ファッション

「ミラノ・ウニカ×AI」の仕掛人、クリエイティブチームのトップが語る「AIとファッションの今後」

1月30日に開幕した今回の「ミラノ・ウニカ」は、大々的にAIを打ち出した。その仕掛人の一人が、ステファノ・ファッダ(Stefano Fadda)「ミラノ・ウニカ」アーティスティック・ディレクターだ。同見本市の重要なコンテンツの一つであるトレンドコンセプトの発信にAIを導入した。クリエイティブを最重視するイタリアで、その根幹をなすトレンドコンセプト設計に大胆なまでにAIを導入した理由や手法、今後について、聞いた。

ステファノ・ファッダ「ミラノ・ウニカ」アーティスティック・ディレクター

ミラノ工科大学建築学科を経て、「プラダ」のVMDやファッションショーの演出、トレンドアナリスト、クリエイティブ・ディレクターなどを経て、2015年から現職

AIを導入したワケ

WWD:なぜAIを?

ステファノ・ファッダ(以下、ファッダ):生産性の向上といった業務効率改善には、コスト削減などの面で実際に大きな成果を挙げている有力素材メーカーもある。だが、イタリアの繊維とファッション産業の大きな強みは、クリエイティブの部分だ。

WWD:経緯は?

ファッダ:8か月くらい前に、私の方からグーグルにコンタクトし、
「クリエイティブな分野でAIを使いたい」とオファーしたんだ。正直、その段階では繊維やファッションに限らず、クリエイティブな分野でのAI活用事例もなく、どう使っていくかは私自身もわかっていなかったし、グーグル自体、そうしたAIをイタリアでは公開していなかった。ただちょうどグーグル自身が新たな生成AIツール「BARD」を2024年に公開予定のタイミングだったため、そのプロトタイプでの協力を得られた。

WWD:実際、どのようにAIを取り入れたのか?

ファッダ:そもそも、テーマやコンセプトは、膨大な事前リサーチの結果を整理し、分析し、その上でデザイナーやブランドを触発するために発表する。3つのコンセプト、「リ・ジェネレーション」「デザイン」「インタラクティブ」という3つのコンセプトと、それぞれのコンセプトに3つのテーマ(リジェネ:ニットウエア/エンブロイダリー(刺繍)/ランジェリー、デザイン:クラシック/シャツ/プリント、インタラクティブ:テクノ/グラム/シャイニー)を設けた。テーマごとにカラーやテキスタイルのイメージを設定する。ここまでのやり方は、従来どおりで変えていない。重要なのは、そこだと考えていた。あくまでもAIは、クリエイティブな活動を支援するためのツールだ、という考え方だ。

実際どうAIをクリエイティブに活用?

WWD:では、どの部分にAIを?

ファッダ:実際にやってみたからこそ、わかったのだが活用に関してはいくつかのポイントがあった。テーマやコンセプトが、いわゆるプロンプト(AIに入力する指示)の役割を担った。まずAIは、テーマやコンセプトを反映したビジュアル作りの、基礎部分に使った。例えば従来のトレンド情報は「テクノ」というテーマに対して、「合繊のマットな光沢」のように細かいキーワードも設定しており、それに合わせてデザイナーやブランドにインスパイアするビジュアルを制作してきた。われわれのようなトレンドコンセプターにとっては、社会的な事象をテキストに落とし込む分析力とともに、こうしたビジュアル作りも重要な役割の一つだ。だが、AIを使うと、このビジュアルが思いもよらぬアイデアを出してくる。

従来のビジュアル制作では、どのようにブランドやデザイナーを触発するか、という点が重要なわけだが、ビジュアル制作のときのアイデアはどんなに優れたトレンドコンセプターであったとしても、どうしてもその人のキャリアや発想に左右されてしまう。AIは、この部分の枠を取り払うことができた。

とはいえ、この作業は思っていた以上に非常に大変だった。単にテーマやコンセプトをプロンプトとして打ち込むだけでは、良いものが出来ず、一つのビジュアルを作るのに100回以上、繰り返す必要があった。これは正直、とてもしんどい作業だった。

ビジュアル制作は、AIが出してきたアイデアをベースに、ピッタリ合うテキスタイルを探す、あるいは制作し、服を作り、撮影した。この部分でも、従来であれば、テキスタイル会社や縫製会社にこうしたテーマに合ったテキスタイルや服の制作を依頼し、それが最終的なトレンドコーナーに設置するスワッチサンプルになったりもするのだが、あまりにも突飛なアイデアであるため、単にアイデアイメージを渡すだけでは、テキスタイル会社や縫製工場の協力を得られなかった。実際の服は、手作業で作るようなことになった。

AIは「ファッションのクリエイティブ」をどう変える?

WWD:今後をどう見る?

ファッダ:正直、このやり方は賛否両論というか、当初は大きな反発があった。中には、「イタリアのクリエイティブを重視する文化を破壊する」というものもあった。これには明確に反論したい。テクノロジーの進化は、止められるものではない。われわれがやるべきことであり、重要なのは、「テクノロジーをどう活用するか」だ。今回取り組んでみてAIや生成AIはまだまだ未成熟のテクノロジーだとも感じた。それでも、クリエイティブな活動にとって、大きな可能性も秘めている。世界の繊維・ファッション産業にとってイタリアの果たすべき役割は、クリエイティブを軸に産業を発展させることで、われわれイタリアが先頭を切って挑戦することにこそ、意義がある。今回の冒頭のキーノートセッションに「AI」を掲げたのも、この私の取り組みと考え方に「ミラノ・ウニカ」の会長を始めとして賛同したためだ。

WWD:今後AIの導入は、繊維・ファッション産業にどう進んでいくのか。

ファッダ:繰り返しになるが、生産効率の改善のような部分では、大手素材メーカーのレダ(REDA)のように、実際にコスト削減に成果を挙げている企業もある。ただ、クリエイティブの部分ではアイテムやカテゴリーによって、AIとの相性の良し悪しはある。たとえば、プリント柄の生成なんかは、すでに取り入れている企業もあるほどだし、相性はいいと思う。けど、逆にボタンやファスナーといった服飾資材の相性は良くないかもしれない。そもそも生産のためのテクノロジー自体がかなり高度で複雑だし、服のデザインプロセスにおいても最後の方に決まるため、リードタイムが短い。先行するのは、やはりテキスタイルの部分だろう。

WWD:トレンド予測そのもの、つまりコンセプトやキーワード、カラー予測にも使えるのでは?

ファッダ:ノー(即答)。それはない。これは例えば、需要予測にAIが使えるか、という問いにも似ている。水面下では、これまで何度もメガIT企業が服の需要予測に取り組んでいるが、ことごとく失敗している。ある服一着をとっても、丈の長さ、色、細かな仕様があり、そもそも例えば黒色といっても、いろいろな黒色のバリエーションがある。つまりパラメーター(変数)が多すぎる。これはトレンド予測も全く同じことだ。ずっと先のことはもちろんわからないけど、少なくとも現在、あるいは近い将来まではかなり難しいと思う。

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