PROFILE: 小林章一/アルビオン社長
知名度も人気も高かったシリーズを廃し退路を断つ形で始めた新スキンケアシリーズの“フラルネ”、現状に満足せず大人気の中で刷新してきた“薬用スキンコンディショナー エッセンシャル”や“エクラフチュール”など、アルビオンは攻めの姿勢が続く。大胆な戦略の奥底にあるのは、小林章一社長がかつて体感した「魂が揺さぶられるような成功体験」と、そこから生まれた化粧品への愛だ。ここまで商品にこだわる小林社長の成功体験とは?そして、その感動体験をどう後に続く社員に広めようとしているのかを聞いた。
(この記事は「WWDJAPAN」2024年1月29日号からの抜粋です)
「化粧品って、面白い!」
そう思える価値を提供したい
WWDJAPAN(以下、WWD):2022年に発売したスキンケアシリーズ“フラルネ”以降、かつてのコンフォート・ゾーンからの脱却を目指した商品開発に意欲的だ。
小林章一アルビオン社長(以下、小林):一昨年からの新しいチャレンジは、正直批判も多かった。けれど新規は確実に増えている。一つ一つの商品のブランド力を高め、最終的な肌実感はもちろん、アイデアの段階からワクワクする“突き抜けた”商品で新しい市場を開拓したい。アルビオンの“突き抜け方”は、大別すると2通り。1つ目は“フラルネ”のように、スタート時はおとなしくてもユーザーから評判がジワジワと広がり、スタッフとお店さまが一丸となって、その評価をより多くの消費者に伝えようと努力して成し遂げる突き抜け方。“フラルネ”においては、他社とは全く違う乳液の評判が広がりつつある中、ブライトニングシリーズを投入したり、新たなプロモーション施策に取り組んだりして、23年は大きく成長した。私たちが突き抜けていると思う商品を、より多くの消費者に実感いただけるようになった。2つ目は、“薬用スキンコンディショナー エッセンシャル”に代表される、すでに突き抜けている商品さえ「もっと突き抜けられる」と信じてアグレッシブに取り組むリニューアルだ。昨年は、美容液の“エクラフチュール”をリニューアル。独自の保湿成分“夢彩花エキス”(シャクヤク花エキス)など原料においても突き抜けた商品は、リニューアル以降、さらなる大きな結果につながっている。アルビオンのやり方では、突き抜けるのに時間がかかるかもしれない。スキンケアならなおさらだが、それでも構わない。夢中になって、魂が揺さぶられるような成功体験を味わうことで、関係者一同が「化粧品って、面白い!」と思えるような商品・ブランド価値の創造に取り組みたい。
WWD:自身に「魂が揺さぶられるような成功体験」がある?
小林:「ブルガリ」と作った“おしぼり”だ。“おしぼり界の「ロールスロイス」”を目指し、香水ではなく化粧水に浸したおしぼりを、4層構造のパッケージに収めて販売。世界中から注文が押し寄せ、2000万本を売った。輸入販売だけだと思っていた「ブルガリ」の香水ビジネスが広がり、「化粧品って、面白い!」と思った。「アナ スイ」の化粧品を立ち上げ、百貨店における化粧品の単日販売記録を樹立したのも、人生に一度あるかないかのサクセスストーリーだ。
WWD:振り返って、魂が揺さぶられるほどの成功に必要なものとは?
小林:当たり前を疑い、本気で「壊す」ことだ。その間に売り上げが下がっても構わない。本気で「壊す」のはとても難しいことだし、経営陣としてバックアップしきれていない反省もあるが、ヒットに恵まれてきた今なら失敗できる。今のヒットを将来のホームランにしたい。ヒットも打てないバッターには、ホームランは望めない。ただ今のアルビオンは、ヒットを飛ばし始めている。全体の8割に上るスキンケアとベースメイク商品は、1年でも、1日でも長く愛していただけるよう、1品1品を育てる。将来は手間暇をかけてリニューアルして、またみんなで一緒に育てる。育てるのが、アルビオンの文化だ。創業以来、時代の空気を吸ってきた。アルビオンらしく呼吸することで、あくまで作る商品は私たちらしく、そして唯一無二でありたい。
WWD:育て、突き抜けた商品が次々生まれた先にある理想像は?
小林:販売数量も大事だが、圧倒的な存在感を誇る会社だ。トヨタが年間約1000万台の車を販売する中、対するフェラーリは年間およそ1万数千台。でも多くの消費者にとって、その存在感はトヨタ以上だろう。
WWD:育てる商品を生み出すため、今後取り組むのは?
小林:会社が課す業務に割くのは、働く時間のおよそ半分。残りの半分で「やりたいこと」にトライできる環境を整えたい。「やりたいこと」は、予算も、期限も、目標も、発案者と組織の双方で確認しつつも個人の裁量に委ね、10回失敗した人を、何もしなかったから一度も失敗しなかった人より評価したい。「失敗しても良いから」「何をやってもいいから」「失敗もまた勉強だから」を表面的な言葉ではなく、全ての部署に通底している価値観や考え方にしたい。世に送り出そうとする商品について「売れ過ぎちゃったらどうしよう!?」なんて妄想できるくらい、提案から開発、商品化から販売に至るまで一貫してワクワクし続けられる会社でありたい。私は「みんなの給料を2倍にしたい」と思いながら日々の仕事に励んでいる。「やらされている」と感じるような仕事からは、突き抜けられる商品は生まれない。そしてアルビオンは商品のみならず、その流通から販売においても、存在感において一番になりたいと思っている。「化粧品業界でいい仕事がしたいなら、アルビオンだよね」と思ってほしい。
会社概要
アルビオン
ALBION
「日本一、世界一の高級化粧品メーカーを目指す」という夢を掲げて、1956年に創業。乳液先行の独自の美容理論を確立。主軸のスキンケアブランド「アルビオン」には、創業時から販売する乳液や、74年に誕生した“薬用スキンコンディショナー エッセンシャル”など、ロングセラー商品が多数存在する。そのほか「エレガンス」「イグニス」「ポール & ジョー ボーテ」「アナ スイ コスメティックス」などを手掛ける
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