PROFILE: 塩川弘晃/ジョイックスコーポレーション社長
英国を代表するファッションブランド「ポール・スミス(PAUL SMITH)」を筆頭に「ランバン コレクション(LANVIN COLLECTION)」「ザ・ダファー・オブ・セントジョージ(THE DUFFER OF ST. GEORGE)」といった海外ブランドを展開するジョイックスコーポレーションは、コロナ禍で抑制していたマーケティング活動を積極化する。2024年、塩川弘晃社長は攻めの姿勢を鮮明にする。
(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)
メンズとウィメンズの
複合型店舗で新しい魅力を伝える
WWDJAPAN(以下、WWD):2024年の重点施策は何か。
塩川弘晃社長(以下、塩川):「ポール・スミス」の露出の強化だ。今年からの3カ年のマーケティング計画を組み、経営資源を投じていく。店頭、デジタル、イベントなどを通じた露出を増やす。ジョイックスコーポレーションの会社設立50周年(21年)、「ポール・スミス」導入40周年(22年)という節目がコロナに重なってしまい、思い切ったマーケティング活動ができなかった。改めて「ポール・スミス」の魅力を知ってもらうため、新規出店も含めてお客さまとの接点を思い切って広げる。
WWD:昨年秋には企画展「ポール・スミス ストライプを紐解く」を原宿で開催した。
塩川:グローバルで推進するマーケティング施策の第1弾だった。ブランドを象徴するストライプ柄をテーマにした企画展で、1970年代から続くブランド哲学をさまざまなインスタレーションを通じて表現したものだった。10日間ほどの会期ながら、大勢のお客さまが訪れ、ポール・スミス氏のクリエイションに触れてくれ、SNSでも拡散された。店頭だけでなく、ブランドの魅力を再発見できるようなイベントは大切だと痛感した。
WWD:23年春から「ポール・スミス」のウィメンズ事業をオンワード樫山から継承した。
塩川:ウィメンズの店舗を約20引き継ぐとともに、既存の大型店に関してはメンズ・ウィメンズのコンバインストアへと改装した。メンズ・ウィメンズ両方を手掛けることで相乗効果が生まれている。ウィメンズがあると、店舗が華やかになる。コンバインストアにすることで、カップルや夫婦で買い物をされるお客さまが目立つようになった。細身の男性がウィメンズを選んだり、オーバーサイズを好む女性がメンズを買ったりする事例も増えた。商品企画においても共通の素材や柄の採用が広がった。統一感のあるブランディングで、魅力を高められる。新規出店について商業施設のフロア環境や店舗面積で折り合いがつけば、コンバインストアを積極的に出していくつもりだ。
WWD:マーケティング活動やコンバインストア出店でどんな客層に訴求したいのか。
塩川:実は「ポール・スミス」は30〜40代前半のお客さまが手薄になってきた。極端な言い方をすれば、アパレルは40〜50代、革小物などの服飾雑貨は20歳前後が大きな山になっていて、間がぽっかり抜けている。ここに刺さるマーケティングができればマーケットシェアはまだ広がる。価値観が多様化している中で「ポール・スミス」に再び袖を通してもらえるようにするために何をすべきか。コロナ以降、販売促進についてデジタル化の大合唱になっているが、雑誌を参考にしている方も大勢いる。新しい顧客獲得のために社内で知恵を絞っている最中だ。
WWD:コロナ禍でOMO(オンラインとオフラインの融合)に力を注いできた。
塩川:リアル店舗とECの顧客IDを統合し、在庫も一元管理できる体制を整え、すでにPDCA(計画・実行・評価・改善)のサイクルを回している。さまざまなデータの証明の上で手を打つことができるようになった。例えば、コスト高騰に伴い、革小物を値上げしたら、ECの売れ行きに急ブレーキがかかった。データを突き詰めると、どうやら2万円という1つのバーがあることが分かった。ECの場合、お客さまは価格でフィルタリングをかけるので、2万円を越えた商品では検索に掛からなくなる。店頭では販売員が商品の価値を伝え、お客さまが納得して購入していただくことができるが、ECではなかなか難しい。しかし、そういった明確なデータが分かればMDで対応ができる。リアル店舗とECをシームレスに行き来できるようにし、お客さまの体験価値を高める。われわれはデータの解析によって、お客さまの深層心理に応えられる。OMOへの移行で改善点がたくさん見えてきた。伸び代は大きい。
WWD:「ポール・スミス」は店頭でのセールをしていない。それだけに精緻なMDが求められる。
塩川:リアル店舗は正価販売に徹し、残った商品は翌年アウトレットストアで売る。ブランドのファンをがっかりさせないため、線引きはしっかりしている。それだけに今シーズンのような暖冬は悩みの種だ。アパレル業界の常識では8月中旬に秋冬物へと店頭を一斉に切り替える。ポイント施策もあって一部の顧客は暑くても先物買いをしてくださるが、多くのお客さまにとってそれが望ましい姿なのか、よく考える必要がある。今や9月は暑いし、10月だって暑いのが当たり前。にもかかわらず売る側の都合で9月の店頭がコートで埋まっていていいのか。薄手のジャケットやブルゾンを探している方が多いのではないか。お客さま目線で考え、現実とズレが起こらないようにデータや事実をもとにロジカルに物事を捉えながら、お客さまをワクワクさせるMDを提案していきたい。
会社概要
ジョイックスコーポレーション
JOI’X CORPORATION
1971年設立。82年に英国ポール・スミス社と提携。その後、欧米の複数のブランドとパートナーシップを結び、現在日本に200店舗以上を運営する。2023年3月期の売上高は282億円。伊藤忠商事のグループ会社の一つ
ジョイックスコーポレーション
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