現在パリ・ファッション・ウイーク公式スケジュールに参加する「マメ クロゴウチ(MAME KUROGOUCHI)」「オーラリー(AURALEE)」なども同様に、「FPT」の支援で初のパリでの発表を行ってきた。「M A S U」が発表日時に選んだのはパリ・メンズ公式スケジュールではなく、非公式スケジュールの19時。公式予定では、昨今めきめきと実力をつけている「ウェールズ ボナー(WALES BONNER)」とほぼ同じ時間帯で、来場者はほとんど日本人になるか、苦戦する可能性が高いと予想していた。しかし、ふたを開けてみると会場には海外のゲストも多く満員御礼で、東京の熱気そのままの“マス ボーイズ ランド(MASU BOYS LAND)”だった。

コレクション会場はまるでホラー映画のようで、コウモリ傘を吊るしたセットがさらに不気味なムードを助長させる。昨今の「M A S U」は、童心に帰ったような、ピュアでハッピーな世界観が定着しつつあったため、その意外な光景に驚いたゲストも少なくなかっただろう。コレクションの出発点になったのは、後藤愼平デザイナーの“孤独”だったという。「1人残って作業していると、家族や友人にも会えず、孤独で寂しいと感じることもある。でもある意味、すごいぜいたくな時間なのかもと思った」。

優しきダークヒーロー

ショーは、オールブラックのスタイルで開幕した。フードを目深にかぶったモデルの表情はほとんど見えず、漆黒のスーツの袖には異常な数のボタンが付き、スラックスは裾をひきずるほど長い。ただ、ジャケットの穴をふさぐようなアップリケ風のあしらいには、スタッズがかすかに輝いた。このわずかなきらめきが、後半に向けてどんどん輝きを増していく。「例えば、雨の日の帰り道。くもの巣に雨がついてキラキラしている光景が自分の目の中に入ってきた。世間では暗い、悲しいといわれているものでも、よく見るとかわいくてキラキラした部分がある。僕は、そういう眼差しでものごとを見たい」。

オールブラックのスタイルが続くシリアスなムードも、“キラキラ”を探すことで見え方が徐々に変化する。羽を閉じたコウモリのような丸みのあるシルエットや、雨に打たれたように光沢を帯びたテキスタイル、牙のようにくり抜いたキャップの穴や、シューズのつま先にはラインストーンが輝く。ジャケットやパンツに、フロッキーやインクジェットでプリントしたクモの巣グラフィックもどこか愛らしい。

クラシックでもストリートウエアでもなく、ジェンダーの既成概念にもとらわれない多ジャンルを横断するスタイルに、シグネチャーのレーザーカットやボリュームのあるボトム、機能素材で表現するフリル、パーカ全面に施したスパンコールなど、昨今の「M A S U」で培ってきたアイデアを投入する。逆さに飛ぶスターやハートの風船のグラフィックは、アーティストのVERDYとのコラボレーションだ。「力や知恵ではなくて、優しさが武器のダークヒーローを描きたかった。だからハートのモチーフもあるし、キラキラもある。一見シリアスに見えるけれど、いつもと違う雰囲気で楽しんでもらえるのではないかと思った」と後藤デザイナー。スタジャンの背中には、23年春夏シーズンでテーマにしたマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)の言葉“ALL OF US ARE PRODUCTS OF OUR CHILDHOOD(僕らはみんな幼少期の産物なんだ)”を刻んだ。「23年春夏シーズンの制作過程で知り、自分の中で大切な言葉になったから」。定番を嫌う後藤デザイナーは、かつてジェンダーについて再考したり、未来への希望を服に託したり、ステレオタイプなアメカジに中指を立てたり、キング・オブ・ポップに思いを馳せたり、ピュアな愛のかたちを探求したりとスタイルを多彩に変化させてきた。それらの総集編であり、新境地を見せたパリデビューだった。

大舞台を終えて

これまでパリでショーを披露してきた多くのブランドは、初陣では慣れない土地での試行錯誤や、力んだクリエイションによって、本来の力を発揮できないことも少なくなかった。集客面でも苦戦を強いられた。東京では勢いのある「M A S U」も、現状は海外での知名度はほとんどなく、2回目からが本当の勝負だと思っていた。しかし、そんな懸念は不要だった。シャボン玉が飛ぶ中、フィナーレに勢いよく現れた後藤デザイナーはいつも通りの堂々とした姿で、大きな拍手で迎えられた。「楽しかった。もう本当に楽しかった。今日来てくれた人の心をキャッチし、何だこのブランド!て思ってくれたらいいなって。いろいろな人のサポートがあって、楽しく楽しく服作りができた」。

予想以上のインパクトを残した「M A S U」だが、強豪ぞろいのパリで戦うならば、相応のビジネス的な結果を残さないと意味がない。客観力の高い後藤デザイナーはきっと誰よりもそのことを理解しており、決して浮き足立つことはないだろう。ブランドを運営するソウキ(SOHKI)の陳晨社長も「まだスタート地点に立ったばかり」と、いつになく険しい表情だった。しかし1月17日の19時40分、パリのパルマンティエ通りの一角を多くの人の笑顔や涙、達成感の“キラキラ”で輝かせたのは揺るぎない事実。「M A S U」は、まだまだいける。

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