PROFILE: 前澤洋介/花王 上席執行役員 化粧品事業部門長 カネボウ化粧品社長
花王グループの化粧品事業部門トップに就任して1年、前澤洋介社長はパーパスドリブンな強いブランドづくりを進めてきた。昨年9月には、「センサイ」「モルトンブラウン」「キュレル」をグローバル化推進の“ファーストランナーブランド”と位置づけ、グローバルで存在感を高めるべく戦略を練る。 (この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)
グローバル推進チームを組織
海外での攻勢へ準備着々
WWDJAPAN(以下、WWD):2023年を振り返ると?
前澤洋介社長(以下、前澤):コロナの5類移行によるメイク市場の復調がめざましかった。コロナ前後の変化として、インバウンド消費が一時期のような大量買いから、自分に合ったものをしっかり選ぶ傾向へ変わり、国内のお客さまと同様の買い方になってきている。海外旅行者向けのトラベルリテールの好調も追い風になった。「モルトンブラウン」もホテルアメニティーを中心に高い伸び率を示している。
WWD:グローバル化の“ファーストランナー”として「センサイ」「モルトンブラウン」「キュレル」の3ブランドを選定した。その背景にある狙いについて。
前澤:グローバル市場で見てもユニークな強みがあるブランドたちだ。それぞれのブランドでグローバル化を推進する社内チームを組織し、世界に打って出る準備を進めている。当社は、グローバル重点ブランドのG11と、国内重点ブランドのR8といった形で、戦略によってブランドを棲み分けているが、これらは決してプライオリティーの度合いを示すものではない。ブランドごとに役割を明確にすることで、適切な商品開発、施策が可能になる。
WWD:「尖った」ブランドづくりの進捗は?
前澤:特に「カネボウ」「ケイト」は売り上げが好調なだけでなく、パーパスドリブンなブランディングが浸透している実感がある。「カネボウ」ではYouTubeコンテンツ「化粧愛。」や、役目を終えた化粧品を絵の具にアップサイクルしたものを活用し子供に向けたアートイベントを実施するなど、「希望」を発信するブランドとしての活動を継続して行っている。「ケイト」で実施している“KATE SCHOOL”や“KATE DANCE CAMP”は、メイクアップを通して自分と向き合い、自己表現するきっかけを提供するイベントだ。
WWD:ブランドの具体的な進化、成長を示すトピックは。
前澤:ベストコスメの受賞数が上期・下期とも過去最高を更新した。ベストコスメはゴールではなく、あくまでお客さまに知っていただくひとつのきっかけ。しかし、ベストコスメに値する商品が作れるかどうかは重要指標として追い続けたい。ここ1、2年で確実に受賞数を増やし、それを継続できていることは事業全体にとっての確かな好材料だ。23年の下期には「RMK」「カネボウ」「スック」「ルナソル」とプレステージ4ブランドで、非常にユニークなファンデーションも発売し、大きな話題を作ることができている。
WWD:5月に「カネボウ」から発売された紙パッケージのアイシャドウ“ブライトフューチャーボックス”はチャレンジングな取り組みだった。
前澤:ブランドメンバーの熱量があるからこそできた商品だ。アイシャドウを充填する皿から、内箱、外箱にいたるまですべてのパーツにFSC認証の紙を採用した。形状や寸法を保つのが難しい紙素材で、よくここまでのものを作ることができたと思う。「カネボウ」はすでに日本で認知度を広げ、お客さまから信頼される、非常に強いブランドになっている手応えがある。海外でもパーパスドリブンなブランディングで存在感を高めていきたい。
WWD:東南アジアのビューティ市場は急成長しているが、展望は。
前澤:とても伸び代がある。特にタイやインドネシアは潜在需要が大きい。タイではすでに当社のプレステージ、マスブランドともに展開しているが、非常に好調だ。インドネシアは現状プレステージのみだが、今後は積極的な展開を検討している。日本よりも日差しの強い東南アジア諸国では、肌ダメージのケアへの関心が高く、スキンケアやUVケアの市場は今後拡大する。引き続き、現地のお客さまのニーズと実直に向き合いたい。
WWD:サステナブル関連の取り組みは。
前澤:「ルナソル」と「スック」で完全予約・受注販売にトライしてきた。半年後の新作を予約していただくのは、シーズントレンドのあるカラーコスメではハードルが高いとも思われたが、お客さまの反応は大変好意的だった。AIによる販売予測も精度を高め、より無駄のない生産へとチャレンジを続けていく。これも現状「ルナソル」のみで実施をしているが、精度が上がれば他ブランドにも応用する。
WWD:8月には自社ECサイト「My Kao Mall」でアウトレット販売を開始した。
前澤:当初は値引き販売をすることに葛藤があったが、廃棄することに比べたら環境にとってもお客さまにとってもベターだと考え、販売に踏み切った。「サラ」や「バルカン」といったすでに終売、もしくは終売が決まっているブランドや商品を購入したお客さまの、「これが最後だから」と惜しんでいただくSNS投稿が数多くあった。これまで以上に長く、深く愛されるブランドを作っていかねばと、改めて気を引き締めた。
会社概要
花王・カネボウ化粧品
KAO KANEBO
1887年に後の花王の母体となる洋小間物商・長瀬商店を設立し、90年に国産石けんを発売。2006年にカネボウ化粧品を完全子会社化。18年に花王グループ化粧品事業の新成長戦略として“新グローバルポートフォリオ”を策定。グローバル戦略ブランドと国内を中心に重点育成するブランドを定めて投資を集中している
カネボウ化粧品消費者相談室
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