「エルメス(HERMES)」は、2024-25年秋冬メンズ・コレクションをパリで現地時間1月20日に発表した。ヴェロニク・ニシャニアン(Veronique Nichanian)=アーティスティック・ディレクターが今シーズン掲げたのは、「男性らしいワードローブと英国スタイルをテーマにコレクション」である。英国クラシックのアイテムやプロポーション、モチーフをベースに、「エルメス」らしい軽やかさと遊び心で、時代を超越するエレガンスを導き出すアイデアだ。
シャープなフォームと異素材の対比
ショーは、シルバン・ポール(Sylvan Paul)の楽曲“Cool Girls”で開幕した。ファーストルックは、英国スタイルを象徴するヘリンボーンのピーコートに、ハリのあるクリスピーコットンのシャツ、ハイウエストでスリムフィットのボトムスに厚底ブーツを合わせたスタイルだ。以降もチェスターコートやフライトジャケット、ベルト付きのロングレザーコートといった多彩なアウターは、ポケットの位置をずらしたり、アシンメトリーなデザインを取り入れたりしてひねりを加える。
クラシックの再解釈は、異素材の組み合わせでも表現した。ディアスキン(鹿革)のコートの内側にはウールフランネルをあしらい、逆に、ウール生地のコートにはレザーをデザインとしての一部に施すなど、異なる素材感を対比させる。ほかにもリバーシブルのムートンジャケットや、襟元に取り外し可能な厚手ニットが付くレザーブルゾンなども登場。レザーの内側にシアリング、もしくはシルクをあしらった、スカーフのように着用できるネックウォーマーも、多用途性の高いアイテムとしてスタイリングの可能性を広げる。
新素材で挑むスタイルの革新
そして、今シーズン最も革新的なマテリアルの一つがラバー素材である。コートのフードとして一部に取り入れたり、プリンス・オブ・ウェールズ・チェックのジャケットの上に、ラバー素材のアウターをポケットのフラップを通してドッキングしたり、透け感と素材感を生かしたユニークなアイデアで提案する。このかすかに透ける情緒的なニュアンスは、薄い白い布で覆われた柱が、そのシルエットだけを透けて見せる会場装飾とリンクした。「一着が複数のスタイルを形づくる、多用途な服を目指した」とニシャニアン=アーティスティック・ディレクター。
同氏はさらに、「永久不滅のクラシックを少しツイストさせることで、現代の日常に適したスタイルに昇華させることが、私にとってのコンテンポラリー」と続けた。英国クラシックを代表するモチーフのプリンス・オブ・ウェールズにはビビッドカラーを差し込み、カシミヤにアルパカ繊維を織り交ぜたニットウエアのアーガイル柄にはストライプ柄をミックス。秋冬らしいダークトーンにオレンジ、パープル、アニスグリーンのポップな色使い、そしてカジュアルなビーニーやコンパクトなガジェットバッグといったアクセサリーで、典型的な英国スタイルを軽やかにした。終盤のイブニングルックは、ハラコのようなポリッシュドカーフスキンの光沢で、スーツスタイルの新たな可能性を引き出す。素材感に加え、ホワイトゴールドとダイヤモンドを使用した、メンズラインのファインジュエリーもランウエイで輝きを放った。
不完全な美しさを求めて
「エルメス」は、定番素材と最先端機能素材の組み合わせや、シルエットのわずかな変化、あえて不均等にしたユニークなディテールで、過去から受け継がれる古典的なスタイルを現代の文脈に書き換え、未来へとつなげていく。時代に沿ってしなやかに変容させる姿勢は、軽さと柔軟性、肩の力が抜けたエレガンスという一貫したスタイルで示す。ニシャニアン=アーティスティック・ディレクターは、今までも、これからも、新たな紳士像を探求する。「少しのズレやツイストが個性となって、着用者の個々の魅力を解放する。完璧でなくても、むしろ完璧でない方がより魅力的なはずだから」。