PROFILE:榮倉奈々/LAND NK CEO
(えいくら・なな)2002年にファッションモデルとしてキャリアをスタートし、04年に俳優デビュー。その後、数々のドラマや映画の話題作に出演するとともに、「トッズ」のアンバサダーを務めるなど、ファッションアイコンとしても注目を集める。23年には、自身の経験やビジョンを活かしてLAND NK,Inc.を設立し、最高経営責任者(CEO)に就任。新しい価値観を表現するブランド「ニューナウ(NEWNOW)」をスタートした
2023年12月に開催したイベント「WWDJAPAN サステナビリティ・サミット 2023」では、ミューズとして榮倉奈々を迎えた。「WWDJAPAN」が思い描くミューズとは、日頃からサステナビリティについて考え、取り組み、一緒に世の中に発信していきたいと思うパートナーだ。
榮倉は、受注生産型ブランド「ニューナウ(NEWNOW)」を23年秋に立ち上げた。コンセプトは“変わり続ける今を生きる服”で、10年後に着ても新たな楽しみ方ができる服作りを目指す。榮倉はなぜ表現者として服をまとう側から作り手になり、アパレルメーカーを擁する会社のCEOになる決意をしたのか。ブランド立ち上げの経緯から服作りに込める思い、そして新しいものを生み出していくことへの葛藤や希望を聞いた。
(この対談は2023年12月11日に開催した「WWDJAPANサステナビリティ・サミット2023」から抜粋したものです)
向千鶴「WWDJAPAN」編集統括兼サステナビリティ・ディレクター(以下、WWD):環境について意識し始めたきっかけは?
榮倉奈々=LAND NK CEO(以下、榮倉):きっかけは子どもを産んだことですね。育児をする中で、サステナブルや環境、地球について真剣に考えるようになりました。また、コスメブランド「ラ ブーシュ ルージュ(LA BOUCHE ROUGE)」とコラボレーションしたときに、創業者ニコラス・ジェルリエ(Nicolas Gerlier)さんと話をし、彼の情熱に感銘を受けたんです。その行動力を見て、私も立ち止まっている場合ではないなと。
WWD:誰かがきっかけになるのは、皆一緒ですね。中でも出産や子育てが大きな経緯になったのですね。
榮倉:私がサステナブルを考えるときのポイントは、やはり子どもです。子どもが大人になったときの世界や、自分がいなくなった後の世界。わが子が成長したときに、より良い世界であってほしいと願うと共に、子どもが仲間と助け合いながら、世界中の子どもたちが過ごす場所がより良い場所であってほしい——その願いがきっかけです。3年ほど前に、地域の子どもや保護者が気軽に立ち寄り、栄養バランスのとれた食事をしながら交流できる場所「子ども食堂」について調べていたことがあったんです。運営を自身で行うとなったときに大きな壁だと感じたのが、資金力と継続性でした。企業として、お金を循環させて継続していくシステムが必要だと学びました。そのようなことを考えながら、「ニューナウ」を経営しています。
芸能界で得た知名度を社会のために
WWD:改めて、「ニューナウ」を立ち上げた経緯を教えてください。
榮倉:「ニューナウ」は、スタイリストの上杉美雪さんをクリエイティブ・ヴィジョン・ディレクターとして、ブランド「コート(COATE)」の福屋千春さんをクチュール・デザイナーとして迎えて立ち上げたブランドです。お2人とはそれぞれ10年、5年とスタイリングや服を通して信頼関係を築いてきました。次第に「上杉さんのフィルターを通した服を着てみたい」と思うようになり、彼女の視点を通じたスタイリングと、福屋さんの確かなものづくりをたくさんの方に届けたくて起業しました。私は、お2人のクリエイティブを守る役割だと思っています。
また、環境への意識が高まっていくうちに、廃棄物を減らす大きなシステムを作りたいとも考えるようになりました。以前、建築家の武田清明さんを取材したときに、人工物がバイオマスを上回ったという話を聞いてショックを受けて。自分が地球に生きる人間としてのあり方を、今一度考えなければいけないと思いました。
さらに、子どもの未来や人生を考える中で、自らの人生を振り返る機会も自然と増え、芸能界で21年間活動してきた意味についても考えるようになりました。その答えがまだ完全に出たわけではありませんが、自分のためだけに発信するのではなく、何か社会の役に立てるようにしたいと思っています。
WWD:モデルや俳優として服をまとう側から、作り手にもなったことで気付いたことはありますか?
榮倉:企業理念やブランドコンセプトを考えれば考えるほど、美しさは内部に宿っていると強く実感します。
WWD:サステナビリティは誰にとっても新しい世界です。業界の皆さんが純粋に洋服作りやクリエイティブを発揮できる環境を今すぐ作らねばという思いで取り組んでいます。ただ、いざサステナビリティをビジネスにしようとすると知らない言葉ばかり。科学やデジタルの専門用語も多く、技術も今までの作り方とは全く違うものも入ってきて、戸惑っている人も多いです。榮倉さんも、新しい知識や技術について勉強されたのですか?
榮倉:ビジネスに関係していなくても、サステナブル自体が難しいと思います。奥が深く、また見る人の角度や立場によっても答えが変わってくる。個人的には自宅でコンポストをやっていて、本当にできることから少しずつ取り組んでいるのですが、それがあまりにもちっぽけ過ぎて、気が遠くなるときがあります。ただ、小さくてもとにかく続けることが大切だと信じ、自分を鼓舞しています。
「ニューナウ」でいうと、会社の規模や資金力、ステージによって、できることとできないことは変わってくると感じます。私の頭の中で描いていること全てを実現しようとすると、現在の「ニューナウ」の規模ではまだまだ足りない。でも、それでいいと思っています。できることからコツコツと取り組み、そこから継続してできる方法や仲間を探し、大きくなっていきたいです。
WWD:作り手として、1つの大きなステージが受注会だったと思います。
榮倉:5日間開催し、私も会場に立ちました。楽しかったです。「ニューナウ」の服がさまざまな体形や幅広い世代の方に似合うことをお客さまに改めて見せてもらい、次の受注会に生かすヒントにもなりました。生の声を聞けて幸せでした。
WWD:同じ“買い物”でも、従来の買い物と受注会のオーダーでは、購入側の姿勢や気持ちにも違いがあるのでしょうか?
榮倉:受注会を開催した理由は、受注生産にすることで過剰在庫を持たず、廃棄される服を減らしたかったから。「ニューナウ」を買ったら、そういう付加価値があると思ってくださったらうれしいです。でも、服を買うお客さまが、その付加価値に魅力を感じて買ってくださるのか、それとも服が美しいから買ってくださるのか、それは私たちが決めることではありません。どちらの思いで買ってくださった方にもスペシャルな服を届けたいと思っています。
WWD:CEOとしてここまでやってきて得た気付きや学びはありますか?
榮倉:コツコツやっていくことと、日々変わる目の前の課題に柔軟に対応する重要性です。
環境だけでなく
人の心や気持ちも大切にしたい
WWD:ファッションブランドに関わる多くの関係者が、環境への思いと、企業を成り立たせるために作り続けることへの葛藤を抱えています。「ニューナウ」としてはどう考えていますか?
榮倉:アパレルブランドを始めたり続けたりすることは、環境への思いと相反する部分もあります。でも、「ニューナウ」のように受注生産で在庫をコントロールして、さらに10年後も大切にきれいに着続けられる服を作るなら、けして無駄ではありません。そして、「ニューナウ」の成長と共にできることもきっと増えていく。忘れてはいけないのは、洋服ってすごく楽しいじゃないですか。
WWD:それを今言おうと思っていました!ファッションへの愛がとても伝わります。
榮倉:やはり、物理的にも精神的にもまずは楽しくないと。だからこそきれいな服を着ることは大事。私は、イタリアブランド「トッズ(TOD'S)」のアンバサダーとして公私ともに長くいい関係を築かせていただいていますが、それは「トッズ」がクラフツマンシップやアフターケアの重要性を考えていて、尊敬しているからこそ。環境だけでなく、人の心や気持ちを考えることも同じくらい大切。それら2つを両立させられることを、ブランドを通じて実現していきたいです。
WWD:ところで、私は先日合同展「エコプロ」に行ったのですが、そこには小学生や中学生もたくさん来ていたんです。中には盛り上がっているブースとそうでないブースがあり、盛り上がっているブースには、子どもの心をつかみやすいVRがあったり、キャッチーな遊びがあったり。もう1つ面白かったのが、大人が一生懸命説明しているブースは、子どもたちも真剣に話を聞いているんです。本気は子どもには伝わるんだと、熱量は大事なんだと感じました。冒頭でお子さんが1つのきっかけということでしたが、子どもの手本にならなければという気持ちはありますか?
榮倉:教育環境でも、サステナブルやSDGs、地球という言葉をよく聞くようになりましたよね。とてもいいことだと思います。私が子どもに見てもらいたいのは、自分事として捉えて、行動に移している姿。本を読んで教えることは誰にでもできますが、親として行動している姿を見て学んでほしい。それが、次世代の社会を担う子どもたちに対して見せるべき姿だと、大人として責任を感じています。
WWD:背中を見せましょう。最後に、今後「ニューナウ」として挑戦したいことは?
榮倉:「ニューナウ」として、榮倉奈々として、賀来奈々として私が目指している目標は、とても大きすぎて1人では成し遂げられません。クラフツマンシップやフェアトレード、環境問題についてもそうですが、まだ皆さんにお伝えできるほどまとまっていないので、これから一緒に頑張れる仲間や方法を見つけて、自分なりに前に進んでいきたいです。
会場の参加者とのQ&A
参加者:サステナブルが魅力あるファッションで楽しいという話に共感しました。起業して1つの目標を達成し、次に見えている課題を教えてください。
榮倉:洋服を楽しんでもらうことを継続するのがとても重要だと考えています。今後は、受注生産の過程で出た布で何か作れないかなど、アイデアはたくさんあります。そして、もう少し大きな渦を巻き起こしたい。今はまだそれぐらいしか言えないのですが、仲間と出会うべくして出会いながら、つながっていきたいです。